四八、ロメナズ商会、再び
四八、ロメナズ商会、再び
ロメナズ商会へ、異種族の五人の男女が、訪れた。
ロメナズ商会の店主ロメナズは、すぐさま、店先へ出て、対応した。そして、「あのぅ。何か、お要り用でも?」と、穏やかな口調で、問い掛けた。
「ここへ来たら、ドファリームへ渡れるって、聞いたもんだからよ」と、大剣を背負っている鎖帷子を着たウルフ族の男が、応じた。
「ドファリームって、あんたは、ローヴェナの出身かい?」と、ロメナズは、尋ねた。訳有りな気がした。
「そうだ。俺は、フォッグ・シェルフ」と、ウルフ族の男が、名乗った。そして、「ちょっと、故郷が、心配になってな」と、言葉を続けた。
「なるほど。しかし、今は、船の手配が出来ないんだよ」と、ロメナズは、溜め息を吐いた。デヘルの軍船を相手に、商船が、敵う訳がないからだ。そして、「海賊船くらいの船じゃないと、ドファリームまでは、辿り着けないだろうな」と、ぼやいた。
「そう都合良く、海賊船が、現れてくれるかしら?」と、ウルフ族の男の左隣に居る銀髪のメギネ族の娘が、口を挟んだ。
「確かに、このような事態を想定して居ませんでしたので、そんなに都合の良い事が起きると思うのは、虫のいい事ですね」と、ロメナズは、苦笑した。
「そりゃそうだ」と、フォッグも、頷いた。
「で、あなたを含めて、五人が、ドファリームへ渡られたいのですか?」と、ロメナズは、問うた。人数は、把握しておきたいからだ。
「いや、俺と彼女だけだ」と、フォッグが、メギネ族の娘へ目配せした。
「なるほど。残りの方々は、お見送りか、何かですかね?」と、ロメナズは、人間の若者とバニ族の娘と猫耳族の娘を一瞥した。フォッグとメギネ族の娘からしたら、心許無い印象だからだ。
「まあ、今回は、事が事だけに、俺と彼女だけの方が、動き易いと思ったからな」と、フォッグが、理由を語った。
「そうですか。じゃあ、御二人を隊商の護衛として、登録しましょう」と、ロメナズは、口元を綻ばせた。フォッグとメギネ族の娘ならば、合格だからだ。
「ふん。まあ、当然よね」と、メギネ族の娘が、満面の笑みを浮かべた。
「失敗をやらかさなければ、良いんだけどねぇ〜」と、猫耳族の娘が、嫌味を言った。
「そうですわね。ニルフさんって、やり過ぎる事がありますので…」と、バニ族の娘も、補足した。
「二人共、僻まないの。文句を言うのなら、自分の身を守れるようになってから、言って頂戴ね」と、ニルフが、しれっと言い返した。
「…!」と、バニ族と猫耳族の娘達が、押し黙った。
「フォッグ、しばらくは、別行動になるな」と、人間の若者が、口にした。
「そうだな」と、フォッグも、頷いた。そして、「まあ、出発までは、日にちが有りそうだから、共に過ごせそうだけどな」と、言葉を続けた。
「うふふ。出発の日まで、どうやって、からかってあげようかしら?」と、ニルフが、含み笑いをした。
「あたしだって、あんたに、目一杯、文句を言ってやるんだから!」と、猫耳族の娘が、不敵な笑みを浮かべた。
少し後れて、「私も、ニルフさんに、やられっぱなしってのは、気に入りませんので、出発の日までに、一つくらいは、やり返させて頂きますわ!」と、バニ族の娘も、宣言した。
「良いわね。出発したら、しばらくは会えないんだから、やりましょう!」と、ニルフが、受けて立った。
そこへ、「只今、戻りましたぁ〜」と、ウルフ族の若者が、柔和な笑みを浮かべながら、割り入った。
「おお、ヴォルス。戻ったか!」と、ロメナズは、出迎えた。そして、「ラーサは?」と、問うた。ラーサの姿が、見当たらないからだ。
「もうすぐ、戻られる筈ですよ。それに、珍しいお客様も、一緒です」と、ヴォルスが、勿体振った。
「珍しい客?」と、ロメナズは、小首を傾いだ。いまいち、思い当たらないからだ。
間も無く、ラーサが、入って来た。
その後に、アルカーナとフィレンも、続いた。
最後に、先端の曲がった円錐の帽子を被った猫耳族の女占い師が、現れた。
その瞬間、「おお! 沙魅亜殿ではないか!」と、ロメナズは、驚きの声を発した。確かに、珍しい客だからだ。
「御無沙汰しております。ロメナズ様」と、沙魅亜が、一礼した。
「そうだね。あなたが、来られたという事は、ドファリームへ渡られたいと仰るのですな?」と、ロメナズは、尋ねた。デヘルの蛮行の被害者を導く為に、渡りたいのだと察したからだ。
「ええ」と、沙魅亜が、頷いた。
「父上。僕とラーサに、話って、何ですか?」と、ヴォルスが、質問した。
「お前とラーサに、我が商会の荷物を、ドファリームへ運んで貰おうと思ってな」と、ロメナズは、考えを伝えた。そして、「そこのフォッグ君とニルフさんが、同行者となる」と、紹介した。二人は、ほぼ、確定だからだ。
「二人だけですか…」と、ヴォルスが、表情を曇らせた。そして、「う〜ん」と、腕を組んだ。
「まだ、募集を始めたばかりだ。それに、戦をする訳じゃない。行ける所まで行ければ、良いんだからな」と、ロメナズは、淡々と言った。戦慣れをしていない二人に、無理は言えないからだ。
「あたし達が居る事も、忘れないでくれる?」と、アルカーナが、口を挟んだ。
「う〜ん。アルカーナは、ともかく、あたしの魔法の方が、当てになるわよ」と、フィレンが、不敵な笑みを浮かべた。
「それって、まるで、あたしが、“役に立たない”って、言いたい訳?」と、アルカーナが、ムッとなった。
「うふふ。あなたも、猫耳族には、苦労させられているみたいねぇ」と、ニルフが、口を挟んだ。
「へっへっへぇ」と、フィレンも、目を細めた。
「何か、ムカつくわね!」と、アルカーナが、不快感を露わにした。
「そうね」と、質素な服装の猫耳族の娘も、同調した。
「あなたも、同行して頂けますの?」と、ラーサが、大人しそうなバニ族の娘へ、声を掛けた。
「いいえ。私とミュールさんとトムさんは、同行しませんわ」と、大人しそうなバニ族の娘が、返答した。
「そうですの!」と、ラーサが、素っ頓狂な声を発した。
「ええ」と、大人しそうなバニ族の娘が、頷いた。
「私の判断で、今回は、断らせて貰ったのだよ」と、ロメナズが、理由を述べた。護る戦いは、難しいものだからだ。
「確かに、頭数を揃えても、良いってもんじゃないわね」と、沙魅亜が、口添えした。
「俺達は、駆け出しみたいなものだからな」と、トムが、眉根を寄せた。
「まあ、お子ちゃま達に、振り回されてたからねぇ」と、ニルフが、冷やかした。
「くっ…!」と、ミュールが、歯嚙みした。
「いや、俺の力不足だ」と、トムが、否定した。
「あ、あたしが、魔法を習得出来れば、もう少し、役に立てるのに…」と、ミュールが、悔しがった。
「なるほどね」と、アルカーナが、納得した。そして、「あたしも、魔法は、からっきしだけど、一応、細剣だけは、何とか、扱えるわよ。だから、やれる事を見付ける事を始めたら、どうかしら?」と、助言した。
「う〜ん」と、ミュールが、眉間に皺を寄せた。
「この様子だと、まだ、何も無いみたいね」と、アルカーナが、見解を述べた。
「まあ、素質だけは持っているんだけど、物覚えが悪いのよねぇ」と、ニルフが、補足した。
「う、うるさい!」と、ミュールが、語気を荒らげた。
「そうなんだ。まあ、ちょっとやそっとじゃあ、身に付かないから、毎日、続けるしかないでしょうね」と、アルカーナが、言葉を濁した。そして、「猫耳族同士、仲良くしましょうね」と、微笑んだ。
「うん!」と、ミュールも、力強く頷いた。
「あたし達も、結束よ!」と、ニルフが、フィレンへ、右手を差し出した。
「う〜ん。あたしは、同族だからって、気を許さないわよ」と、フィレンが、拒否した。
「そう。まあ、あたし達の種族って、身内には甘いけど、他人には冷たいからね〜」と、ニルフが、引き攣った表情で、告げた。
「だから、あんたは、跳ねっ返りなのよ!」と、アルカーナが、つっけんどんに指摘した。
「ふん! 余計なお世話よっ!」と、フィレンが、語気を荒らげた。
「確かに、余計なお世話かも知れないわね。でも、自分から敵を作るのなんて、自分の首を絞めているようなもんよ」と、アルカーナが、淡々と言った。
「あっそう!」と、フィレンが、ぶっきらぼうに、返答した。
「これ以上は、何を言っても、意味が無さそうね」と、ニルフが、溜め息を吐いた。
「そうね」と、アルカーナも、相槌を打った。
「いつもは、あんな感じじゃないんですけど…」と、ラーサが、表情を曇らせた。
「ラーサが、気にする事じゃないわよ。どうせ、いつもの気まぐれなんだから」と、アルカーナが、口にした。
「外の空気を吸って来るわ!」と、フィレンが、踵を返して、出て行った。
「メギネ族にも、色んな方が、居られるのですねぇ」と、フォッグが、印象を述べた。
「まあ、育ち方によって、様々ってところかしら?」と、ニルフが、回答した。
「あたしは、ニルフも、さっきの娘も、同じにしか見えないわね」と、ミュールが、見解を述べた。
「性格は、キツイし、お金には、ガメついわね」と、アルカーナが、補足した。
「あたしは、お金には、ガメつくありません!」と、ニルフが、語気を荒らげた。
「そうだな。俺達からすれば、頼れる魔法担当って、ところだな」と、トムが、口を挟んだ。
「だな!」と、フォッグも、力強く頷いた。
「そうね。爆炎魔法は、かなり、強烈だもんね」と、ミュールも、口添えした。
「でも、すぐに、使いたがるのが、ちょっと…」と、大人しそうなバニ族の娘も、冴えない表情で、補足した。
「フィレンも、そういうところが有るわねぇ〜」と、アルカーナも、同調した。
「へぇ〜。あの子も、爆炎魔法が、使えるんだぁ〜」と、ニルフが、感心した。
「危険が、倍になっちゃうわねぇ〜」と、ミュールが、顔を顰めた。
「そうですね…」と、大人しそうなバニ族の娘も、表情を強張らせた。
「まさか、頭に来ちゃうと、すぐに、爆炎魔法を脅しに使っちゃう性格かしら?」と、アルカーナも、尋ねた。
「…」と、ミュールと大人しそうなバニ族の娘が、頷いた。
その瞬間、「あ・ん・た・た・ち…!」と、ニルフが、引き攣った笑みを浮かべた。
「ニ、ニルフさん、落ち着いて…!」と、フォッグが、慌てて、宥めた。
「ご、ごめん…。何だか、聞いちゃあいけない事を聞いちゃったみたいね」と、アルカーナが、神妙な態度で詫びた。
「はっきりさせておいた方が、後々、お互いの為だと思いますよ」と、沙魅亜が、淡々と言った。
「確かに…」と、ロメナズも、相槌を打った。良かれ悪しかれ、気質を知っておいても、損は無いからだ。
「うふふ。フィレンさんが、もう一人増えたって感じですね」と、ラーサが、目を細めた。
「う〜ん」と、アルカーナが、口を尖らせた。
「で、父上。僕とラーサを呼ばれたのは、一応、商売の話ですよね?」と、ヴォルスが、問うた。
「うむ」と、ロメナズは、小さく頷いた。そして、「商売と言っても、扱うのは、金銭ではないがな」と、回答した。下手をすると、生命に係わる事になるかも知れないからだ。
「確かに、物騒な所へ荷物を運ぶのですから、儲けにはならないでしょうね」と、ヴォルスも、察した。
「そうだな。今回は、人助けみたいな事になるだろうからな」と、ロメナズも、語った。恐らく、デヘルの蛮行により、傷付いている者達が居るのだと、考えられるからだ。
「そんな事をしたら、うちは、潰れるかも知れませんよ」と、ヴォルスが、狼狽えた。
「それは、承知の上だ。わしは、蛮行で、無一リマの者から、金を取るほど、守銭奴ではないからな」と、ロメナズは、毅然とした態度で、口にした。金勘定だけが、商売ではないからだ。
「兄様。私は、父様の考えに賛成ですわ」と、ラーサが、賛同した。
「つまり、ラーサは、僕のお目付け役ですか…」と、ヴォルスが、ぼやいた。
「いや。わしは、相手から金を取ったところで、咎めやしない。荷を売ろうと配ろうと、それは、ラーサと相談して決めてくれ。あくまで、わしの一つの意見なのでな」と、ロメナズは、考えを述べた。ヴォルスの考えも、間違いではないからだ。
「はあ…」と、ヴォルスが、冴えない表情で、生返事をした。
「あたしは、ラーサとヴォルスが決めたら良いと思うから、口出しはしないわよ」と、アルカーナが、口を挟んだ。
「そうだな。判断は、二人に任せた方が良いだろうな」と、フォッグも、同意した。
「商いは、あたし達の専門外だからね」と、ニルフも、口添えした。
「責任重大だなぁ〜」と、ヴォルスが、弱音を吐いた。
「兄様、及ばずながら、私も、助力させて頂きますわ」と、ラーサが、告げた。
「そうだね。困った時には、頼むよ」と、ヴォルスが、承諾した。
「まあ、難しく考えるな。結果を恐れずに、正しいと思った事をすれば良い。正解なんて、在って無いようなものだからな」と、ロメナズは、柔和な笑みを浮かべながら言った。良くも悪くも、結果は、後から付いて来るものだからだ。
「はい!」と、ヴォルスとラーサが、同時に返事をした。
「沙魅亜殿は、二人に付き添う訳でもないでしょう?」と、ロメナズは、尋ねた。渡航する為の手段として、頼って来たと思っているからだ。
「ええ」と、沙魅亜が、頷いた。そして、「ロメナズ様の所だったら、ドファリームへ早く渡れる可能性が高いと思ったので、寄らせて頂いたのですわ」と、理由を述べた。
「残念ながら、手配の最中ですので、いつになるのやら、見当が付いていないのですよ…」と、ロメナズは、冴えない表情で語った。デヘル水軍と戦闘となったら、商船で渡るのは、不可能だからだ。
「ハークの時代の海賊って、今は居ないでしょう?」と、ヴォルスが、口にした。
「そうだな。海賊よりも、普通に、荷物を運んでいた方が、食べて行けるからな」と、ロメナズは、淡々と言った。そして、「せめて、海賊並みの気骨を持った者が残って居れば、良かったんだがな」と、溜め息を吐いた。
「そうですね。ハーク達は、デヘルのような悪徳役人を相手にして居たんですからね」と、フォッグも、同調した。
「ここでぼやいても、仕方が無いでしょ!」と、ニルフが、指摘した。
「駄目元で、私が、占ってみましょうか?」と、沙魅亜が、申し出た。
「まあ、気休め程度にはなるかな…」と、フォッグが、ぼやいた。
「沙魅亜様の占いは、当たるのですよ! 失礼な事を言わないで下さい!」と、ラーサが、食って掛かった。
「ラーサ、初対面の方は、そういうものよ。それに、私も、これまでが、偶々、的中したって訳だから、そんなに剥きにならなくて良いのよ」と、沙魅亜が、宥めた。
「まあ、あたしの姉さんも、真似事のような事をしているからねぇ〜」と、ニルフが、しれっと言った。
「確かに…」と、トムが、相槌を打った。
「まあ、当たるか、当たらないかは、置いといて。沙魅亜殿の見立てを聞かせて貰おうじゃないか」と、ロメナズは、提言した。参考にさせて貰うつもりだからだ。
「承知しました」と、沙魅亜が、快諾した。そして、「仕切り台を、お借りします」と、告げるなり、木箱のような鞄を開けて、両手に収まるか、収まらないかの大きな水晶玉を取り出した。
その間に、ラーサが、手提げ鞄から紫色の布を取り出して、広げるなり、仕切り台の上へ敷いた。
「ありがとう。ラーサ」と、沙魅亜が、礼を述べた。そして、水晶玉を、布の上へ置いた。その直後、両手を翳した。
ロメナズ達は、その様を注視した。
しばらくして、「明朝、一隻の船が、現れます…」と、沙魅亜が、告げた。
「つまり、その船が、ドファリームへ渡れる船って事なのか?」と、ロメナズは、尋ねた。準備に取り掛かるべきかどうか、判断が付かないからだ。
「現時点では、判りませんが、準備はしておくべきでしょうね」と、沙魅亜が、回答した。
「何だか、はっきりしねぇな」と、フォッグが、眉毛を寄せた。
「沙魅亜様の仰られるようにしておいても、損は無いですわよ」と、ラーサが、口添えした。
「よし、その船へ、荷物を積めるように、準備するとしよう」と、ロメナズは、決断した。当たっていた場合、後手に回る事になりかねないからだ。そして、「ヴォルス、港へ向かうぞ!」と、意気込んだ。自分のしてやれる事を、少しでもしておきたいからだ。
「はい! 父上!」と、ヴォルスも、即答した。
「俺も、手伝うよ!」と、トムも、申し出た。そして、「少しでも、力になりたいからさ」と、言葉を続けた。
「この流れで、俺だけが何もしないって訳にはいかないだろう」と、フォッグも、溜め息を吐いた。
間も無く、男衆は、店を後にするのだった。




