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英傑物語  作者: しろ組


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一四、休める時に休む

一四、休める時に休む


 ケッバーとウェドネスは、黄竜で、南の森から、訓練場の上空まで戻って来たところだ。

大分(だいぶ)、穴だらけで、降りる場所が無くなって居るわねぇ〜」と、ウェドネスが、つっけんどんに言った。

「そうだな。まあ、仮設だが、デヘルの駐留場所になるのだからな」と、ケッバーは、見解を述べた。王都の中では、最も広い場所だからだ。

「まあ、岩人形や骸骨が、暴れ回って居たのだから、(いた)んでても、仕方が無いわよねぇ〜」と、ウェドネスが、ぼやいた。

「そうだな。それに、あんな魔物達(れんちゅう)を、何処から仕入れて来たのかだな…」と、ケッバーは、表情を曇らせた。(いくさ)というよりも、大量虐殺(ぎゃくさつ)にしか思えないからだ。

「団長。今回は、ヤバそうな気がしますよ」と、ウェドネスが、進言した。

「ああ。俺も、そう思う」と、ケッバーも、同調した。街の有様(ありさま)からすれば、長居はしない方が、良いような気がするからだ。

「団長、どうします?」と、ウェドネスが、尋ねた。

「抜けたいのは山々だが、今日出会った若者を見付けてからにしたいんだがな」と、ケッバーは、考えを述べた。どうにも、気になる存在だからだ。

「へぇ~。どんな奴なのか、気になるわねぇ〜」と、ウェドネスが、興味を示した。そして、「でも、何だか、()けちゃうわね!」と、嫉妬(しっと)した。

「ははは。君に、ヤキモチを妬かせるなんて、彼も、災難だな」と、ケッバーは、一笑に付した。恋愛感情など、微塵(みじん)も無いからだ。

「団長、降りるわよ!」と、ウェドネスが、唐突に告げた。

「ああ」と、ケッバーは、応じた。

「荒っぽくするわね」と、ウェドネスが、予告した。

 その直後、黄竜が、急降下を始めた。そして、地面へぶつかる手前で、翼を羽撃(はばた)かせて、急停止をするなり、ゆっくりと降下した。少しして、(おだ)やかに、着陸した。

 程無くして、「じゃあ、報告に行って来るよ」と、ケッバーは、飛び下りた。そして、眼前に在る一番大きな天幕(テント)へ、歩を進めた。間も無く、中へ入った。その直後、二人の兵士が、並んで居るのを視認した。

「お前ら、見張りの一つも出来んとは、(なさ)けない!」と、男の怒鳴り声がして来た。

 ケッバーは、二人の間から覗いた。何者かと、興味をそそられたからだ。程無くして、短髪で、目つきの悪い小柄で、小太りの騎士風の男を視界に捉えた。

 その刹那、「そこのウキキ族! 何を見てんだ!」と、騎士風の男が、凄んだ。そして、「見世物(みせもの)じゃねぇぞ! コラァ!」と、威嚇(いかく)した。

 ケッバーは、愛想(あいそ)の良い笑みを浮かべながら、「俺は、森の火災の件について、用件を伝えに来たんですが…」と、理由を述べた。まさか、とばっちりを食らわされるとは、思いもしなかったからだ。

「は? 森の火災だと?」と、騎士風の男が、訝しがった。

「一応、デヘル(そちら)の要請で、動いたんですがねぇ」と、ケッバーは、しれっと言った。デヘル軍の公認で出動したのは、確かだからだ。

「わしの耳には、入っておらん。しかし、傭兵風情(ふぜい)が、勝ってに動くとも思えん」と、騎士風の男とが、口にした。

「また、出直しましょうか?」と、ケッバーは、提言した。確認が取れてからの方が、良さそうだからだ。

「いや。その必要は無い」と、騎士風の男が、頭を振った。そして、「お前ら、持ち場へ戻れ」と、二人の兵士へ告げた。

「は、はい…」と、二人の兵士が、神妙な態度で、返事をした。そして、踵を返した。

 その瞬間、ケッバーは、おくびには出さないものの、目を見張った。顔見知りの牢番達だったからだ。

 間も無く、牢番達が、目を合わさずに、出て行った。

「じゃあ、貴様の報告を聞かせて貰うとしようか?」と、騎士風の男が、上から目線で、促した。

「分かりました」と、ケッバーは、応じた。そして、集落の件を語り始めた。

 しばらくして、「ほう。厶・チャブリンの襲撃により、集落は、壊滅(かいめつ)と申すか…」と、騎士風の男が、冴えない表情で、聞き入れた。

「ええ。この国の軍の騒動では、ありませんでした」と、ケッバーは、一応、見たまんまを報告した。ヤッスルの事は、伏せておいた方が、良さそうだからだ。

「ご苦労だったな。まあ、近々、新しい任務(にんむ)で、動いて貰う事になりそうだから、休んで貰って構わんぞ」と、騎士風の男が、素っ気無く言った。

「承知しました。その時は、また、宜しくお願いします」と、ケッバーは、(うやうや)しく一礼した。嫌な相手でも、頭を下げておいて、損は無いからだ。そして、背を向けて、天幕を後にした。

 間も無く、「団長。今夜は、何処で、休みます?」と、ウェドネスが、尋ねた。

「そうだな。デヘル兵達と一緒に寝るのは、嫌だろ?」と、ケッバーは、含み笑いをしながら、問い返した。

「うん」と、ウェドネスが、力強く頷いた。そして、「団長と一緒に居られる所が良いです!」と、願望を述べた。

「そうか…。しかし、寝心地の保証は出来んがな」と、ケッバーは、示唆した。快適(かいてき)とまでは行かないが、あまり、人の出入りの無い場所だからだ。

「構いません! 何処までも、御(とも)します!」と、ウェドネスが、承諾した。

「分かった。じゃあ、付いて来い」と、ケッバーは、右を向いて歩き始めた。

 少し後れて、ウェドネスも、足取り軽やかに、続いた。

 間も無く、二人は、城の正門(せいもん)に続く小道へ、進入した。やがて、正門に差し掛かった。

「団長、王族達の使って居た寝室でも確保して居るんですか?」と、ウェドネスが、上機嫌で、問うた。

「いや、違う」と、ケッバーは、否定した。その直後、右へ折れた。そして、「多分、王族の使って居た寝室(ところ)は、今朝の岩人形や骸骨の襲撃で、使用出来るような状態ではないだろう」と、言葉を続けた。場内のほとんどが崩落して、寝室まで行き着けないだろうからだ。

「じゃあ、兵舎(へいしゃ)のような所ですか?」と、ウェドネスが、落胆(らくたん)気味に、質問した。

「う〜ん。違うなぁ〜」と、ケッバーは、淡々と回答した。兵舎よりも、劣悪(れつあく)な場所だからだ。

「じゃあ、何処?」と、ウェドネスが、つっけんどんに尋ねた。

「もうすぐだよ」と、ケッバーは、勿体振った。二人の番兵が、見えて来たからだ。

「団長、まさか…」と、ウェドネスが、言葉を詰らせた。

「そのまさかだよ」と、ケッバーは、しれっと返答した。身の安全並びに、内輪での会話をするのには、最適の場所だからだ。

「まあ、団長の考え方には、合理性が有るからねぇ〜」と、ウェドネスが、ぼやいた。

「すまんな。デヘルの連中は、どうも、信じられんのでな」と、ケッバーは、詫びた。何時(いつ)、寝首を()かれるか、知れたものではないからだ。

「確かに、そうね」と、ウェドネスも、賛同した。そして、「多少、寝心地が悪くても、寝込みを襲われるよりは、マシね」と、補足した。

 少しして、二人は、番兵達の手前で、立ち止まった。

「さっきは、災難だったな」と、ケッバーは、声を掛けた。まさか、(しか)られて居るとは、思いもしなかったからだ。

「いやあ〜。ケッバーさんが、去った後で、アフォーリーが、視察に来たので、(もぬけ)(から)の牢屋を見て、どやされたんですよ」と、右の番兵が、語った。

「あいつ、立場の弱い奴の落ち度(ミス)を見付けちゃあ、説教をする嫌な野郎なんですよ」と、左の番兵も、口添えした。

「あなたのお陰で、助かりましたよ。うんざりして居たところなんですからね」と、右の番兵が、心境を述べた。

「まあ、間抜けな理由をでっち上げて、誤魔化しましたけどね」と、左の番兵も、冴えない表情で、補足した。

「そうか。まあ、本当の事は、言わん方が、身の為だろう。正直者が、損をするだけだからな」と、ケッバーも、同調した。怒鳴り散らす者ほど、周りをよく見て居ないという傾向(けいこう)が有るからだ。

「そうね。流石は、黒い(ブラック)国家ね」と、ウェドネスが、毒づいた。

「ははは…。確かに」と、右の番兵が、すぐさま頷いた。

「言えてるな」と、左の番兵も、同調した。

「で、ケッバーさんは、また、どうして、ここへ?」と、右の番兵が、怪訝な顔で、問うた。

「今夜、牢屋で寝かせて貰おうと思ってね」と、ケッバーは、返答した。そして、「どうだろう?」と、(うかが)った。駄目ならば、別の場所を探さなければならないからだ。

「俺らは、別に構わないけど、悪い事をして居ない人を牢へ入れるのは、気が引けるかなぁ〜」と、右の番兵が、難色を示した。

「じゃあ、あたいらが、野宿(のじゅく)したら良いって言うの!」と、ウェドネスが、凄んだ。

「いや、そう言う訳じゃ…」と、右の番兵が、(ひる)んだ。

「文句が無いんだったら、通してよね!」と、ウェドネスが、告げた。

「ははは。まあ、別に、文句は無いけどさ」と、右の番兵が、苦笑いを浮かべた。

「君らも、誰か居ないと、張り合いが無いだろう。急用の時には、呼んでくれ」と、ケッバーは、取り繕った。ウェドネスにまで食って掛かられては、(たま)ったものではないだろうからだ。

「そうですね」と、左の番兵が、相槌を打った。

「確かに」と、右の番兵も、頷いた。

「すまないが、我々は、休ませて貰うよ」と、ケッバーは、断った。自分達だけが休むのは、些か、申し訳ないからだ。

「団長、さあ行きましょう!」と、ウェドネスが、意気揚々に、言った。

「困ったものだな」と、ケッバーは、溜め息を吐いた。

 間も無く、二人は、番兵達の間を通り抜けるのだった。

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