二四、興味深い
二四、興味深い
フェイリスは、円柱状の壁面が、緑玉で、出来た“月読の塔”の正面口から中へ入るなり、奥に在る昇降移動用の魔法が掛かった円盤に、早足で飛び乗った。一刻も早く、見た事を伝えなければならないからだ。
程無くして、円盤が、上昇を始めた。そして、瞬く間に、最上階へ辿り着いた。
その直後、フェイリスは、間髪容れずに、反転して下りるなり、通路を進んだ。少しして、扉に突き当たった。そして、右手の甲で、二回叩いた。
その刹那、「誰だい?」と、若者の声がした。
「フェイリス・アーマフです。急ぎ、御伝えしたい事が…」と、フェイリスは、告げた。対処が遅くなる程、世界に、混乱を来す案件だからだ。
「入り給え」と、若者の声が、促した。
「失礼します」と、フェイリスは、速やかに、入室した。そして、燈色の円錐の帽子を被ったバニ族の若者が、視界に入った。
「君の様子から察するに、例の二人が、絡んで居たようだね」と、円錐帽子のバニ族の若者が、落ち着き払って言った。
「はい…。それに、レーア国の罪人の一人も、確認しました…」と、フェイリスは、補足した。そして、ウスロ川上流の渓谷の件を語り始めた。
しばらくして、「なるほど。今回は、中々、大それた事をしてくれますね」と、円錐帽子のバニ族の若者が、淡々と言った。そして、「恐らく、我々の対策を施しているのは、必至でしょうね」と、言葉を続けた。
「そう考えても、おかしくないでしょうね」と、フェイリスも、頷いた。世界魔術師組合が、最も厄介の相手だと考えている筈だからだ。
「デヘルとドナの国境沿いの渓谷なんて、歩いて行ける場所ではないからな。それに、我らの手段も、限られる。守るには、良い場所かも知れんな」と、円錐帽子のバニ族の若者が、険しい顔をした。
「魔力干渉を受けない者達で、奴らの対策を打破するしかないでしょうね」と、フェイリスは、口にした。魔力を有さない者にとっては、仕掛けを破る事など、苦にならないだろうからだ。
「なるほど。しかし、その者らの当ては有るのか?」と、円錐帽子のバニ族の若者が、問うた。
「何人かには、声を掛けてみようかと思っているのですが…」と、フェイリスは、力無く回答した。危険を伴う話を受けてくれるか、どうか、自信が無いからだ。
「そうか。人選は、君に任せるとしよう」と、円錐帽子のバニ族の若者が、一任した。そして、「魔法は使えんのだが、かなりの知識を有する者が、“叡智の間”に、来ているのだが…」と、告げた。
「その方は、何者ですか?」と、フェイリスは、尋ねた。必要な人材だと直感したからだ。
「ウルフ族で、学者を目指しているソドマという若者だ」と、円錐帽子のバニ族の若者が、回答した。
「その手が有りましたか」と、フェイリスは、はっとなった。魔術師だけが、賢い訳ではないからだ。そして、「何故に、ここへ?」と、質問した。魔術師以外は、あまり訪れる者など居ないからだ。
「何でも、“神魔大戦”の事を詳しく知りたいとの事で、来たんだそうだ」と、円錐帽子のバニ族の若者が、事情を語った。
「確かに、“叡智の間”には、“神魔大戦”の史書の所蔵数は、世界の五指に数えられるくらい在りますからね」と、フェイリスは、納得した。初代組合長の魔導師ド・ラーグの施した時空魔法のお陰で、書物が、経年劣化で傷まずに、現代まで残っているからだ。そして、「ソドマさんに、会わせて頂けませんか?」と、面会を求めた。
「そうだね。面通しをした上で、君から、先刻の話をしてくれないかな?」と、円錐帽子のバニ族の若者が、提言した。
「ええ」と、フェイリスは、承諾した。現場を見た者が、説明するのが、適任だからだ。
「じゃあ、言霊の筒で、呼び出すとしよう」と、円錐帽子のバニ族の若者が、右手で、手前の卓上に在る水飲みのような筒を持つなり、「ソドマ君。至急、執務室へ来てくれ給え」と、呼び掛けた。
程無くして、「分かりました。すぐに行きます」と、筒から、穏やかな声が、返って来た。
「ウルフ族で、学者を志すなんて、珍しいわね」と、フェイリスは、感心した。ほとんどの者が、戦士を志願する種族だからだ。
「私も、彼が、これ程、勤勉な者とは思っていないよ。“神魔大戦”は、ほとんどの者が、御伽話としか捉えていないのだからね」と、円錐帽子のバニ族の若者が、嘆息した。
「そうですね。五〇〇年も昔の事なんて、誰も、興味を持たないでしょうからね」と、フェイリスも、同調した。古過ぎて、立証し難い案件だからだ。
「ダ・マーハとネデ・リムシーが現れるまでは、正直、私も、絵空事だと思って居たよ」と、円錐帽子のバニ族の若者も、自嘲した。そして、「あいつらの研究を軽く見た結果、ソリム国で起こした事件だよ。ハリア国王の御蔭で、被害を最少限に済ませられたが…。奴らを甘く見て居たようだ…」と、眉間に皺を寄せた。
「ええ。まさか、ドファリームへ渡って、デヘルと組んでいたのに気付けなかったのは、大失態でしたわね…」と、フェイリスは、言葉を詰まらせた。デヘルの大侵攻並びに、塔の出現までも、出し抜かれたのは、痛恨の極みでしかないからだ。
「君が、責任を感じる事じゃないよ。これは、魔術師組合全体の失態だよ」と、円錐帽子のバニ族の若者が、告げた。そして、「この責任は、組合長の私が受けるよ」と、決意を述べた。
「しかし…」と、フェイリスは、難色を示した。責任を転嫁しているような感じだからだ。
「これだけの事をやられて、私が、責任を取らないのは、無責任というものだ。ドファリームの件で、方が着いたら、この地位を返上するよ」と、円錐帽子のバニ族の若者が、熱っぽく語った。
「はあ」と、フェイリスは、生返事をした。とんでもない失敗をやらかしたのだと、認識させられたからだ。
そこへ、「あのぅ。組合長さん。何か、御用でしょうか?」と、大人しそうな若い声が、割り込んだ。
「あ! こっちへ来給え」と、組合長が、右手で、手招きをした。
少しして、分厚い本を、左脇に抱えたウルフ族の若者が、フェイリスの右隣に立った。そして、「僕、何か、不味い事でもしたのでしょうか?」と、不安げに尋ねた。
「いや、違うんだ」と、組合長が、頭を振った。そして、「話は、君の隣のフェイリス君から、聞いてからだよ」と、告げた。
分厚い本を持ったウルフ族の若者が、向くなり、「ソドマ・ラッツェと申します」と、柔和な笑みを浮かべながら、挨拶をした。
「フェイリス・アーマフと申します」と、フェイリスも、会釈をした。そして、ウスロ川の上流の渓谷の件を語り始めた。
しばらくして、「興味深いですねぇ」と、ソドマが、締まりの無い顔となった。少しして、我に返り、「どうして、僕に?」と、問うた。
「あなたが、適任かと、組合長と話して居たのよ」と、フェイリスは、理由を述べた。そして、「無理にとは言いませんけど…」と、補足した。やるか、やらないかは、本人次第だからだ。
「確かに、魅力の有るお話ですね。でも、ドファリームともなると、かなり遠いですよねぇ〜」と、ソドマが、眉根を寄せながら、躊躇した。
「急な話だから、断っても良いんだよ」と、組合長が、助言した。
「う〜ん。独りだと、手に余るかと思って…」と、ソドマが、口にした。
「そうね。あなたのやり易いように、人選しても良いのよ」と、フェイリスは、提言した。ソドマの思うように任せるのも、アリだからだ。
「ひょっとして、君とは、別行動を取っている者達かい?」と、組合長が、尋ねた。
ソドマが、組合長へ向き直り、「ええ」と、頷いた。そして、「レーア国で、共に戦った三人とじゃないと、自信が持てませんので…」と、返答した。
「ひょっとすると、因縁なのかも…」と、フェイリスは、言葉を詰まらせた。そして、「ルーマ・ヤーマとも、お知り合いって事かしら?」と、質問した。どの程度、知っているのか、気になるからだ。
「そうですね。僕らは、直接は戦って居ませんけど、連れの母上が、隙を突いて勝ったのですよ」と、ソドマが、語った。そして、「三人にも、この事を伝えなければいけませんね」と、言葉を続けた。
「そうね。万全の態勢で、臨まないと、いけないわね」と、フェイリスも、理解を示した。侮れない相手なのは、確かだからだ。
「では、準備に取り掛かって貰えるかな?」と、組合長が、促した。
「はい! “神魔大戦”の調べ物よりも、ルーマ・ヤーマ達を野放しにしては置けませんので!」と、ソドマが、快諾した。
「で、後の三人は、すぐに、招集出来るのかしら?」と、フェイリスは、尋ねた。これ以上、後手に回りたくないからだ。
「皆、ちょっと、別々の用事で、離れ離れになって居ます」と、ソドマが、回答した。
「私が、瞬間移動魔法で、送ってあげるわよ」と、フェイリスが、申し出た。これくらいの手助けしかしてやれないからだ。
「でも…」と、ソドマが、畏まった。
「何か、問題でも?」と、フェイリスは、問うた。遠慮は、無用だからだ。
「瞬間移動魔法じゃなくても、歩いて回れるくらいの距離ですので…」と、ソドマが、理由を述べた。
「距離なんて、関係無いわ。時間との勝負なんだから」と、フェイリスは、しれっと口にした。今は、歩く時間さえも惜しいからだ。
「という事は、レーア国の二の舞いになり掛けているって事なのですね」と、ソドマが、察した。そして、「奪われた物を取り返すのは、大変ですからね。宜しくお願いします」と、応じた。
「先ずは、何処へ向かえば良いのかしら?」と、フェイリスは、質問した。ソドマの行きたい場所へ、行くつもりだからだ。
「そうですねぇ。星騎士団の在るスーバル国へ、跳んで頂けませんか?」と、ソドマが、要請した。
「スーバル国って、すぐ隣ね」と、フェイリスは、拍子抜けした。まさかの西の隣国だからだ。
「スーバル国の剣術大会へ、僕の親友のパレサが、参戦して居るんですよ」と、ソドマが、誇らしげに、語った。
「星剣祭ね」と、フェイリスは、納得した。星騎士団主催の剣術大会と言えば、他に考えられないからだ。そして、「私の肩に、手を乗せて頂戴」と、指示した。
「こ、こうですか?」と、ソドマが、右手を伸ばして、左肩へ乗せて来た。
その直後、「瞬間移動魔法!」と、フェイリスさ、呪文を唱えるのだった。




