一一、後始末
一一、後始末
ケッバーとウェドネスは、ヤッスルとポットンの姿が見えなくなると、集落の消火作業に取り掛かった。
「団長、あたいを同行させたのって、この火を消す為だけなの?」と、ウェドネスが、問うた。
「そうだ」と、ケッバーは、即答した。そして、「俺の知る限りでは、この大役を任せられるのは、君しか居ないと思ったのでな」と、語った。適任だと思ったからだ。
「団長、煽てても、何も出ませんよ〜」と、両手を逆さに組みながら、モジモジした。
「ははは。別に、下心は無いさ」と、ケッバーは、一笑に付した。率直に思っただけだからだ。
「まあ、団長は、状況判断が、的確だからねぇ〜」と、ウェドネスが、鼻を鳴らした。そして、「じゃあ、早速、仕事に取り掛からせて貰うわね」と、表情を引き締めた。
「ああ」と、ケッバーは、頷いた。ウェドネスに、一任するしかないからだ。
その直後、ウェドネスが、右手に、火炎魔法の火球を作り、左手に、水流魔法の水球を作り出した。そして、二つの魔法球を合成させた。次の瞬間、蒸気が生じて、集落の家屋の屋根よりも高い位置へ上り、滞空を始めた。やがて、雲と化した。
ケッバーは、見上げるなり、「見事なものだな」と、感心した。雲の出来る様を目の当たりにする事など、中々出来るものではないからだ。
「いつもの事でしょ!」と、ウェドネスが、しれっと言った。しばらくして、合成の球が消えるなり、「ちょっと、冷やさないとね〜」と、口にした。そして、「風刃魔法!」と、両手を胸の前で合わせながら、仰け反った。
その直後、風の刃が、雲へ向かって行った。程無くして、中へと消えた。次の瞬間、雲から、雷鳴のような音を発し始めた。
「団長、入口まで戻りましょう」と、ウェドネスが、提言した。
「そうだな」と、ケッバーも、応じた。すぐにでも、雨が降りそうな気配だからだ。
二人は、すぐさま、踵を返した。しばらくして、集落の入口まで戻った。
それと同時に、稲妻が、轟いた。その一瞬後、先刻の雲から、土砂降りの雨が、降り出した。だが、一時も経たない内に止んだ。その頃には、集落内の炎も、鎮火して居た。
「流石は、ウェドネスだ」と、ケッバーは、称賛した。この才能で、傭兵団は、救われて居るからだ。
「あたいを拾ってくれた団長の目が、確かだって事ですよぉ〜」と、ウェドネスが、鼻を鳴らした。
「いや、君の才能を見世物程度にしておくのは、勿体無いと思っただけさ」と、ケッバーは、口にした。実用的に考えれば、凄い能力だからだ。
「あたいも、出会った時から考えたら、これだけの事が出来るなんて、思って居ませんでしたよ」と、ウェドネスが、語った。そして、「団長に出会わなかったら、ライランス大陸を未だに彷徨って居たかも知れませんね」と、苦笑した。
「俺の方こそ、今日まで生き残れて居たかさえも判らんよ」と、ケッバーも、眉根を寄せた。ウェドネスが居てくれたからこそ、生き残れて居るからだ。
「あたいは、団長の役に立てて嬉しいんだ。ありがとう!」と、ウェドネスが、礼を述べた。
「俺の方こそ、感謝する」と、ケッバーも、謝意を口にした。こんな自分に、付いて来てくれるのは、ありがたい事だからだ。
「団長、ポットン達の後を、追いますかぁ〜?」と、ウェドネスが、尋ねた。
ケッバーは、頭を振り、「いや、一旦、帰るとしよう。一応、報告をしておかんとな」と、回答した。私用ならば、追って行くべきだが、デヘルの用件で動いて居る以上、報告を優先させなければならないからだ。
「そうね。癪だけど、この稼業は、雇い主が優先だもんね」と、ウェドネスが、あっけらかんと言った。
「別に、報告は、俺だけでも良いんだが…」と、ケッバーは、眉根を寄せた。ウェドネスの意思を尊重したいからだ。
「あたいは、別に、あいつの事なんか、心配してませんよ。むしろ、大きなブヒヒ族が、心配ね」と、ウェドネスが、憎まれ口を叩いた。
「そうか。まあ、俺も、心配して居ないがな。やる時は、やる奴だからな。だから、同行させたまでだよ」と、ケッバーは、考えを述べた。ウェドネスと同様に、必要性が有ると直感したからだ。
「団長。後始末も済んだ事だし、黄竜の所へ戻りましょう」と、ウェドネスが、提言した。
「そうだな。あんまり長居をして居ると、要らん魔物を相手にしなければならんからな」と、ケッバーも、同意した。今の内に、退散した方が良いからだ。そして、「案内してくれ」と、要請した。
「うん!」と、ウェドネスが、嬉々とした。
間も無く、二人は、集落を後にするのだった。




