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英傑物語  作者: しろ組


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六七、石頭魚釣り

六七、石頭魚(ストーン・カンス)釣り


 ゴルト達は、石頭魚を釣る為に、再び、デヘゴンの背に乗った。そして、豹紋族の娘に、ただの棒切れを渡された。

「おい、糸とか餌とかは無いのか?」と、ゴルトは、問うた。糸と餌が無ければ、釣りとしては、成立しないからだ。

「あっちらは、これで、石頭魚を釣ってるよ」と、豹紋族の娘が、屈託の無い笑顔で、返答した。

「どうやら、わしらとは、釣りの概念(がいねん)が、違うみたいじゃのう」と、ズニが、淡々と言った。

「手本を見せて貰えば、良いんじゃないのか?」と、ポットンが、提言した。

「そうだな。どのようにするのかも、面白いかもな」と、ゴルトも、頷いた。ポットンの言う事にも、一理在るからだ。そして、「一回、君のやり方を見せてくれ」と、要請した。

「うん」と、豹紋族の娘が、了承した。そして、棒の先端を(ひた)した。

 間も無く、黄色い異形の魚が、先端に食らい付いた。

 次の瞬間、「えい!」と、豹紋族の娘が、棒を引いた。そして、勢いそのままに、デヘゴンの背中まで引き上げた。

 黄色い異形の魚が、(くわ)えるのを止めるなり、のた打ち回った。

 そこへ、「えいやあ!」と、豹紋族の娘が、棒を振り下ろすなり、異形の魚の頭部へ、一撃を見舞った。

 その直後、異形の魚が、大人しくなった。

「仕留めたのか?」と、ゴルトは、目を見張った。見事な一撃だからだ。

「こいつ、頭(かた)い。あっちの一撃じゃあ、仕留められない」と、豹紋族の娘が、冴えない表情で、口にした。

「マジかよ!」と、ゴルトは、素っ頓狂な声を発した。信じられないからだ。

「こんなのに復活されたら、厄介じゃぞ」と、ズニが、眉を顰めた。

「ゴルトはん。早いとこ、一突きしてくれ!」と、ポットンが、急かした。

「剣で切るは、駄目! 石頭魚、不味くなる!」と、豹紋族の娘が、告げた。

「確かに、色んな物を切ったか判らないから、止めておこう」と、ゴルトは、聞き入れた。前の持ち主が、何を切って居るのか、知れたものではないからだ。

 その直後、石頭魚が、再度、のた打ち回り始めた。

「その棒を貸してくれ!」と、ゴルトは、要求した。

「ゴルトはん。自分のでやったらええやないか」と、ポットンが、指摘した。

「確実に仕留めたいからだよ」と、ゴルトは、語気を荒らげた。一本では、的確に当てられる自信が無いからだ。

「ほい!」と、豹紋族の娘が、差し出した。

 ゴルトは、左手で受け取った。そして、右手の棒を、石頭魚の頭頂部へ、振り下ろした。だが、石頭魚の鼻先を(かす)めて、デヘゴンの頭頂部へ食らわせてしまった。

 次の瞬間、「ンゴーン!」と、デヘゴンが、()えた。

「お前、下手くそ! 次、外すと、デヘゴン、乗せてくれなくなる!」と、豹紋族の娘が、代弁するかのように、語った。

「こう暴れられては、俺の手に負えないな」と、ゴルトは、表情を曇らせた。自分の技量で、石頭魚の頭部へ命中させられる自信が無いからだ。そして、「頭さえ動かなけりゃあ、何とかなるかも知れないんだけどなぁ〜」と、口を尖らせた。頭部さえ固定させる事が出来れば、仕留められそうな気がするからだ。

「ゴルトはん。力ずくで押さえるのは、難しいと思いますよ」と、ポットンが、異を唱えた。

「そうじゃのう。下手すると、川の中へ落とされかねん」と、ズニも、補足した。

「あっちも、力じゃあ、石頭魚には勝てない…」と、豹紋族の娘も、頭を振った。

「確かに、三人掛かりでも、厳しいだろうな」と、ゴルトも、頷いた。体力勝負となると、石頭魚の方に、()が有りそうだからだ。

「そうじゃ! お主、頭さえ動かなかったら、仕留められると申して居ったのう?」と、ズニが、唐突に、問うた。

「ああ」と、ゴルトは、面食らった表情で、頷いた。要は、頭部へ、一撃を見舞えれば良いだけだからだ。そして、「何か、お考えでも?」と、尋ねた。聞いてみる価値が有るからだ。

「うむ」と、ズニが、含み笑いをした。そして、「皆で力を合わせんと、成立せんからな」と、勿体振った。

「何だい? 早く教えてくれよ!」と、ポットンが、急かした。

「こういう事じゃ」と、ズニが、作戦を語り始めた。

 しばらくして、「確かに、そのやり方ですと、成功率が、格段に上がりますね」と、ゴルトも、賛同した。狙いを定め易くなるからだ。

「じゃあ、あっちがやるよ!」と、豹紋族の娘が、意気込んだ。そして、ゴルトの左手から、棒を取り戻すなり、釣った時と同じように、石頭魚の口へ、先端を近付けた。

 その瞬間、先刻と同様、石頭魚が、縦に嚙み付いた。

「ちょっと、位置が違うぞ」と、ポットンが、顔を顰めた。

「現実とは、こんなもんじゃよ!」と、ズニが、しれっと言った。

「早く、押さえるのを手伝ってくれ! あっちだけじゃあ、持ち堪えられない!」と、豹紋族の娘が、救援要請した。

「ああ!」と、ポットンが、応じた。

「うむ」と、ズニも、頷いた。

 間も無く、二人も、取り押さえるのに、加勢した。

 程無くして、石頭魚が、頭部以外の動かせる箇所を総動員で動かして、抵抗した。

「ゴルト、(はよ)うせえ!」と、ズニが、急かした。

「打ち辛い位置なんだよな…」と、ゴルトは、冴えない顔をした。水平にしないと、当てられないからだ。

「何だって良いから、当てて下さいよ!」と、ポットンが、叫んだ。

「あっちも、これ以上は厳しいよ!」と、豹紋族の娘も、訴えた。

「わ、分かったよ!」と、ゴルトは、石頭魚の頭頂部を打ち易いように、左側へ立つなり、右肩まで、棒の先端を振り上げた。この方法しか思いつかないからだ。そして、「ええい! ままよ!」と、振り下ろした。大人しくさせられるくらいの打撃(ダメージ)は、与えられると思ったからだ。程無くして、抜けるような音と共に、会心の手応えが在った。

 次の瞬間、石頭魚が、動きを止めた。

「どうやら、これで、大人しくなるかのう」と、ズニが、目を細めた。

「だと良いんだけどな」と、ポットンが、両手を放すなり、その場に座り込んだ。

「次は、決めてやるさ」と、ゴルトは、力強く言った。このやり方ならば、何とかなりそうだからだ。

「ホッホッホ。次は無いと良いんじゃがな」と、ズニが、口にした。

「確かに…」と、三人も、頷くのだった。

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