三七、対岸にて
三七、対岸にて
フェイリス達は、ウスロ川上流の塔の対岸の森の少し奥へ転移した。ルーマ・ヤーマ達に気付かれては、余計に、警戒されかねないからだ。
「フェイリスさん。あの塔が、例のやつですね?」と、ソドマが、尋ねた。
「ええ。恐らく、あの中に、ルーマ・ヤーマ達が居ると思うわ」と、フェイリスは、頷いた。反応的に、ルーマ・ヤーマの出現が、早かったからだ。
「出て来ないという事は、この位置だと、見付かっていないという事かしら?」と、エシェナが、口にした。
「そうね。恐らく、川の真ん中辺りまで、“感知魔法”を掛けていないのかも知れないわね」と、フェイリスは、見解を述べた。今回は、塔の方で、動きが見受けられないからだ。そして、「ソドマさん。あれは、“神魔大戦”と関係でも有りそう?」と、問うた。遺跡なのか、それを模倣した物なのか、判断出来ないからだ。
「僕の見立てでは、“ターガの塔”に、似ていますけど、この距離からでは、本物か、模倣した物なのか、判りませんねぇ〜」と、ソドマが、回答した。
「五〇〇年前の物にしては、妙に、土を被っていますねぇ」と、エシェナが、指摘した。
「そうだね。それに、世界魔術師組合の図書室では、ウスロ川流域の花黄岩は、硬くて、五〇〇年前当時の掘削技術では、歯が立たなかったみたいだから、遺跡じゃないかも知れないねぇ」と、ソドマが、補足した。
「じゃあ、何か、別の意味でも在るのかしら?」と、フェイリスは、小首を傾いだ。デヘルの侵攻と何らかの関係が有るのは、間違い無いからだ。
「そうですね。戦略的拠点的な役割でも担っているのかも知れませんね」と、ソドマが、考えを述べた。
「つまり、あの塔には、何か秘密が在りそうね」と、フェイリスは、口元を綻ばせた。ただの遺跡ならば、見付かった時点で、放棄するのだろうが、意図して造られた物ならば、出張ってでも、防衛しなければならないだろうからだ。
「だから、ルーマ・ヤーマが、現れたんじゃないんですか?」と、ソドマが、口にした。
「そうね。それに、ここからだと、ドナ国とローヴェナ公国の中間点にもなるわね」と、フェイリスは、見解を述べた。距離としては、どちらにも攻め易位置だからだ。
「ですね」と、ソドマも、頷いた。そして、「しかし、こちらから攻めるのは、難しいですね」と、眉根を寄せた。
「レーア国の時みたいに、少人数で攻め込むしかないでしょうね」と、エシェナが、口添えした。
「そうだね。あの時は、エシェナのお父さんや盗賊組合の方々が、囮をやってくれたから、旨く行ったけど、今回は、同じ手が通じるか、どうか…」と、ソドマが、難色を示した。
「そうですね。相手も、流石に、同じ手には引っ掛からないでしょうね」と、エシェナも、同調した。
「うん。それに、この場所では、囮役の人数も、限られるだろうからね」と、ソドマが、淡々と言った。
「構造が判れば、やりようも有るでしょうけどね」と、フェイリスは、ぼやいた。近付く事すら出来なかったからだ。
「そうですね。まあ、塔と言えば、上からか、下から入るのが、一般的ですからね。僕の見立てですと、上から入る方が、攻略し易いかも知れませんね」と、ソドマが、推測を述べた。
「その根拠は?」と、フェイリスは、尋ねた。それなりの考えが在るのだと思ったからだ。
「最上階の見晴らしが、良過ぎるからですよ」と、ソドマが、回答した。
「確かに、ルーマ・ヤーマが、すぐに現れたわね」と、フェイリスも、納得した。そして、「でも、下の方が、攻め易いんじゃなくて?」と、問うた。地形としては、上の守りを重点的に固めていると考えられるからだ。
「多分、地面に埋まっていたのでしょうから、下の入り口は、無いと思いますし、このような断崖絶壁を登ったり、森から来る者なんて、居ないと思いますよ」と、ソドマが、推測を語った。そして、「まあ、確認しないと判りませんけどね」と、補足した。
「確かに、花黄岩の殺風景な渓谷に来る人なんて、居ないでしょうね」と、フェイリスも、頷いた。こんな険しい森林地帯を歩いて来ようとは、思わないからだ。
そこへ、下流から、一頭の黄龍が、飛来した。
「何処の飛龍かしら?」と、フェイリスは、注視した。ルーマ・ヤーマの仲間かも知れないからだ。
「デヘルの伝令とか…?」と、ソドマが、口にした。
「でも、塔へ寄られるような気配は無さそうですよ」と、エシェナが、指摘した。
間も無く、黄龍が、塔へ向きを変えた。
少し後れて、デヘ顔の大蝙蝠が、最上階より、飛び出した。
程無くして、双方が、かなりの距離まで接近した。
その直後、黄龍が、黄色い息を吐き掛けた。そして、デヘ顔の大蝙蝠を包んだ。
次の瞬間、デヘ顔の大蝙蝠が、羽ばたくのを止めて、落下を始めた。
「あの黄龍は、黄色い霧みたいな物を吐きましたよ!」と、エシェナが、驚きの声を発した。
「あれは、多分、竜の息みたいなものだよ」と、ソドマが、回答した。
「花黄岩を食べに来たんじゃないかしら?」と、フェイリスは、見解を述べた。この渓谷は、花黄岩が豊富なので、食べに来たと考えられるからだ。
「確かに、花黄岩は、黄龍の大好物ですからね」と、ソドマも、同調した。そして、「あの息が、こちらに流れて来ますよ!」と、告げた。
「大蝙蝠が、気を失うくらいだから、早いとこ、退散しましょうか」と、フェイリスも、同調した。硫黄の濃縮された物だと推測出来るからだ。
「一先ず、ホロロの闘技場の前へ、転移して下さい」と、エシェナが、指定した。
「分かったわ」と、フェイリスは、即答した。すぐに、思い浮かんだからだ。その直後、「瞬間移動魔法!」と、唱えた。瞬時に、二人と共に転移するのだった。




