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英傑物語  作者: しろ組


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四三、橋を渡って

四三、橋を渡って


 ケッバー達は、(しば)しの休憩後、ヤッスルの作業小屋を後にして、下流へ向かって居た。

「ケッバーさん。軍とは、どの辺りで、合流するつもりですか?」と、ヤーベが、問うた。

「先刻の橋から、もう少し下流の見晴らしの良い場所で、合流しようと思う」と、ケッバーは、考えを述べた。距離(きょり)(かせ)いでおいた法が、(らく)だからだ。

「森の中だと、気が休まりませんものね」と、(さや)だけを差した兵士も、同調した。

「そうだな。合流したら、足並みを(そろ)えなければならないからな」と、ケッバーは、淡々と言った。勝手な行動は、許されないからだ。

「アフォーリーに怒鳴(どや)されるのは、勘弁(かんべん)だな」と、鞘だけを差した兵士が、おどけた。

「そうそう」と、ヤーベも、頷いた。

「まあ、そうならない為にも、先へ進む訳だからな」と、ケッバーは、口にした。二人の体力面も考えての先行だからだ。

 しばらくして、三人は、先刻の橋まで戻った。そして、立て標識を視認した。

「この先、“カンバー国”って書いているぜ」と、鞘だけを差した兵士が、読み上げた。

「森を抜けたら、草原に出るな」と、ケッバーは、補足した。そして、「俺達の任務は、あくまで、下流の港町までの安全確認だから、カンバー国へ行く必要は無いからな」と、言葉を続けた。川沿いに進むだけだからだ。

「そうですね。カンバー国へ行こうものなら、どんな目に遭わされるか…」と、ヤーベが、身震いした。

「見張りの件で、あれだけ怒鳴されたんだから、それ以上の(ばつ)を食らわされるかも…」と、鞘だけを差した兵士も、顔を真っ青にした。

「まあ、やるべき事さえやって居れば、奴も、(とが)める事は出来んだろう」と、ケッバーは、しれっと言った。自分の仕事さえ、しっかりやって居れば、(おく)する事も無いからだ。

「確かに」と、ヤーベが、気を取り直した。

「ですね」と、鞘だけを差した兵士も、相槌を打った。

「対岸へ渡るとしよう」と、ケッバーは、にこやかに言った。話して居ても、作業は、(はかど)らないからだ。

 間も無く、三人は、橋を渡った。そして、何事も無く、対岸へ辿り着いた。

 その直後、橋の真ん中の上空に、突然、二人の姿が、現れた。

 その瞬間、「あれは!」と、ケッバーは、咄嗟に、繁みへ、身を隠した。今朝、城ですれ違った魔導師達だからだ。

 少し後れて、ヤーベ達も、飛び込んで来るなり、背後で、身を低くした。

「ケッバーさん。あの二人は、何をするつもりでしょうかね〜?」と、ヤーベが、声を震わせた。

「そうだな。少なくとも、(ろく)な事をしそうにないだろうな」と、ケッバーは、冴えない表情で、口にした。何かしらの良からぬ事をしそうな雰囲気だからだ。

「まさか、橋を壊すつもりじゃ…?」と、鞘だけを差した兵士が、憶測を述べた。

「でも、進軍するには、不利益なだけじゃないのか?」と、ヤーベが、異を唱えた。

「そうだな。しかし、連中にとっては、その方が、都合が良いのかも知れないな」と、ケッバーは、淡々と言った。今朝(けさ)の様子からしても、何かしらの別の件で、動いて居る感じだからだ。

「確かに、誰も居ない牢屋へ向かうのは、おかしいですね」と、ヤーベも、同調した。

「隠し部屋的な所が在るとか…」と、鞘だけを差した兵士が、補足した。

「確かに、牢屋で目隠しをするのも、一つの方法だな」と、ケッバーも、頷いた。罪人(ざいにん)以外に、立ち入る事など無いからだ。

「あいつら、お宝を独占する気なんだろうぜ」と、鞘だけを差した兵士が、ぼやいた。

「いや。わざわざ、牢屋で偽装する方が、おかしい。別の何かが在ると考えるべきだろう」と、ケッバーは、否定した。お宝ならば、宝物(ほうもつ)庫にでも、入れて置けば良いからだ。

「魔導師達にとって、価値が有って、危険な物なんじゃないのか?」と、ヤーベが、指摘した。

「なるほど。奴らが、(ほっ)する物と言えば、“神魔大戦”の何かだろうな」と、ケッバーは、口元を綻ばせた。神魔大戦時の魔具(アーティファクト)なら、魔術師連中からすれば、価値の有る物に違い無いからだ。

「アフォーリーの奴は、気が付いて居なかったみたいだけどな」と、鞘だけを差した兵士が、皮肉った。

「そうだったな。まあ、俺らも、他人の事は言えないけどな」と、ヤーベも、口添えした。

「ははは。俺も、一晩居たが、全く気が付かなかったな」と、ケッバーも、自嘲した。仕掛けが在る事すら、気が付かなかったからだ。

「おいおい。火炎魔法で、橋を焼くつもりだぜ!」と、鞘だけを差した兵士が、告げた。

「あの輝きだと、目をやられてしまうから、目を逸らせ!」と、ケッバーは、指示した。陽光を凝視(ぎょうし)するくらいの輝度(きど)だからだ。そして、その場に伏せた。

 少し後れて、二人も、(うつぶ)せとなった。

 その直後、熱風が、頭上を通り抜けた。しばらくして、()し熱い空気が、周囲に漂い始めた。

 ケッバーは、恐る恐る顔を上げた。そして、橋の方へ、視線を向けた。次の瞬間、「え!?」と、素っ頓狂な声を発した。橋の両岸部以外は、消失していたからだ。

「ケッバーさん。軍は、川の中を進まなくちゃあなりませんね」と、ヤーベも、左隣て、目を瞬かせて居た。

「先に渡れて居て、良かったですねぇ」と、鞘だけを差した兵士が、安堵(あんど)した。

「そうだな。しかし、こんな事をして、何を考えているのやら…」と、ケッバーは、眉を顰めた。軍の進行を遅らせる意味が、理解出来ないからだ。

「ひょっとして、手薄になったところを狙って、秘密のお宝を調査したいとか…?」と、鞘だけを差した兵士が、推測を述べた。

「おいおい。的外(まとはず)れな事を言ってんじゃないぞ」と、ヤーベが、指摘した。

(あなが)ち、ハズレじゃないかも知れないぞ」と、ケッバーは、口元を綻ばせた。南軍進行の方へ、多くのデヘル兵を投入していると考えられるからだ。そして、「ここで、足止めさせておいて、時間を使わせて、進行を遅らせれば、連中の目的が、達成し易くなるって事なんだろうな」と、語った。一度、軍を動かすと、そう易々と戻れないものだからだ。

「まあ、知ったところで、俺らには、関係無いだろうけどな」と、鞘だけを差した兵士が、あっけらかんと言った。

「そうそう」と、ヤーベも、相槌を打った。

「確かにな」と、ケッバーも、頷いた。相手にしない方が、得策だからだ。

「ケッバーさん。軍と合流出来ないとなりますと、どうします?」と、ヤーベが、尋ねた。

「ダーシモへ行くとしよう。どうせ、目的地は、同じだからな」と、ケッバーは、回答した。遅かれ早かれ、合流出来るからだ。

 間も無く、三人は、再び、川沿いに、南進するのだった。

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