一二一、お前は、何者だ!
一二一、お前は、何者だ!
スーバル国ウェア家当主ホーマー・ウェアは、自室に戻るなり、次第に、正気を取り戻した。星剣祭の開催前後に現れる“息子"と称す者に、憶えが無いからだ。そして、「私は、いったい、何を…?」と、眉間に皺を寄せた。加齢による記憶障害だと思ったからだ。
そこへ、「パパ上ぇ〜」と、見慣れない背の高い縮れ頭の男が、入って来た。
ホーマーは、戸口を見やり、睨みを利かせた。そして、「パパ上?」と、怪訝な顔をした。“パパ上"と呼ばれる筋合いなど無いからだ。
「どうしたんですか? パパ上ぇ〜? そんな怖い顔をしちゃって…」と、見慣れない背の高い縮れ頭の男が、馴れ馴れしく尋ねた。
「は? 私は、お前を知らんぞ! お前は、何者だ!」と、ホーマーは、語気を荒らげた。そもそも、独身なので、実子など居ないからだ。
「パパ上。僕の顔が分からなくなるくらい耄碌されたのですか?」と、見慣れない背の高い縮れ頭の男が、苦笑した。
「何が可笑しい! 不審者め! 息子を騙るとは、図々しい! 成敗してくれるわっ!」と、ホーマーは、騎士剣を抜いた。取り入られるほど、耄碌して居ないからだ。
「はぁ〜。やれやれ。術が効き難くなったのですね」と、見慣れない背の高い縮れ頭の男が、半笑いで、戯けた。そして、「確かに、僕は、パパ上の“息子"じゃないよ」と、白状した。
「遂に、観念したかっ!」と、ホーマーは、口元を綻ばせた。すんなりと認めたからだ。そして、「誰か! その者を捕らえろっ!」と、叫んだ。
間も無く、数名の騎士が、駆け付けた。
「ホスゲ様、どうなされたのですか?」と、色黒の騎士が、問うた。
「パパ上が、僕の顔も思い出せないくらいに、乱心しちゃったんだよ」と、ホスゲが、理由を述べた。
「おい! 我が家に、“ホスゲ"という奴は居らんぞ!」と、ホーマーは、異を唱えた。家系に、“ホスゲ"という名前の者は、存在しないからだ。
「はっはっは! 確かに、ホーマー様は、御乱心なされてますなあ」と、色黒の騎士が、一笑に付した。
「僕、この家の家督を継ぐ気も無いし、転職しようと思うんだぁ〜」と、ホスゲが、左手の小指で、鼻を穿りながら、口にした。
「しかし、ホーマー様の一筆を携えて、隣国の女王の承認を頂かなければなりませんよ」と、色黒の騎士が、説明した。
「面倒臭いな」と、ホスゲが、口を尖らせた。
「家督も何も、貴様のような部外者に、一筆認めるのは、おかしいだろう!」と、ホーマーは、語気を荒らげた。縁も縁も無い者に、書いてやる必要は無いからだ。
「あっそう。僕も、別に、あんたの名前以外に用は無いし、別の者に書かせりゃ済むんだけどね」と、ホスゲが、淡々と言った。
「くっ…!」と、ホーマーは、歯嚙みした。得体の知れない者に、虚仮にされたのが、腹立たしいからだ。
「ホスゲ様。代筆となりますと、同等の者を立てなければなりませんぞ」と、色黒の騎士が、進言した。
「そうだな。そこら辺は、お前に任せても良いか?」と、ホスゲが、丸投げした。
「そうですね。ホーマー様が、錯乱されて居る以上、世界魔術師組合の組合長にでも、代筆して頂いた方が、宜しいでしょうね」と、色黒の騎士が、考えを述べた。
「よし、その方向で進めてくれ」と、ホスゲが、屈託の無い笑みで、快諾した。
「私は、正気だっ! お前達の好きにはさせん!」と、ホーマーは、驀地に、突っ掛かった。
「ホスゲ様を、御護りしろっ!」と、色黒の騎士が、警備兵達に、指示した。
その直後、数名の警備兵が、左右から飛び掛って来た。
間も無く、ホーマーは、取り押さえられてしまった。そして、「放せ! 放しやがれっ!」と、喚き散らした。
「パパ上、見苦しいですよ。それに、もう、誰も、あなたの言う事を聞く者なんて居りませんよ」と、ホスゲが、半笑いで、告げた。そして、「書類が出来れば、あなたは用済みです。ウェア家は、チョロかったですね」と、上から目線で語った。
「ぐぬぬ…。下衆め…!」と、ホーマーは、憎々しげに言った。腸が、煮えくり返るくらいに、怒りが心頭しているからだ。
「落ちぶれ騎士が、何を言おうと、痛くも痒くも無いですよぉ~」と、ホスゲが、小躍りしながら、おちょくった。そして、「もう会う事は無いので、ご機嫌よう〜」と、左手で、敬礼をした。
「さあ、立て!」と、警備兵が、無理矢理、力任せに、首根っこを引っ張った。
間も無く、ホーマーは、警備兵達に連行されて、退室させられるのだった。




