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英傑物語  作者: しろ組


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一一九、お前、ええ奴ぢゃのう!

一一九、お前、ええ奴ぢゃのう!


 ゲラーナ達は、透明の膜で、骨格が透けて見える魔物“スケル豚”と共に、ティーサの酒場へ帰り着いた。

「おい! 何で、こいつと一緒なんぢゃ!」と、オギャワが、拳を構えた。

「ちょっと、待て!」と、ゲラーナは、咄嗟に、制止した。そして、「こいつは、俺らとやり合う気は無いんだ」と、言葉を続けた。一応、敵ではないからだ。

「喧嘩なら、表でやんな」と、ティーサが、淡々と言った。

「こうなったのは…」と、ゲラーナは、事情を語り始めた。

 しばらくして、「何ぢゃ。もう、殴り合いはやらんと言うのか…」と、オギャワが、ぼやいた。

「あんたは、おでが憎いのか?」と、スケル豚が、きょとんとした顔で、質問した。

「いや…。憎いとかじゃなく、気が立って居たと言うか、何と言うか…」と、オギャワが、たじろいだ。

「多分、本能的に、オギャワが、あんたと拳を(まじ)えたんだと思うぜ」と、ゲラーナは、見解を述べた。脳筋ではあるが、一応、分別の付いた戦いをするからだ。

「なるほど。おで、嫌われているんじゃないんだな」と、スケル豚が、安堵した。

「そうぢゃな。わしの早とちりで、嫌な思いをさせて、すまんのう」と、オギャワも、詫びた。そして、「弟子が、先刻の戦いの怪我で、しばらく修行は出来んぢゃろう。代わりと言っては何ぢゃが、お前が付き合ってくれるとありがたいんぢゃがな」と、勧誘した。

「おでで、役に立てるんだったら、喜んで!」と、スケル豚も、快諾した。

「お前、ええ奴ぢゃな!」と、オギャワが、満面の笑みを浮かべた。

「しかし、モリータの奴は、どこまでも、性根が

腐って居やがるな!」と、鱗鎧の傭兵が、憎々しげに言った。

「だから、スケル豚も、俺達に、協力する気になったんだよ」と、ゲラーナは、補足した。仲間達を、下衆魔犬(ゲスベロス)の餌にした上に、その肉片を結合させて、“茶死人(チャンビ)”として、使役(しえき)する行為に、反吐(へど)が出そうなくらい胸くそ悪いからだ。

「あの野郎、屋敷の中へ引っ込みやがったしなっ!」と、蜥蜴族の戦士も、吐き捨てるように言った。

「あいつ、この街へ来て、すぐに威張って居たから、何かおかしいと思ったさね。すでに、エ・グリン候爵と繋がって居たって事さね」と、ティーサも、納得した。

「話を聞いていると、制裁(ヤキ)を入れたくなるのう!」と、オギャワが、引き攣った笑みを浮かべた。

「そうだな。今回ばかりはな」と、ゲラーナも、同調した。今回ばかりは、看過出来ないからだ。

「また、行くのかぁ〜」と、蜥蜴族の戦士が、冴えない表情をした。

「流石に、連戦は、俺も厳しいと思うぜ」と、鱗鎧の傭兵も、口添えした。

「おでも、この人数で乗り込むのは、頂けないな」と、スケル豚も、難色を示した。

「弟子を、ここまでやられておいて、黙っちょれるかっ!」と、オギャワが、語気を荒らげた。

「ウガ…ガ…」と、日輪大熊猫が、弱々しく鳴いた。

「ほれ、わしに、仇を取ってくれと言うちょるぢゃろうが!」と、オギャワが、都合の良い解釈をした。

「ちょっと待て! そうは言っていないと思うぞ!」と、ゲラーナが、即座に、否定した。寧ろ、行って欲しく無さそうな感じだからだ。

「ふん! わしを行かせたくないから、いちゃもんを付けとるんぢゃろうが!」と、オギャワが、殺気立った。

「ちょっと良いかい?」と、スケル豚が、口を挟んだ。

「何ぢゃ!」と、オギャワが、喧嘩腰に、問うた。

「おで、一応、弟子が言った事が分かる」と、スケル豚が、告げた。

「ほう。()うてみい!」と、オギャワが、促した。

「う〜ん。でもなぁ〜」と、スケル豚が、渋った。そして、「おでの事を信じられないのなら、言っても、意味無いしな」と、口ごもった。

「確かに」と、ゲラーナも、頷いた。今の状態では、耳を傾けそうもないからだ。

「鼻の中に、“ワビサビ”でも突っ込むかい?」と、ティーサが、半笑いで、口を挟んだ。

「余計に、暴れるぞ…」と、蜥蜴族の戦士が、指摘した。

「分かった! 分かった! お前の事を信じちゃる!」と、オギャワが、聞き入れた。そして、「で、何て言うたんぢゃ?」と、尋ねた。

「“一眠りしたら、乗り込もう”って」と、スケル豚が、代弁した。

「そうか。わしだけが、逆上(のぼ)せあがっちょったみたいぢゃのう。こいつの気持ちなんぞ、一つも考えて居らんかったわ!」と、オギャワが、落ち着きを取り戻した。

「日輪大熊猫の奴も、今回の件は、かなり、むかついているのかもな」と、ゲラーナは、推測をを述べた。一眠りしてまでも、腹立たしいのだと察したからだ。

「おい。俺も、混ぜてくれないか…?」と、人面下衆魔犬が、申し入れた。

「人面下衆魔犬、気が付いて居たのか?」と、スケル豚が、尋ねた。

「ああ。つい、さっきな」と、人面下衆魔犬が、返答した。

「そうか。でも、おでは、エ・グリン様達と敵対する事になるんだぞ」と、スケル豚が、告げた。

「俺も、エ・グリンとは、縁を切るつもりだったんだ」と、人面下衆魔犬も、口にした。

「モリータって奴が、原因か?」と、ゲラーナは、問うた。何やら、因縁(いんねん)のようなものを感じたからだ。

「それも在る!」と、人面下衆魔犬とスケル豚が、声を揃えた。

「まあ、モリータの下ってのは、お前らでも、自尊心(プライド)が、傷付くわな」と、ゲラーナは、理解を示した。自分より弱い者としか喧嘩をしない性根の腐った下衆だと察しが付くからだ。

「何よりも、エ・グリンへの取り入り方が、いやらしい」と、人面下衆魔犬が、憎々しげに言った。

「うんうん」と、スケル豚も、相槌を打った。そして、「おで達を扱き使って、成功を、自分の手柄にして、失敗を転嫁して、おで達の所為にする!」と、スケル豚も、鼻息を荒くしながら、補足した。

「うへぇ〜。一番駄目な奴だな」と、鱗鎧の傭兵が、嫌悪した。

「タケバル団でも、お断りだろうな。うちの団長、そういうところは、はっきりしているからな」と、蜥蜴族の戦士も、口添えした。

「聞いているだけでも、ムカつくのう。その、モリータという奴は!」と、オギャワが、語気を荒らげた。

「しかし、エ・グリンって奴は、帝国を乗っ取ろうとした奴だからねぇ。仮に、モリータを追い出せたとしても、改心するとは限らないんじゃないのさねぇ」と、ティーサが、口を挟んだ。

「言えてるな。お前らが、モリータよりも、大事な存在ならば、誰かを送り込んで来るんじゃないか? それに、お前らが居なくなっても、気にして居ない感じだな」と、ゲラーナは、喧嘩を述べた。人面下衆魔犬の事を気にしているように見受けられないからだ。

「そうだな。スケル豚だけを残して、さっさと逃げ出した感じだったな」と、蜥蜴族の戦士も、頷いた。

「どちらかと言えば、エバゴン三人衆を頼りにして居たっけな」と、人面下衆魔犬が、口にした。

「うんうん。まあ、エ・グリン様の眷族(けんぞく)だからなんだろうけどな。おで達が、物心付いた頃には、用事で居なくなってたがな」と、スケル豚が、語った。

「そうだな。ズニとか言う奴を(さら)って来るとか言ってたぜ」と、人面下衆魔犬も、補足した。

「ズニ…?」と、ゲラーナは、眉間に皺を寄せた。妙に、聞き覚えが在ったからだ。

「あたしの知り得る限りじゃあ、ドナ国の宮廷に居た“ホーホー族”の名前だったさねぇ」と、ティーサが、口を挟んだ。

 その瞬間、ゲラーナも、はっとなり、「確か、何かやらかして、地位を追われたって聞いたな」と、口にした。よくは、判らないが、責任を取らされたという話を聞いた覚えが在ったからだ。

「あたしの勘じゃあ、エ・グリン絡みで、追い出されたのかも知れないさね」と、ティーサが、推理した。

「また、何かをやらせようと企んで居るのかもな」と、ゲラーナは、表情を曇らせた。ズニを拉致(らち)ろうとしているのは、何かしらの利用価値が生じたと考えるべきだからだ。

「しかし、何処に居るのか、判らんだろう?」と、蜥蜴族の戦士が、指摘した。

「手掛かりも無しに捜すのは、効率が悪いぜ」と、鱗鎧の傭兵も、口添えした。

「そうだな。それに、生きているか、どうかも判らないしな」と、ゲラーナも、同調した。宮廷を追われた後の足取りは、知らないからだ。

「わしの“本能(かん)”ぢゃあ、ズニって奴は、生きちょるぢゃろう!」と、断言した。

「根拠は?」と、鱗鎧の傭兵が、問い掛けた。

「ガハハハ! 無い!」と、オギャワが、即答した。そして、「エ・グリンって奴は、悪知恵の働く奴だろうから、生きて居ようと、死んで居ようと、どっちでもええんぢゃろう。あいつの邸の空気は、性根の腐った臭いがしちょったからのう」と、見解を述べた。

「確かに、モリータ臭はキツイかもな」と、人面下衆魔犬も、同調した。

「うんうん。あいつだけ、別物の不快な臭いを放って居たな」と、スケル豚も、頷いた。そして、「おでと同じような、何かから造られたような…」と、冴えない表情で、印象を語った。

「なるほど。モリータは、人の(なり)をした異質な物って事か…」と、ゲラーナは、一定の理解を示した。モリータだけは、何か浮いているような感じだからだ。

「まあ、他の事は後回しにして、エ・グリンの邸を調べて、場合によっては、討伐も考えておかないとな」と、蜥蜴族の戦士が、話を戻した。

「そうさねぇ。これ以上、物騒になられちゃあ、面倒さね」と、ティーサも、賛同した。

「まあ、どう動くかは、モリータ次第ってところだろうな」と、ゲラーナは、口にした。モリータが、“下衆魔犬”や“茶死人”を差し向けて来るかも知れないからだ。

「そうだな。あいつ、かなり、根に持つ性分みたいだからな。恐らく、死んでも治らないかもな」と、スケル豚が、淡々と言った。

「まあ、ほとんどが、逆怨みだけどな」と、人面下衆魔犬も、補足した。

「うへぇ。怨霊(ゴースト)確定だな」と、鱗鎧の傭兵が、ドン引きした。

「面白そうぢゃのう。わしは、そういう奴と根比べをしたいんぢゃ!」と、オギャワが、口元を綻ばせた。

「おいおい。いくらあんたに根性が在るからって、無駄な事は止した方が…」と、蜥蜴族の戦士が、冴えない表情をした。

「心配は要らん。わしは、寝る!」と、オギャワが、その場で、横になった。

 ゲラーナ達も、休息を始めるのだった。

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