四二、星剣祭 −仕組まれた失格−
四二、星剣祭 −仕組まれた失格−
パレサとヤスタンは、何とか、闘技場内へ駆け込んで、開会式の開始直前に、滑り込んだ。そして、参加者達の最後尾で、顔を見合わせた。
「遅刻で、不戦敗だけは、格好悪いからな」と、ヤスタンが、口にした。
「ああ、全くだ」と、パレサも、同調した。何をしに来たのか、分からなくなるからだ。
「さっきの野郎はっと…」と、ヤスタンが、周囲を見回した。少しして、「やっぱり、参加出来なかったみたいだな」と、口元を綻ばせた。
「そりゃあ、直前になって、申し込んで、受理される訳無いだろう」と、パレサも、淡々と言った。いくら、親が偉くても、規則は規則だからだ。
「まあ、世の中を舐めているとしか思えないな」と、ヤスタンが、顔を顰めた。
「そうだな」と、パレサも、相槌を打った。思い付きで参加する態度は、頂けないからだ。
その間に、開会式が進行した。
突然、ホスゲが、進行役の兵士の所へ歩み寄るなり、何かを耳打ちした。
その直後、「え〜。ホスゲ様が、大会の参加を、長髪で、半裸のブヒヒ族の男とぼさぼさ頭の他所者に、妨害されたとの事です!」と、進行役の兵士が、告げた。
「嘘だろ!」と、ヤスタンが、素っ頓狂な声を発した。
「でたらめをっ!」と、パレサも、憤った。やり方が、汚いからだ。
程無くして、「あ、あの二人です!」と、ホスゲが、右手で指した。
「パレサ、どうする?」と、ヤスタンが、問うた。
「身の潔白を証明したいところだが、周りの雰囲気からすると、俺らは、悪者みたいだぜ」と、パレサは、場内の空気が悪いのを察知した。そして、「ここは、退散しよう!」と、提案した。ホスゲの嘘に付き合う気など無いからだ。
「そうだな。完全に、あいつの味方だからな」と、ヤスタンも、同意した。
その直後、二人は、反転するなり、駆け出した。闘技場を脱出する事が、先決だからだ。
「追え〜! 逃がすなぁ!」と、ホスゲが、意気揚々に、嗾けた。
そこへ、「静まれぇーっ!」と、威厳の在る男の声が、打ち消した。
次の瞬間、場内が、静まり返った。
パレサ達も、その場で足を止めるなり、振り返った。すると、ホスゲ達の居る所へ、青白い甲冑姿の騎士が、歩み寄るのを視認した。
「ち、父上…」と、ホスゲが、身震いを始めた。
青白い甲冑の騎士が、手前で立ち止まり、「ホスゲよ。先刻の言葉は、本当か?」と、厳かな口調で問うた。
「は、はい! その通りです! そこの出口の手前に居る二人の奴らです!」と、ホスゲが、右手の中指で指しながら、即答した。
「そうか。では、お前の指している二人に、来て貰うかな!」と、青白い甲冑の騎士が、言い分を聞き入れた。そして、「そこの二人、来て貰えるかな?」と、通る声で、要請して来た。
「ここは、はっきりさせたいから、応じるとしようぜ!」と、パレサは、意気込んだ。このまま逃げ回って居ては、ホスゲの思い通りになるだけだからだ。
「同感だ!」と、ヤスタンも、同意した。
二人は、足早に、ホスゲの前まで移動した。そして、対峙する事となった。
「ホスゲよ。この者らで、間違い無いのか?」と、青白い甲冑の騎士が、穏やかな口調で、尋ねた。
「はい、父上! ウェア家の家訓に誓って、嘘は申しておりません!」と、ホスゲが、自信満々に、告げた。
「そうだな。ウェア家の者が、大会を中断させてまで、嘘を申す訳が無いからな」と、青白い甲冑の騎士が、頷いた。
「おい! 先刻まで、参加申請をしていなかったんだぞ!」と、ヤスタンが、異を唱えた。
「貴様! 私の息子を、そうやって、恫喝したのかっ!」と、青白い甲冑の騎士が、怒鳴った。
「いや。その前に、俺の連れに、そいつが、ちょっかいを出して来たんだよ!」と、パレサも、口を挟んだ。どうも、雲行きが怪しいからだ。
「スーバル国筆頭騎士家のウェア家を愚弄する気なのかっ?」と、青白い甲冑の騎士が、睨みを利かせた。
「俺は、嘘は言って居ないぜ! 何度でも言ってやるよ! お宅の息子が、うちの連れに、ちょっかいを出したんだよ!」と、パレサは、毅然とした態度で、言い返した。先に仕掛けて来たのは、ホスゲの方だからだ。
「俺も、その現場を見て居るぜ! そいつの嘘は、明白だ!」と、ヤスタンも、口添えした。
「父上。こいつらは、口裏を合わせて居るんです! 私は、そのような不埒な真似なんて、出来ません!」と、ホスゲが、真っ向から否定した。
「分かった。私は、ウェア家の家系の者が、嘘をつくとは考えられん。なので、ホスゲの言う事を信じよう」と、青白い甲冑の騎士が、ホスゲの言い分を、すんなりと聞き入れた。
「やれやれ。息子が可愛いから、嘘をついていないとは…」と、ヤスタンが、頭を振った。
「言えてるな」と、パレサも、溜め息を吐いた。こんな嘘に乗っかられるのには、がっかりだからだ。
「私は、現場に居なかったのだから、息子の言う事を信じるのが、当たり前だろう」と、青白い甲冑の騎士が、しれっと言った。
「それじゃあ、公平性が無いじゃないかよ!」と、ヤスタンが、語気を荒らげた。
「そうだぜ。いくらなんでも、息子を贔屓し過ぎなんじゃなんのかっ!」と、パレサも、指摘した。過保護にも程が有るからだ。
「何だ? じゃあ、我が、ウェア家の騎士は、“嘘つき”って、申したいのかっ!」と、青白い甲冑の騎士が、威圧した。
「事実上、そうなるな! 俺らは、嘘は言ってないからな!」と、パレサは、自信満々で、告げた。事実を口にしているだけだからだ。
「俺らだって、引き下がらないぜ!」と、ヤスタンも、鼻息を荒くした。
「何と申そうが、私が、法で在る以上、ホスゲの言い分が正しいのだよ」と、青白い甲冑の騎士が、却下した。そして、「二人の参加資格を剥奪し、失格処分とする!」と、宣告した。
「くっ!」と、パレサは、歯嚙みした。このような形で、失格になるとは、思いもしなかったからだ。そして、ホスゲを一瞥した。
ホスゲも、半笑いで、見返して居た。
「ケッ! こんな大会、こっちから願い下げだ!」と、ヤスタンも、悪態をついた。
「ヤスタンは、関係無い! 失格を取り消してくれ!」と、パレサは、申し入れた。納得出来ないからだ。
「パレサ。俺は、後悔していない。あんな野郎と剣を交えるのも、ごめんだ」と、ヤスタンが、吐き捨てるように言った。
「さっさと去れ! 星剣祭が、始められん!」と、青白い甲冑の騎士が、急かした。
パレサとヤスタンは、無言のまま、踵を返した。しばらくして、入場口を潜り抜けるのだった。




