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英傑物語  作者: しろ組


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二九、ウスロ川上流

二九、ウスロ川上流


 ウェドネスとアマガーは、黄龍(キーちゃん)の好物の花黄岩の()れるウスロ川の上流の渓谷へ、向かって居た。

「あたいは、あんたの話を信じている訳じゃないのよ!」と、ウェドネスは、つっけんどんに言った。嘘だった場合は、蹴落としてやるつもりだからだ。

「僕は、嘘はつかないよ。それに、君を(だま)しても、得する事は無いからね」と、アマガーが、しれっと返答した。そして、「それに、他人を騙す程、(ひま)じゃないんだよ」と、言葉を続けた。

「ふ〜ん」と、ウェドネスは、聞き流した。嘘をつく奴ほど、自分は、騙さないと言うものだからだ。

「その様子ですと、完全に、疑って居ますね」と、アマガーが、指摘した。

「うん」と、ウェドネスは、すんなりと頷いた。胡散臭過ぎて、気を許せないからだ。

「まあ、疑うのは、君の勝手ですし、僕としては、黄龍に乗せて貰ったという目的が果たされましたので、別に構いませんけどね」と、アマガーが、淡々と言った。

「そうね」と、ウェドネスも、相槌を打った。自分が、勝手に疑っているのも、事実だからだ。

「僕は、デヘルで、錬金術を研究している学者なんですよ」と、アマガーが、自らの素性を明かした。そして、「黄鉄(きてつ)という古代技術の金属を復元しようと、硫黄を多く(ふく)んだ花黄岩を手に入れたい為に、君に近付いた訳なんですよ」と、理由を述べた。

「ふーん。でも、キーちゃん、大食いだから、あんたの取り分が、減っちゃうかもね」と、ウェドネスは、大げさに言った。食べ尽くすかも知れないからだ。

「確かに、その体を維持するには、地形が変わるくらい食べそうだね」と、アマガーも、肯定した。

「真に受けないで!」と、ウェドネスは、語気を荒らげた。肯定されると、逆に、イラッとなるからだ。

「そろそろ、渓谷ですね」と、アマガーが、話題を変えるように、告げた。

「そうね」と、ウェドネスは、生返事をした。そして、「花黄岩の在る所って、何処ら辺かしら?」と、問うた。外見からは、判断しにくいからだ。

「そうですねぇ。茶色い地層(ちそう)を探して下さい。酸化(さんか)して、茶色に変色していると思われますので」と、アマガーが、回答した。

「そうなんだぁ〜」と、ウェドネスは、感心した。そのような見付け方を、初めて知ったからだ。

 しばらくして、渓谷の中間地点に差し掛かった。そして、右前方に、深緑色の外壁の塔を視認した。

「おや? あのような場所に、塔が建って居るなんて、知りませんねぇ」と、アマガーが、興味津々に、言った。

「神魔大戦の遺跡か、何かじゃないの?」と、ウェドネスは、冷ややかに、指摘した。人知れず、遺跡という物は、在るからだ。

「確かに、そうかも知れませんね」と、アマガーも、同調した。そして、「少し、寄り道をして貰えませんかねぇ〜」と、要請した。

「しょうがないわねぇ」と、ウェドネスも、応じた。一応、様子は見ておくべきだからだ。そして、「キーちゃん。あの塔を回った後、ご馳走だからね」と、告げた。

「キー♪」と、キーちゃんが、歓喜の声を発した。そして、塔へ向きを変えた。

 少しして、塔から、デヘヘ顔の黒い大蝙蝠(こうもり)が、一匹飛来した。

「何だか、ムカつく顔ね! キーちゃん、ゲップよ!」と、ウェドネスは、(けしか)けた。締まりの無いデヘヘ顔が、イラッと来たからだ。

「キー!」と、キーちゃんが、黄色い霧状の(ゲップ)を吐いた。

 その直後、デヘヘ顔の蝙蝠が、まともに食らった。そして、動きを止めるなり、落下した。

「キーちゃんの息は、硫黄を凝縮(ぎょうしゅく)したやつだから、途轍(とてつ)もない(にお)の筈よ!」と、ウェドネスは、得意げに言った。まともに食らえば、意識を失うくらいの臭いと考えられるからだ。

「確かに、“百聞は、一見にしかず”ですねぇ」と、アマガーも、理解を示した。そして、「しかし、あのような顔の蝙蝠を見るのは、初めてですねぇ」と、見解を述べた。

「あたいも、あんないやらしいおっさん顔の蝙蝠を見るのって、初めてね」と、ウェドネスも、同調した。そして、「あの塔、何か怪しいわね」と、口にした。調べる必要性が、生じたからだ。

「乗り込むのは、()しましょう」と、アマガーが、提言した。

「あんた、ビビっちゃったの?」と、ウェドネスは、冷やかした。このまま引き返すのも、嫌だからだ。

「そうだね。こう言っちゃあ何だけど、僕達の目的じゃないし、危険を(おか)す必要は無いと思ったからさ」と、アマガーが、理由を語った。

「確かに、あの塔の調査じゃないし、本来は、花黄岩を採りに来ただけだもんね」と、ウェドネスも、理解を示した。アマガーの判断にも、一理有るからだ。そして、「花黄岩を採ったら、さっさと帰りましょう」と、割り切った。塔は、逃げないからだ。

「それが、賢明ですね」と、アマガーも、同意した。

「他に、花黄岩の採れそうな場所は、無いの?」と、ウェドネスは、尋ねた。おちおち、花黄岩の採取も出来やしないからだ。

「そうですねぇ。理想としては、あの塔の真下が、一番、良質な花黄岩を入手出来るのですが、さっきのような魔物に、妨害(ぼうがい)される(おそれ)が有りますので、引き返しながら、探すとしましょうか?」と、アマガーが、提案した。

「そうね。キーちゃんも、落ち着いて、食事をしたいだろうからね」と、ウェドネスも、賛同した。キーちゃんも、食事くらいは、ゆっくりしたいと考えられるからだ。

「キー!」と、キーちゃんが、機嫌良く鳴いた。

「じゃあ、決まりね」と、ウェドネスは、目を細めた。

「ですね」と、アマガーも、相槌を打った。

 間も無く、キーちゃんが、右へ旋回して、引き返すのだった。

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