二八、遭遇! オサッキノコ
二八、遭遇! オサッキノコ
ケッバーと二人のデヘル兵は、南の森の入口で、黄龍から降りた。軍の侵攻を潤滑に進める為、安全確認の印を付ける為である。
「ケッバーさん。俺ら、こんな任務は、初めてだから、教えて貰えねぇかな?」と、折れた剣を腰に差した兵士が、おどおどしながら、要請した。
「そうだな。今まで、他人の後ろばかり付いて行ってたから、前に出る任務なんて、初めてだな」と、鞘だけを差した兵士も、口添えした。
「そう畏まらなくても、良いさ。探りを入れた後で、近くの木の幹へ、矢印を描いたら良いだけの事だ。それに、危険ならば、逃げても良い」と、ケッバーは、助言した。あくまで、戦闘が、目的ではないからだ。そして、「まあ、やってみれば、仕事も、早く覚えられるものさ」と、言葉を続けた。
「そ、そうだね」と、折れた剣を差した兵士が、聞き入れた。
「いっちょ、やってみるかっ!」と、鞘だけを差した兵士も、意気込んだ。
三人は、街道から森の中へ進入した。しばらく、南へ進むと、無数の無残な遺骸が、転がっている現場に、差し掛かった。そして、チャブリン達が、腸や各部位をちぎって、むしゃぶり付いて居るのを目の当たりにした。
「うへぇ〜」と、鞘だけを差した兵士が、露骨に、嫌な顔をした。
「お、俺らには、無理ですぜ…」と、折れた剣を差した兵士も、及び腰になった。
「君らにとっては、酷なものだろうな」と、ケッバーは、しれっと言った。色んな現場を渡り歩いて居たので、嫌悪する感覚が、麻痺しているからだ。そして、右手で、剣を抜きながら、左半分の顔が、白骨化した幼子のちぎられた頭部をしゃぶって居るチャブリンの所へ、歩を進めた。食事が終わるのを待つ気など無いからだ。
少しして、チャブリンも、接近に気づくなり、しゃぶるのを止めた。そして、「チャーッ!」と、敵意を剥き出しにした。その直後、頭部を投げ捨てた。
少し後れて、周囲に居る数匹のチャブリンも、各々の持つ部位を投げ捨てるなり、戦闘態勢を取った。
「ケッバーさん。一人じゃあ、やばいんじゃないんですか?」と、折れた剣を差した兵士が、心配した。
「俺の心配よりも、自分の身を護る事に、専念してくれ。恐らく、標的に含まれている筈だからな」と、ケッバーは、背を向けたままで、返答した。二人を護りながら戦うのは、難しいからだ。
「わ、分かりましたっ!」と、折れた剣を差した兵士が、即答した。
「お、俺らだって、やれるところを見せないとなっ!」と、鞘だけを差した兵士も、気合いを入れた。
その間に、ケッバーは、幼子の頭部をしゃぶって居たチャブリンの数歩手前まで、接近した。
「チャーッ!!」と、幼子の頭部をしゃぶって居たチャブリンが、威嚇した。
「うるさい!」と、ケッバーは、一喝するなり、問答無用で、剣を振り下ろした。次の瞬間、脳天から股ぐらまで、一刀両断した。
間も無く、「チャ?」と、チャブリンの体が、左右に分かれるなり、離れ離れに倒れた。
周囲のチャブリン達が、その様を目の当たりにするなり、一目散に、繁みの中へ、走り去った。程無くして、気配が無くなった。
「へ、大した事無かったな」と、折れた剣を差した兵士が、得意げに言った。
「お前が、言うなよ!」と、鞘だけを差した兵士が、すかさず、ツッコミを入れた。
「チャブリン共の仕業にしては、少々、丁寧だな」と、ケッバーは、口にした。死体の損壊が、昨夜の集落の時よりかは、原形を留めているからだ。
「そうだね。俺の村の近くのチャブリンだったら、こんな綺麗な食べ方なんてしないな」と、折れた剣を差した兵士も、同調した。
「ヤーベ。ここいら辺の奴らは、お上品なんだろ」と、鞘だけを差した兵士が、冷やかした。
「さあな。あんまり、現場を見た事が無いから、何とも言えんよ」と、ヤーベが、言葉を濁した。
「俺も、こんな現場には出くわした事は無いが、チャブリンは、隅々まで舐め回すって話だし、殺られる側も、暴れるだろうから、動かなくなるまで、攻撃を加えるだろうから、原形を留めないのかもな」と、鞘だけを差した兵士が、憶測を述べた。
「確かに、暴れて居れば、まだ、死体の肉片なんかが、散らかっている筈だな」と、ケッバーも、同調した。しかし、ここの死体には、暴れて抵抗したような形跡が、見受けられないからだ。そして、「まるで、眠って居るうちに、殺られたような感じだな」と、見解を口にした。襲われたのなら、場が荒れている筈だからだ。
「でも、チャブリンが、眠り粉のような物を使うって話は、聞きませんよ」と、鞘だけを差した兵士が、異を唱えた。
「俺も、チャブリンが、寝込みを襲った話など、聞いた事が無いな」と、ケッバーも、眉間に皺を寄せた。これまで戦って来たチャブリンに、相手を眠らせる手段を使う者には出くわして居ないからだ。
「確かに、チャブリン共は、力任せに襲って来る連中だからな」と、鞘だけを差した兵士も、表情を曇らせた。
「この森の事は、判らないけど、眠り系の能力を使う何かが、居るって事だな」と、ヤーベが、奥歯に物の挟まった言い方をした。
「勿体振らないで、教えろや!」と、鞘だけを差した兵士が、促した。
「君の考えを言ってくれ」と、ケッバーも、要請した。チャブリンよりも、厄介な怪物を相手にしなければならないからだ。
「そうですね。私の住んで居た村の周辺を参考にしますと、オサッキノコとデヘガですかねぇ」と、ヤーベが、名を挙げた。
「オサッキノコは、昼行性で、デヘガは、夜行性だったな」と、ケッバーは、口にした。そして、「俺の推測では、オサッキノコが、関与していると考えられるんだがな」と、推測を述べた。進入口と現在位置の経路から考えると、入ってすぐに、オサッキノコに、眠らされたと考えられるからだ。
「私も、オサッキノコの胞子なら、大勢の人数を眠らせられますからね」と、ヤーベも、同調した。
「しかし、デヘガとも考えられるんじゃないのか?」と、鞘だけを差した兵士が、異論を述べた。
「それは、無いと思う」と、ケッバーは、否定した。そして、「わざわざ、危険を冒してまで、夜の森へ入りたいと思うか?」と、問い返した。足下の明るいうちに、通り抜けたいと思うのが、心情だからだ。
「そうなりますと、オサッキノコが、うろついて居るって事ですよね…」と、鞘だけを差した兵士が、表情を強張らせた。
「この経路は、避けるようにしないといけないな。その為に、来ているのだからな」と、ケッバーは、眉間に皺を寄せた。ウェドネスの居ない状態で、オサッキノコとの戦闘は、避けたいからだ。
「そうですね。進軍どころじゃなくなりますからね」と、ヤーベも、同調した。
「さっさと、ここを離れましょう」と、鞘だけを差した兵士が、提言した。
「ああ」と、ケッバーも、賛同した。一度、出直した方が、賢明だからだ。
「ケ、ケッバーさん…」と、ヤーベが、声を震わせた。そして、「ちょっと、遅かったかも知れません…」と、告げた。
「確かにな…」と、ケッバーも、承知した。オサッキノコが、正面奥から来ているのを視認したからだ。
「こ、こいつが、元凶だな!」と、鞘だけを差した兵士が、怯んだ。
「他には、居ないみたいだな」と、ケッバーは、周囲を一瞥した。他のオサッキノコは、見当たらないからだ。
「オサッサー」と、オサッキノコが、軽快な足取りで、歩み寄って来た。そして、数歩手前で、顔の周りに在る無数の突起状の部位から、液体を放った。程無くして、両断されたチャブリンの死体へ掛かった。
「ケッバーさん! イボ汁攻撃は、要注意ですよっ!」と、ヤーベが、警告した。
「そうみたいだな」と、ケッバーも、頷いた。チャブリンの遺骸が、瞬く間に、溶けたからだ。
「魔法か、飛び道具でも無い限り、倒せやしないぜ」と、鞘だけを差した兵士が、ぼやいた。
「確かに、あのイボ汁も、厄介だな」と、ケッバーも、表情を曇らせた。迂闊に、接近出来ないからだ。
「ケッバーさん。オサッキノコの胞子が、あいつの来た方向へ流れて居ますよ」と、ヤーベが、指摘した。
「確かに、風向きは、こっちが、風上のようだな」と、ケッバーも、木漏れ日の間を舞う粉状の物が、オサッキノコの後方へ飛散しているのを目視したからだ。その瞬間、口元を綻ばせた。胞子で、眠らされる脅威が、下がったからだ。
「ヤーベ、イボ汁は、どうにかならないのか?」と、鞘だけを差した兵士が、尋ねた。
「俺も、あんまり知らないな」と、ヤーベが、力無く言った。そして、「ひょっとすると、あのイボ汁は、故意ではなく、勝手に、噴出しているのかも知れないな」と、口にした。
「確かに、歩く度に、妙な所から、出しているみたいだな」と、鞘だけを差した兵士も、同調した。
「つまり、チャブリンの遺体へ掛かったのは、偶々だという事だな」と、ケッバーも、口を挟んだ。イボ汁の出る仕組みは、解らないが、やりようは、有りそうだからだ。
「取り敢えず、何かを投げて、イボを潰すしかないんじゃないか?」と、鞘だけを差した兵士が、提案した。
「そうだな。イボを潰せば、回数も、減るかも知れないからな」と、ヤーベも、賛同した。
「その役目は、二人に任せるとしようか…」と、ケッバーは、委ねた。そして、「イボ汁の出が悪くなったら、仕留めるとしよう」と、申し出た。自分で、殺った方が、確実だからだ。
「ここは、ケッバーさんの指示に従いましょう」と、ヤーベが、聞き入れた。
「そうだな。俺らの武器では、決定打にならないからな」と、鞘だけを差した兵士も、承諾した。
「取り敢えず、風向きと、この距離を維持しながら、オサッキノコへ、物を投げ付けてくれ」と、ケッバーは、指示した。イボ汁が、どれくらいで尽きるのか、判らないからだ。
「分かりました!」と、二人が、声を揃えた。そして、足下の枝やチャブリンが舐め尽くして間も無い人骨を拾い上げて、オサッキノコへ投げ付けた。その直後、オサッキノコの胴体へ、次々に、命中した。
次の瞬間、オサッキノコが、イボ汁と胞子を撒き散らした。
その間に、ケッバーは、近くの幹へ上って、枝葉の上に移動すると、仕留める頃合いを見定めた。半端な攻撃は、命取りになりかねないからだ。そして、ヤーベ達の居る方向の枝葉に跳び移りながら、移動した。
しばらくして、三人は、入口近くの林道まで、後退した。
「ちっ! しぶといな!」と、鞘だけを差した兵士が、吐き捨てるように言った。
「仕方無いさ。俺達の実力じゃあ、こんなもんだろうからね」と、ヤーベが、冴えない表情をした。
「でも、俺らの攻撃って、効いているんじゃないのか?」と、鞘だけ差した兵士が、指摘した。
「確かに、イボ汁と胞子の量は、減っているみたいだね」と、ヤーベも、頷いた。そして、「まあ、何も出なくなるまで、あいつに、物を投げ付けるだけだ」と、小石を投げ付けた。
「そうだな。オサッキノコを倒せとは、言われてないもんな」と、鞘だけを差した兵士も、小枝を投げた。
程無くして、二人の投擲物が、オサッキノコへ、見事に命中した。
間も無く、オサッキノコからは、イボ汁と胞子が、出なくなった。
その瞬間、ケッバーは、枝の上で立ち上がり、上段に構えると、オサッキノコの頭上目掛けて、飛び下りた。そして、落下の勢いを利用しながら、剣を振り下ろした。次の瞬間、オサッキノコの左側面から斬り付けた。瞬く間に、足先まで切断した。
少し後れて、オサッキノコが、前部だけ前進し、背部が、その場で、卒倒した。
「あ、あいつ、まだ、こっちに来てるぜ!」と、鞘だけを差した兵士が、恐れおののいた。
「仕留め切れなかったのか?」と、ヤーベも、狼狽した。
しかし、オサッキノコの前部が、数歩進んだ所で、前のめりに倒れた。
その間に、ケッバーは、着地をするなり、身構えた。一応、もう一太刀与える準備で居るからだ。
しかし、オサッキノコが、動く事は無かった。
しばらくして、「手強い奴だったな…」と、ヤーベが、右手で、胸を撫で下ろした。
「そうだな。まさか、お腹と背中が切断されても、動けるんだからよ」と、鞘だけを差した兵士も、苦笑した。
「君らが居なければ、俺も、何も出来なかっただろうな」と、ケッバーは、謙遜した。独りだと、イボ汁と胞子の複合攻撃で、逃げるしかなかっただろうからだ。
「俺達は、ケッバーさんの手伝いをしたに過ぎませんよ。オサッキノコを見ただけで、震え上がっちまいましたから」と、ヤーベが、身震いした。
「そうそう。ケッバーさんの指示が無ければ、どうなって居たか…」と、鞘だけを差した兵士も、補足した。
「そうか。そういう事にしておこう」と、ケッバーは、聞き入れた。
間も無く、三人は、印を付ける任務に就くのだった。




