三九、言うべきか…。言わざるべきか…。
三九、言うべきか…。言わざるべきか…。
ルーマ・ヤーマ達は、先刻現れた黄龍について、議論を交わして居た。
「私は、ネデ・リムシー殿とダ・マーハ殿に、報告するべきだと思う!」と、ゴ・トゥが、力強く言った。
「そうだねぇ。あたしも、ゴ・トゥの言う通りにしといた方が、無難かと思うよ」と、ザ・ヤーキも、口添えした。
「それは、そうなのだが…」と、ルーマ・ヤーマは、口ごもった。素目補に尾行させていた件を咎められる気がするからだ。
「貴様、何か、後ろめたい事でも?」と、ゴ・トゥが、睨みを利かせた。
「あんた、抜け駆けする気じゃないんだろうねぇ?」と、ザ・ヤーキも、眉をを顰めた。
「抜け駆けする気は無いのだが、あの二人の行動が、些か、気になったものでね」と、ルーマ・ヤーマが、仄めかした。わざわざ、視察に来た事に、違和感が有ったからだ。そして、素目補の事を語った。
しばらくして「確かに、視察と言うのは、口実だろうな。それに、縁もゆかりも無い我らを牢屋から連れ出すのは、何かしらの裏が在るのかもな」と、ゴ・トゥも、口にした。
「あたいらを、こんな辺鄙な場所の番人にしておくんだから、何を考えているのやら」と、ザ・ヤーキも、訝しがった。
「確かにな。しかし、デヘル帝国の防衛拠点としか聞いていないのだが、デヘル軍の奴らが、立ち寄らないのは、おかしいだろ?」と、ルーマ・ヤーマは、見解を述べた。茶竜で、この渓谷を通過した方が、時間的にも、早いからだ。
「確かに、妙だな。まるで、この塔の存在を知られたくないんじゃないのか?」と、ゴ・トゥも、同調した。
「あたいらだけってのも、変だねぇ。デヘルの拠点だったら、兵士を何人かは、寄越す筈なんだがねぇ」と、ザ・ヤーキも、険しい表情をした。
「逆に、二人が、ここへ来れば、話を聞くには、好機かも知れんな」と、ゴ・トゥが、口元を綻ばせた。
「そうだな。疑惑は、早いうちに、取り除いておくべきだろうな」と、ルーマ・ヤーマも、賛同した。隠し事をされたままというのも、気分の良いものではないからだ。
「まあ、下に見られたままってのは、癪だからねぇ」と、ザ・ヤーキも、含み笑いをした。
「しかし、こちらの手の内を見せるのは、頂けんな」と、ゴ・トゥが、渋い顔をした。
「言えてるわね。黄龍の事は、言わない方が、良いかも知れないわね」と、ザ・ヤーキも、同調した。
「しかし、隠し通せるかどうか…」と、ゴ・トゥが、懸念した。
「まあ、バレた時は、バレた時ね」と、ザ・ヤーキが、あっけらかんと言った。
「バレたら、あの二人と事を構える気かっ!?」と、ゴ・トゥが、狼狽えた。
「さあねぇ。向こうさん次第よねぇ」と、ザ・ヤーキが、しれっと返答した。
「胆が、据わってやがる…」と、ゴ・トゥが、溜め息を吐いた。
「確かに…」と、ルーマ・ヤーマも、頷いた。レーア国で、軍務大臣まで上り詰めるだけの事は有ると、再認識させられたからだ。
「あたしも、今のところは、あの二人には、楯突く気なんて無いわよ」と、ザ・ヤーキも、考えを述べた。
「恐らく、現時点では、事を構えるような事は無いと思う。まあ、素目補の件だけにしておければ、御の字なんだがな」と、ルーマ・ヤーマは、口にした。素目補の件だけで、止めて置きたいところだからだ。
「黄龍の件は、我々で、内密に、処理した方が良さそうだなと、ゴ・トゥが、眉根を寄せた。
「まあ、どれくらいの仲間を連れて来るかだねぇ」と、ザ・ヤーキが、舌舐めずりをした。
「ここは、大軍では来られない場所だ。茶竜か魔術師の軍勢でも攻めて来ない限り、そう易々とは落とせはせんよ」と、ゴ・トゥも、余裕の笑みを浮かべた。
「そうだな。屋上さえ、守りを固めておけば、安泰というものだ。それに、地下の“アレ”が在る以上、我々の出番は無いがな」と、ルーマ・ヤーマも、含み笑いをした。この塔の主さえ壊されん限り、無敵だからな」と、したり顔をした。最下層にいる合成魔物の“クイン・メーカー”さえ無事ならば、進入者など恐るるに足らないからだ。
「私も、あんな規格外な魔物は、初めて見たよ。まあ、あの二人にしか出来ない芸当だろうな」と、ゴ・トゥも、印象を語った。
「確かに、ありゃあ、とんでもない化け物としか言いようが無いわね」と、ザ・ヤーキも、同調した。
「そうだな。俺の魔力でも、あんなに安定した魔物は、造れんな」と、ルーマ・ヤーマも、頭を振った。形を真似るところまでは、可能だろうが、生物としての機能をもたすのは、出来そうにないからだ。
「まあ、あの二人からすれば、我々は、下っ端程度にしか見ておらんのだろうな」と、ゴ・トゥが、淡々と言った。
「確かに、魔力と知識の量は、桁違いだからな」と、ルーマ・ヤーマも、頷いた。自分よりも、格上なのは、間違い無いからだ。
「まさか、このまま、下に見られっぱなしって事はないだろうね?」と、ザ・ヤーキが、顰めっ面をした。
「そうだな。低く見られるのは、気に食わんからな」と、ルーマ・ヤーマも、口にした。自分にも、自尊心が有るからだ。
「今度、黄龍が現れたら、我らの手で、仕留めようではないか!」と、ゴ・トゥが、提言した。
「そうだな。あの様子だと、戻って来るやも知れんからな」と、ルーマ・ヤーマも、見解を述べた。何かしらの理由で来なかったと見るべきだからだ。そして、「二人には、片が付くまで、黙っておくとしよう」と、告げた。
ゴ・トゥ達も、小さく頷いて、同意するのだった。




