七一、帰って来たフィレン
七一、帰って来たフィレン
「フィレンって娘、あの調子じゃあ、戻って来ないかもねぇ」と、ニルフが、ぼやいた。
「でも、帰る場所は、ここだけよ」と、アルカーナは、異を唱えた。最終的には、ここへ戻って来るとしか、考えられないからだ。
「でも、万が一って事も、考えられますから、捜しに行った方が、宜しいかと…」と、ラーサが、心配した。
「でも、誰も居なくなったら、困るんじゃない?」と、ミュールが、口を挟んだ。
「そうですね。一応、営業中ですので、留守にする訳にもいきませんわね」と、ラーサが、返答した。
「ミュール、レイミー。あなた達は、お留守番よ!」と、ニルフが、告げた。
「ええ〜!?」と、ミュールが、口を尖らせた。
「ミュールさん。ここは、ニルフさんの言う通りにしましょう。私達たは、街の事を知りませんので…」と、レイミーが、宥めた。
「そうね。迷子が、もう一人増えちゃうと、要ない用事が増えちゃうからねぇ~」と、ニルフが、からかった。
「うう…!」と、ミュールが、歯嚙みをした。
「ちょっと、言い過ぎじゃないの?」と、アルカーナは、意見した。今の物言いは、少々、頂けないからだ。
「確かに、今のは、ちょっと、言い過ぎたかもね」と、ニルフも、口籠った。
「ありがとう…。アルカーナ…」と、ミュールが、礼を述べた。
「そうですよ、ニルフさん。アルカーナさんの仰られる通り、ミュールさんが、ちょっと、そそっかしいからって、行方不明ってのは、言い過ぎですよ」と、レイミーも、口添えした。
「レイミー、“行方不明”って、どう言う意味かしらぁ〜?」と、ミュールが、殺気立った。
「あなた達、喧嘩をするんだったら、外でやりなさいよね! お店の物を壊しちゃうと、弁償しなきゃあならないからねぇ~」と、ニルフが、落ち着き払って、注意した。
そこへ、「皆の者よ、静まれ!」と、沙魅亜が、口を挟んだ。
「お師匠様、何を占って居られたのですか?」と、ラーサが、すかさず尋ねた。
「うむ。我々が出ずとも、戻って来るという占いが出た」と、沙魅亜が、淡々と回答した。
「じゃあ、フィレンさんは、帰って来られるのですね?」と、ラーサが、問うた。
「うむ。いつになるかは、判らんが、明るい時間か、それとも、真夜中になるかは、あの娘の気持ち次第かな」と、沙魅亜が、語った。
「まあ、あれだけ荒れてたから、気持ちの整理が付くまでは、時間が掛かるんじゃないかしら?」と、アルカーナは、口にした。あの剣幕では、すぐには帰られないだろうからだ。
「確かに、あの娘、ちょっと、跳ねっ返りな感じだから、下手に連れ戻そうとすると、意固地になっちゃうかもね」と、ニルフも、見解を述べた。
「そうね。逆に、気にしないで、待ってあげるべきかもね」と、アルカーナも、頷いた。敢えて、無視をしておいた方が、フィレンにとっては、戻り易いかも知れないからだ。
その直後、「ただいまぁ〜」と、フィレンが、帰って来た。
「思ってたよりも、早かったようね」と、沙魅亜が、飄々と言った。
「フィレン、短い家出だったわね」と、アルカーナは、皮肉った。下手に出ると、付け上がるからだ。
「ふん! 気分転換に、一回りしていただけよ!」と、フィレンも、すかさず言い返した。
「フィレンさん、後ろの御二方は?」と、ラーサが、問い掛けた。
「お姉さんが、連れの財布を拾ってくれたのよ」と、バニ族の盗賊が、あっけらかんと言った。
「へぇ〜」と、アルカーナは、疑惑の眼差しを、フィレンへ向けた。他人の財布を、持ち主へ返すような性格じゃない事を知っているからだ。そして、「本当は、違うんでしょ?」と、否定した。
「そうですね。フィレンさんらしくないと申しますか、何と申しますか…」と、ラーサも、補足した。
「なぁーんだ。お姉さんの手癖の悪い事を知って居るんだぁ〜」と、バニ族の盗賊が、溜め息を吐いた。
「アルカーナ。あんた、こういう時に限って、勘が鋭いんだからぁ〜」と、フィレンが、歯嚙みした。
「普段が、普段だからねぇ~」と、アルカーナは、悪びれる風も無く、言い返した。持ち主へ、財布を返す事など、万に一つも考えられないからだ。
「まあ、あんまり、お姉さんを責めないでね。あたしの連れにも、落ち度が在ったんだからさ」と、バニ族の盗賊が、取りなした。
「まあ、本職相手には、通用しなかったって事ね」と、アルカーナは、にやっとなった。上には上が居るものだからだ。
「調子が、悪かっただけよ!」と、フィレンが、語気を荒らげた。
「でも、フィレンの手癖を見抜くなんて、凄いわね」と、アルカーナは、感心した。フィレンが、やり込められて、小気味良いからだ。
「あなた達も、喧嘩をするのなら、表でやってね」と、ニルフが、口を挟んだ。
「ニルフさん、あんまり嗾けないで下さい!」と、レイミーが、意見した。
「そうよ! そうよ!」と、ミュールも、同調した。
「今のうちに、お互いが、納得するように、ぶつかり合った方が良いのよ」と、ニルフが、しれっと言った。
「確かに、戦地で、小競り合いされても、適わんな」と、沙魅亜も、賛同した。
「戦地って、ドファリームへ渡るの?」と、バニ族の盗賊が、尋ねた。
「ええ、そうよ」と、アルカーナは、即答した。そして、「あなた達は、渡る理由なんて、無いでしょ?」と、小首を傾いだ。特別な事情でも無い限り、危険な場所へ、身を投じる必要もないからだ。
「まあね」と、バニ族の盗賊が、即答した。
「ドファリームか…」と、ウルフ族の冒険者が、しみじみと口にした。
「あなたも、ドファリームの出身なの?」と、ニルフが、好奇の眼差しで、尋ねた。
「ん? 他にも、ドファリーム出身のウルフ族が、居るのかい?」と、ウルフ族の冒険者が、締まりの無い表情で、問い返した。
「ええ」と、ニルフが、力強く頷いた。そして、「今は、ちょっと、出掛けているんだけどね」と、告げた。
「名前は、何て言うんだい?」と、ウルフ族の冒険者が、興味を示した。
「フォッグ・シェルフって、名乗って居るわ」と、ニルフが、頬を赤らめながら、回答した。
その瞬間、「…!」と、ウルフ族の冒険者が、両目を見開いた。そして、「“ロヴェーナの風狼”と呼ばれるシェルフ家の方が…」と、声を震わせた。
「あなた、フォッグさんの知り合いなの?」と、ニルフは、眉を顰めた。
「ちょいとな」と、ウルフ族の冒険者が、言葉を濁した。そして、「何処へ行ったのか、判るかい?」と、尋ねた。
「明日の準備の為に、港の倉庫街へ、行ってますわ」と、ラーサが、回答した。
「あんた、同郷の人に会うまでに、あたしらは、やらなければならない事が有るでしょう?」と、バニ族の盗賊が、指摘した。
「へ、当てにならない情報よりも、港の倉庫へ行った方が、確実だぜ」と、ウルフ族の冒険者が、したり顔で、反論した。
「む…」と、バニ族の盗賊が、むくれた。
「外せない用事だったら、あたしが、フォッグさんに、伝えとくけど…」と、ニルフが、申し出た。
「俺らの用事は、どれくらい掛かるか判らんから、先に、港の倉庫の方へ向かった方が、早いだろう」と、ウルフ族の冒険者が、考えを述べた。
「はぁ〜。どうせ、何を言っても聞かないんだから、付き合ってあげるわよ」と、バニ族の盗賊が、諦めるように言った。
その直後、「お主らに、もう一つの再会が起こるという卦が、出とる!」と、沙魅亜が、告げた。
「もう一つの再会?」と、ウルフ族の冒険者が、眉間に皺を寄せた。
「あたし、占いの類は、信じて居ないの」と、バニ族の盗賊も、素っ気無く言った。
「御師匠様の占いは、本物です!」と、ラーサが、真顔で、訴えた。
「ラーサ。私の占いを信じる信じないは、二人の自由よ。私は、結果を助言しているだけ。当たり、外れは、二人が決める事よ」と、沙魅亜が、言い聞かせた。
「まあ、俺とマルツに関係有る奴との再会となると、まあ、限られて来るわな」と、ウルフ族の冒険者が、不敵な笑みを浮かべた。
「そうね」と、マルツが、冴えない顔で、相槌を打った。
「私が、倉庫まで、ご案内しましょうか?」と、ラーサが、申し出た。
「大丈夫よ。ロメナズ商会の倉庫くらい、すぐに見付かるわよ」と、マルツが、断った。
「でも、あなた達が、急に行っても、驚かすだけじゃないの?」と、アルカーナは、指摘した。面識の無い者が行ったところで、困惑するだけだからだ。
「確かに…」と、マルツも、理解を示した。
「ラーサは、店を離れる訳にはいかないから、あたしが、同行するのは、どう?」と、アルカーナは、提言した。自分と一緒ならば、マルツ達の身の証にもなると思ったからだ。
「そうね。猫耳族のお姉さんなら、安心かもね」と、マルツが、目を細めた。
「そうだな。伝手の有る者と一緒なら、不審者扱いされなくて済むからな」と、ウルフ族の冒険者も、賛同した。
「ニルフも、一緒に行ったら、どう?」と、ミュールが、半笑いで、促した。
「そうですね。そろそろ、フォッグさんが、恋しいんじゃないのですか?」と、レイミーも、口添えした。
「な、何よ! 二人共!」と、ニルフが、狼狽した。
「お店の事は、大丈夫ですので、ニルフさんも、行って下さい」と、ラーサも、促した。
「そ、そう!」と!ニルフが、嬉々とした。そして、「じゃあ、お言葉に甘えて…」と、小躍りした。
「フィレンは、どうする? 居心地悪いんじゃない?」と、アルカーナは、尋ねた。何となく、気不味いかと思ったからだ。
「ふん! あんたに心配されるほど、落ちぶれちゃあ居ないわよ! あんたと居る方が、余計に、居心地が悪いっての!」と、フィレンが、苛立った。
「あっそう。あたしも、同感だわね」と、アルカーナも、しれっと言い返した。要らぬ心配だったからだ。
「素直じゃないのねぇ~」と、マルツが、溜め息を吐いた。
「そうだな」と、ウルフ族の冒険者も、相槌を打った。
間も無く、アルカーナ達は、店を後にするのだった。




