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英傑物語  作者: しろ組


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三一、ヤッスルの考え

三一、ヤッスルの考え


「ヤッスル。(いかだ)で下るとか言って居たが、ちょっと、呑気(のんき)過ぎるんじゃないのか?」と、ブーヤンが、指摘した。

「そうかぁ〜?」と、ヤッスルが、何食わぬ顔で、返事をした。

「あんまり、のんびりして居ると、デヘルの連中に、押し掛けられるかも知れんからな」と、ブーヤンが、(おごそ)かに言った。

「へ、押し掛けて来た時には、おいが、片っ端から張り倒してやらあ!」と、ヤッスルが、意気揚々に、返答した。

「ヤッスルさん。そりゃあ、無茶ってもんですよ!」と、ポットンが、口を挟んだ。

「わははは! 言ってみたまでの事よ!」と、ヤッスルが、豪快(ごうかい)に笑い飛ばした。

「おいおい…」と、ゴルトは、苦笑した。少々、なめて掛かって居る気がするからだ。

「面倒な連中に出食わす前に、早いとこ、出発の準備をして欲しいものじゃ」と、ズニが、ぼやいた。

「ズニ様、そう急かさないでくれよ。おいだけで下るつもりだったのが、こんな人数になっちまったんだからよ」と、ヤッスルが、眉根を寄せた。

「まあ、急に押し掛けた、わしらも、悪いがな…」と、ズニも、言葉を詰まらせた。

「そうだな。お前を()める言い方をして、すまん…」と、ブーヤンも、詫びた。

「いつもの癖が抜けないのだから、勘弁(かんべん)してくれ」と、ヤッスルも、(あやま)った。

「で、私達が乗れるとなると、どれくらいの時間が掛かるんだ?」と、ブーヤンが、問うた。

「今からだと、予定としては、川上から風が吹いているうちに、出発はしたいな」と、ヤッスルが、回答した。

「そんなに、時間は無いかも知れないな…」と、バートンが、表情を曇らせた。

「どういう事だ?」と、ゴルトは、小首を傾いだ。不都合な事でも有るような感じだからだ。

「つまり、川下りの距離を延ばせなくなるって事だ。追い風じゃなく、逆風になるからな」と、バートンが、説明した。

「その上、(しお)が満ちて来るから、条件は、良くないんじゃよ」と、ズニも、補足した。

「つまり、押し戻されるって事か…」と、ゴルトは、顔を(しか)めた。逆戻りという考えが、脳裏(のうり)()ぎったからだ。

「まあ、昼までに着きたければだけどな」と、ヤッスルが、口を挟んだ。そして、「急がなければ、夜には着ける筈だ」と、あっけらかんと言った。

「まあ、用を頼まれている訳でもないから、のんびりしても良いかもな」と、ゴルトも、同調した。何時(いつ)までに着かなければならないという事でもないからだ。

「確かに、のんびりと川下りに洒落(しゃれ)込むのも、(おつ)なものかも知れんのう」と、ズニも、賛同した。

「それは、平時だった時でしょうが!」と、ブーヤンが、語気を荒らげた。

「確かに、ゆっくりと川下りを出来れば良いけど、今は、どんな魔物が、襲って来るのか、判らないんだぜ」と、バートンが、難色を示した。

「そうそう」と、ポットンも、相槌を打った。

「ごもっとも」と、ヤッスルが、すんなりと聞き入れた。

「ははは…」と、ゴルトは、苦笑いをした。少々、気を抜いて居たからだ。

「確かに、川下りも、安全とは言えんかものう」と、ズニも、溜め息を吐いた。

「じゃあ、川下りを止めちまうか?」と、ヤッスルが、神妙な態度で、口にした。

「いや。川下りの線で、行動するとしよう」と、ブーヤンが、続行を促した。

「歩くよりかは、体力を温存(おんぞん)出来るからな」と、バートンも、口添えをした。そして、「それに、歩くのを嫌がっている奴らも居るしな」と、示唆した。

「ホッホッホ」と、ズニが、誤魔化した。

「へへへ…」と、ゴルトも、右手で、後頭部を掻いた。少々、楽をしたかったからだ。

「わ、わいは、まだまだ歩けますよ!」と、ポットンが、否定した。

「チャブリン達が、騒動しているから、ビ・チャブリンなんかも、騒動しているかもな」と、ブーヤンが、淡々と言った。

「確かに、連中には、気を付けんといかんな」と、ズニも、同調した。

「ビ・チャブリンって?」と、ゴルトは、小首を傾いだ。どのような“チャブリン”なのか、さっぱりだからだ。

「泳ぎに特化したチャブリンで、手足の指の間に、水掻きを持って居るんだ。泳ぎだけなら、半魚族並に、(うま)いだろうな」と、バートンが、回答した。

「水の中にも、チャブリンかよ…」と、ゴルトは、顔を顰めた。陸地だけかと思っていたからだ。

「水の中の方が、厄介かも知れんな」と、ヤッスルも、表情を曇らせた。

「そうですね」と、ポットンも、相槌を打った。

「まあ、水の中にさえ引きずり込まれなければ、大丈夫って事さ」と、ヤッスルが、あっけらかんと言った。

「だと良いんだがな」と、バートンが、冴えない表情をした。

「確かに、出ないという保証は無いだろうな」と、ブーヤンも、口添えした。

「そうじゃのう。何処から、魔物の襲撃を受けるか、判らんからのう」と、ズニも、眉根を寄せた。

「こっちも、気が抜けないって事だな」と、ゴルトは、苦笑いを浮かべた。歩くにせよ、筏で川を下るにせよ、どちらも、危険が(ともな)っているからだ。

「まあ、びびってても、何も出来んからな」と、ヤッスルが、口にした。

「そうだな。じっとしてても、どうにもならんからな」と、ブーヤンも、同調した。

「確かに、口を動かすよりも、体を動かさないとな」と、バートンも、頷いた。

「まあ、案ずるよりも、産むが(やす)しと言うからのう」と、ズニも、にこやかに言った。

「それも、そうだな」と、ゴルトも、聞き入れた。その時は、その時だからだ。

 間も無く、一同は、準備に取り掛かるのだった。

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