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英傑物語  作者: しろ組


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二五、暗躍

二五、暗躍


 早朝、ロナ国の訓練所へ、(じん)を構えて居るアフォーリーの天幕(テント)の前に、ネデ・リムシーとダ・マーハが、転移した。

「リムシーよ、解っておろうな?」と、ダ・マーハが、尋ねた。

「ああ。解っている」と、ネデ・リムシーも、頷いた。表向きは、皇帝(カドゥ)の使いだが、本命は、別に在るからだ。

「まずは、ここのお偉いさんに、ご挨拶だな」と、ダ・マーハが、半笑いで、口にした。

「そうだな」と、ネデ・リムシーも、相槌を打った。ここの占領(せんりょう)軍の動向を見定めておきたいからだ。

「では、(まい)ろうぞ!」と、ダ・マーハが、意気揚々に言った。

「ああ」と、ネデ・リムシーも、応じた。

 間も無く、二人は、天幕へ入った。そして、正面奥に居る騎士風の男の前まで、歩を進めた。

「何だ? お前らは?」と、騎士風の男が、鋭い眼差しで、問うた。

「私共は、カドゥ陛下の(めい)により、各地の戦況を視察している者でございます」と、ダ・マーハが、一礼をした。

「視察だとぉ?」と、騎士風の男が、訝しがった。

「ええ。不測の事態が起こって居ないかと、巡回中なのですよ」と、ダ・マーハが、にこやかに、理由を述べた。

「そうか。だが、今のところ、不測の事態は起きて()らん」と、騎士風の男が、素っ気無く返答した。そして、「これから、ダーシモへ、軍を向かわせようと思って居るのだがな」と、口にした。

「しかし、ダーシモへは、森を抜けなければなりませんし、ダーシモも、戦闘準備を整えて居るでしょうから、ここのように行かないと思いますよ」と、ダ・マーハが、意見を述べた。

「だからこそ、時間を与えぬ為にも、軍を動かすのだよ」と、騎士風の男が、強気に言った。

「だったら、岩人形と骸骨を、お使い下され。軍が着く頃には、ダーシモも、陥落(かんらく)して居られる筈です」と、ダ・マーハが、提言した。

「それでは、デヘル兵が、無能と思われてしまう。それに、士気も下がる。なので、今回は、デヘル兵だけで、攻めたいと思う」と、騎士風の男が、(こば)んだ。

「そうですか…。我々は、閣下(かっか)の作戦に、口を挟むつもりは有りませんので、思うようにやって下さい」と、ダ・マーハが、すんなりと引き下がった。

「ああ。そうさせて貰うよ」と、騎士風の男が、淡々と言った。そして、「用が済んだら、さっさと出て行ってくれ。わしは、忙しいんだからな」と、仏頂面で、告げた。

「ダ・マーハ、私達も、王都の状況を見て回らねばならんので、自分達の仕事に専念しようではないか」と、ネデ・リムシーは、口を挟んだ。視察とは、只の口上(こうじょう)でしかないからだ。

「そうだな。わしらが、これ以上、長居をすると、お邪魔になるようだからのう」と、ダ・マーハも、賛同した。そして、「閣下、ご武運を…」と、一礼した。

 少し後れて、ネデ・リムシーも、頭を下げた。

 間も無く、二人は、(きびす)を返した。そして、外へ出た。

「で、リムシーよ。視察を始めるとしようかな?」と、ダ・マーハが、口元を綻ばせた。

「そうだな。城の周囲から始めるとしよう」と、ネデ・リムシーも、頷いた。王都の地下に、“神魔大戦”時代の迷宮が在るのは、調査済みだからた。

「じゃあ、向かうとしよう」と、ダ・マーハが、城門に続く小道(こみち)へ向かって、歩き始めた。

 ネデ・リムシーも、付いて行った。ようやく、“神魔大戦”で、歴史上から“消された大陸”の手掛かりとなる“(カギ)”に迫れるからだ。

「しかし、連中よりも、早く手に入れんと、どうなる事やら…」と、ダ・マーハが、ぼやいた。

「そうだな。それに、まだ、この大陸には、進出していないようだし、一つでも、我々が、入手しておくべきだろう」と、ネデ・リムシーも、考えを述べた。同じ目的の別の組織(クラン)の存在を、ライランス大陸で、確認しているからだ。

「確か、“ジャプレ教”とか言ってたかのう」と、ダ・マーハが、あやふやな物言いをした。

「そうだ。ワトレを本拠地にしている筈だ」と、ネデ・リムシーは、回答した。活動内容は知らないが、邪神を崇拝(すうはい)しているという噂を耳にした事が有ったからだ。

「わしが(あが)めるのは、魔神“ゲヒカラー”様だけだがな」と、ダ・マーハが、あっけらかんと言った。

「そうだったな。お前は、“ゲヒカラ教”の最後の信徒だったな」と、ネデ・リムシーは、理解を示した。“神魔大戦”以降、(すた)れてしまった“ゲヒカラ教”の敬虔(けいけん)なる司祭である事を思い出したからだ。

「おいおい。まさか、忘れて居った訳じゃあるまいな?」と、ダ・マーハが、おどけながら、問うた。

「ははは、まさかな…」と、ネデ・リムシーは、言葉を濁した。“ゲヒカラー”を信仰(しんこう)して居ないので、少々、忘れかけて居たからだ。

 少しして、二人は、城門へ差し掛かった。そこで、手長ウキキ族の傭兵と二人のデヘル兵に、出くわした。

「ふん。珍妙な組み合わせだな」と、ダ・マーハが、上から目線で、言った。

「あんたも、こんな瓦礫(がれき)の山へ足を運ぶなんて、物好きだな」と、手長ウキキ族の傭兵が、皮肉った。

「貴様らには、そのように見えるかも知れんが、わしらにとっては、意味が有るのだよ」と、ダ・マーハが、含みの有る物言いをした。

「どうせ、城の宝物庫が、目当てじゃないのか?」と、手長ウキキ族の左後ろの兵士が指摘した。

「早く見付けて、懐へ入れようってんだろうよ」と、その兵士の右側の兵士も、同調した。

「ふん。宝物庫の物なんぞ、金銭的な価値しか成しておらん。貴様らは、そのような事でしか、価値を見出(みいだ)せんだろうからな」と、ダ・マーハが、溜め息を吐いた。

「そうかも知れんな。あんたらの価値基準は知らんが、俺らは、金銭的な価値で、物事を決めているのは、確かだからな」と、手長ウキキ族の傭兵が、肯定した。

「ほう。中々、物分かりが良いようだな。ウキキ族の分際で」と、ダ・マーハが、嘲笑した。

「我々は、任務が有りますので、失礼します」と、手長ウキキ族の傭兵が、一礼をした。

 間も無く、三人が、訓練所の方へ、歩を進めた。

「ダ・マーハ。少し、からかい過ぎだぞ」と、ネデ・リムシーは、窘めた。本来の目的が、露見(ろけん)しないか、気が気でなかったからだ。

「ふん。ああいう低能な奴らを見ると、ついつい、からかいたくなるのだよ。それに、わしらの言っている事を、どこまで理解しているのやら…」と、ダ・マーハが、半笑いで、語った。

「ソリムでの失敗を繰り返さなければ良いのだがな…」と、ネデ・リムシーは、懸念した。同じ失敗は、ごめんだからだ。

 少しして、二人は、城門をくぐるのだった。

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