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英傑物語  作者: しろ組
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五、タコイムが、現れた!

五、タコイムが、現れた!


 ゴルトとバートンは、王都の南口へ移動していた。王都の周辺で、比較(ひかく)的、出現する怪物が、最弱だからだ。

「あの二人、一応、協力してくれているみたいだな」と、バートンが、口にした。

「そうみたいだな」と、ゴルトも、頷いた。今のところ、背後(はいご)から、追っ手の気配が無いからだ。

「このまま、南口まで()けたら良いけどな」と、バートンが、ぼやいた。

「確かにな。まあ、騒がれて当たり前なんだからな」と、ゴルトも、()えない表情で、同調した。脱走して居る訳だから、手配されても、仕方が無いからだ。

「でも、あの場面で、協力を求めるなんて、度胸(どきょう)が有るなぁ〜」と、バートンが、感心した。

咄嗟(とっさ)に思い付いただけさ」と、ゴルトは、謙遜(けんそん)した。偶々(たまたま)、提案を聞き入れて貰っただけだからだ。

「まあ、俺一人だったら、殺ってたかもな」と、バートンが、しれっと言った。

「お前の職業(クラス)は、(よご)れ仕事だからな」と、ゴルトは、理解を示した。盗賊(シーフ)は、(うら)の汚れ仕事をしなければならない時も有るからだ。

「まあな」と、バートンが、苦笑した。そして、「俺は、下っ端(パシリ)だし、殺しの方は、まだ、やった事が無いけどな」と、補足した。

「俺だって、戦場へ出た事が無いから、殺しが、どんなものか、さっぱりだぜ」と、ゴルトも、頭を振った。これまで(あや)めた相手は、茶虫くらいだからだ。

「確かにな。人を殺めるなんて、普通(ふつう)は、有り得ないよな」と、バートンも、頷いた。

「全くだ」と、ゴルトも、賛同した。そうする必要性は、皆無(かいむ)だからだ。

「まあ、極力(きょくりょく)、それは、やらないに越した事は無いだろうな」と、バートンが、眉根を寄せた。

「そうだな。まあ、人を殺めた事が無かったから、寸前で、止められたのかもな」と、ゴルトは、口にした。これまで、訓練で、寸前のところで、勝敗を決めて居たから、止められたのだと思ったからだ。

「あのデヘル兵も、命拾いしたって事だな」と、バートンが、納得した。そして、「経験を積んだ奴だったら、殺られて居たかもな」と、表情を強張らせた。

「かもな」と、ゴルトも、身震いした。他人の殺し方は、まだ(なら)って居なかったからだ。

「まあ、人を殺っちまったら、引き返せなくなるらしいぜ」と、バートンが、(しぶ)い表情で、告げた。

「そうかも知れないな」と、ゴルトも、表情を曇らせた。説得力が有るからだ。

 しばらくして、二人は、南口の近くへ差し掛かった。そして、周囲には、(なん)を逃れた者達の姿を見掛けるようになった。

「おいおい。結構、人が居るぜ」と、バートンが、見回しながら、口にした。

「どうやら、考えている事は、同じみたいだな」と、ゴルトも、苦笑いした。自分ら以外でも、同じ事を考えている者が、たくさん居るからだ。

「しかし、何かおかしいな」と、バートンが、歩を止めるなり、訝しがった。

 少し後れて、ゴルトも、左隣に立ち止まり、「どういう意味だ?」と、問うた。思うところが有りそうだからだ。

「こんな非常事態に、出口が混雑(こんざつ)して居るのは、おかしいって事だよ」と、バートンが、考えを述べた。

「確かに、何かおかしいな」と、ゴルトも、同調した。原因は、判らないが、何か引っ掛かるからだ。そして、「様子を見てみるか?」と、提案した。事の()り行きを見定めておくべきだからだ。

「いや。別の出口から出ようぜ」と、バートンが、示唆(しさ)した。

「別の出口?」と、ゴルトは、小首を(かし)いだ。そして、「戻って、近い方を目指すって事か?」と、尋ねた。南口を(あきら)めろと言われているようなものだからだ。

「ゴルト、何か(わす)れて居ないか?」と、バートンが、勿体(もったい)振った。

「別に…」と、ゴルトは、何食わぬ顔で、返答した。特に、思い当たる(ふし)は無いからだ。

「はあ〜」と、バートンが、溜め息を吐いた。そして、「俺の職業(クラス)だよ!」と、強調した。

盗賊(シーフ)が、どうしたってんだ?」と、ゴルトは、眉間(みけん)(しわ)を寄せた。言っている意味が、さっぱりだからだ。

「つまり、隠し通路から出ようって事だよ」と、バートンが、回答した。

 その瞬間、「そ、そうか!」と、ゴルトは、納得した。盗賊(とうぞく)組合(ギルド)しか知らない抜け道が在る事を、冒険者の心得(こころえ)的な授業(じゅぎょう)で、聞いたような気がするからだ。

「お前、他人(ひと)事だったから、聞いてなかったんじゃないのか?」と、バートンが、ジト目で、ツッコミを()れた。

「ははは…。面目(めんぼく)無い…」と、ゴルトは、言葉を(にご)した。確かに、冒険者になる気など、更々(さらさら)無かったので、話し半分にしか聞いて居なかったのは、確かだからだ。そして、「で、隠し通路って、近いのか?」と、問うた。距離(きょり)が、どれくらいなのか、知りたいからだ。

「ああ」と、バートンが、小さく頷いた。そして、「ここら辺は、比較的、被害(ひがい)も無さそうだから、多分、大丈夫だと思う」と、見解を述べた。

「確かに、岩人形や骸骨は、見掛けなかったな」と、ゴルトも、同調した。城の周辺でしか遭遇(そうぐう)して居ない事に、気付かされたからだ。

「ここからだと、あそこが近いな」と、バートンが、(つぶや)いた。

「あそこって?」と、ゴルトは、問うた。盗賊(シーフ)の考えは、想像出来ないからだ。

「付いて来な」と、バートンが、右を向いて、歩き始めた。

 少し後れて、ゴルトも、続いた。付いて行くしかないからだ。

 間も無く、二人は、路地へ入った。しばらく進むと、石造りの倉庫(そうこ)へ、行き当たった。

「ここから出られるぜ」と、バートンが、にこやかに告げた。

「おいおい。まさか、屋根(やね)に上って、壁を乗り越えようって言うんじゃないだろうな?」と、ゴルトは、顔を(しか)めた。見たところ、倉庫の屋根から、外壁(がいへき)を越える以外に、方法が思い付かないからだ。

「何を言っているんだ? 屋根から飛び下りたら、大怪我(けが)だぜ」と、バートンが、指摘した。

「でも、お前らみたいな身軽な連中の脱出方法は、それしか無いだろう?」と、ゴルトは、口を(とが)らせた。見たまんまの事しか言えないからだ。

「だからこその隠し通路なんだよ」と、バートンが、落ち着き払って言った。

「ああ」と、ゴルトは、(おう)じた。何かしらの意図(いと)が有るのだと察したからだ。

 程無くして、二人は、倉庫内へ移動した。

 バートンが、正面奥へ進んだ。そして、壁に突き当たるなり、(かが)んだ。少しして、床板(ゆかいた)を持ち上げた。その直後、抜け穴が現れた。

 その直後、「あ…」と、ゴルトは、呆気(あっけ)に取られた。このような形で、隠されているとは思いもしなかったからだ。

「さっさと、おさらばだぜ」と、バートンが、真っ先に、入って行った。

 少しして、ゴルトも、追った。程無くして、身を屈めながら先を行く、バートンの背中を視認した。そして、自らも、身を低くしながら、付いて行った。

 しばらくして、バートンが、止まった。そして、「えいや!」と、天井を押し上げた。その刹那(せつな)、外光が、差し込んだ。

「うわっ!」と、ゴルトは、目を(つむ)った。少々、(まぶ)しかったからだ。少しして、目を開けた。すると、バートンの姿が無かった。そして、「バートン、何処だ?」と、呼び掛けた。(わず)かな間に、居なくなっているからだ。

 程無くして、「ゴルト、大丈夫だから、出て来いよ」と、穴の方から、バートンの返事が有った。

 その直後、ゴルトも、前進して、穴から頭を出した。次の瞬間、「わっ!」と、(おどろ)の声を発した。(そば)に居るとは、思いもしなかったからだ。

「おいおい。そんなに驚く事は無いだろう」と、バートンが、半笑いで、溜め息を吐いた。

「ははは…」と、ゴルトは、苦笑した。そして、穴から()い出た。

「ゴルト、城の上空を見てみろよ」と、バートンが、右手で、指した。

 ゴルトは、振り返った。そして、あんなに、茶竜(チャイバーン)が、飛び回って居るなんて…」と、言葉を詰らせた。城の上空を暗雲のように、覆っている夥しい数を目撃したからだ。

「どうやら、あいつらは、統率(とうそつ)が、()れて居るようだな」と、バートンが、見解を述べた。

「そうだな。茶竜の襲撃は、受けて居ないな」と、ゴルトも、同調した。岩人形や骸骨みたいな見境(みさかい)の無い攻撃は、されて居ないからだ。

「まあ、デヘルの茶竜は、卵から育てられて居るから、大陸中では、一番、お行儀(ぎょうぎ)が良いって事か…」と、バートンが、皮肉った。

「確かに…」と、ゴルトも、相槌を打った。卵が(かえ)ってから手懐(てなず)けておけば、これほど頼りになる戦力は無いからだ。そして、バートンへ、視線を戻すなり、「取り敢えず、何処へ向かう?」と、尋ねた。いつまでも、突っ立って居る訳にもいかないからだ。

「取り敢えず、南下するとしよう」と、バートンが、回答した。

「南下か…」と、ゴルトは、表情を曇らせた。約一日歩き続ければ、ダーシモの港町が在るからだ。

「何だ? 不服か?」と、バートンが、凄んだ。そして、「嫌なら、戻って、茶竜とやり合ったって良いんだぜ」と、言い放った。

「別に、嫌じゃないさ」と、ゴルトは、頭を振った。港町へ行くのが不安じゃなく、これから先の事が、気掛かりだからだ。

 そこへ、(たこ)顔のぷるるんとした生物が、数匹現れた。

「ゴルト、タコイム達が、お出ましだぜ」と、バートンが、身構えた。

「まあ、初心者だから、なめられてても、仕方無いけどな」と、ゴルトも、頷いた。最弱の敵に、怯む訳にはいかないからだ。そして、剣を中段に構えた。雑魚(ざこ)だが、複数の出現ともなると、返り()ちにされるかも知れないからだ。

「ゴルト、ここは、お前に任せたぜ」と、バートンが、早々(はやばや)と丸投げした。

「おい! 俺だけにやらせようって言うのかよ!」と、ゴルトは、素っ頓狂(とんきょう)な声を発した。複数の相手は、未経験だからだ。

「お前、タコイムは、殴っても、効果(こうか)が無い事くらい判っているだろう?」と、バートンが、反論した。

「そりゃあ、そうだけど…」と、ゴルトは、顰めっ面をした。全てを相手するのには、手に(あま)るからだ。そして、「殴らなくても良いから、何匹かは、()き付けてくれよ」と、提言した。タコイム達に、タコ殴りにされるのは、ごめんだからだ。

「分かったよ。攻撃には参加出来ない分、何匹かは、惹き付けておいてやるよ」と、バートンが、承知した。そして、「痛いのは、ごめんだから、お前の分をさっさとやっつけてくれよな」と、注文を付けた。

「ああ」と、ゴルトは、頷いた。時間を掛ける気など無いからだ。そして、正眼(せいがん)の構えで、正面のタコイムと向き合った。

 その途端、タコイム達が、一斉(いっせい)に、飛び掛かって来た。

 次の瞬間、ゴルトは、全部の攻撃を食らってしまった。そして、右(ひざ)を着いた。タコ殴りが、これほど()くとは、思って居なかったからだ。

 その間に、タコイム達が、先刻の位置まで戻り、攻撃態勢を取って居た。

 ゴルトは、その様を見るなり、「このままじゃあ、また、食らっちまうな…」と、危機感を(つの)らせた。そして、先ずは、あいつからにしよう…」と、正面のタコイムを標的にした。ここは、真っ向勝負で、一匹に集中するべきだからだ。

 正面のタコイムも、やる気満々で、跳ねた。

「くっ! なめやがって!」と、ゴルトは、立ち上がった。何だか、イラッとなったからだ。そして、「今度は、こっちの番だっ!」と、()り掛かった。

 少し後れて、正面のタコイムも、飛び掛かった。

 程無くして、両者は、ぶつかった。

 ゴルトは、右手へ持ち替えるなり、振り下ろした。タコイムの体当たりよりは、早く斬撃(ざんげき)を与えられるからだ。

 タコイムも、最短距離で、まっしぐらに、突っ掛かって来た。だが、左(なな)めから切り()かれた!間も無く、両断されて、分離(ぶんり)した。

 ゴルトは、口元を(ほころ)ばせた。一撃で仕留められたからだ。その直後、タコイムの肉片が、両側を通り過ぎるのを一瞥(いちべつ)した。そして、周囲のタコイム達へ、(にら)みを()かせた。他の奴が、仕掛けて来るかも知れないからだ。

 その瞬間、タコイム達が、反転するなり、一目散に、逃げ出した。そして、あっと言う間に、居なくなった。

「ゴルト、やったな!」と、バートンが、背後から、声を掛けて来た。

 ゴルトは、(おもむ)ろに振り返り、「ああ」と、頷いた。その直後、「お前、タコイムを食って居るのか?」と、問うた。まさか、(なま)で、食べられるとは、思ってなかったからだ。

「そうだぜ」と、バートンが、(かじ)りながら、返事をした。そして、「こいつは、非常食になるんだぜ。まあ、パンキ・タコイムは、生では食べられないけどよ」と、説明した。

「へぇ~」と、ゴルトは、感心した。初耳だからだ。

「こっちをやるよ」と、バートンが、左手で、タコイムの右半分を差し出した。そして、「それを食っとけば、半日くらいは、大丈夫だぜ」と、告げた。

「そ、そうか…」と、ゴルトは、左手で、受け取った。少々、抵抗(ていこう)が有るからだ。そして、恐る恐る食するのだった。

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