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英傑物語  作者: しろ組


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一一七、洞の奥

一一七、(ほら)の奥


 ゴルト達は、ミンミン族の長老の先導で、昼間に来た集落の正面奥に在る巨木の幹の前に居た。

「また、木登りをしなきゃあならないのか…」と、ゴルトは、ぼやいた。暗がりの中で、木登りをするのは、無理だからだ。

「お主は、何を申しておるミン? ここから下へ行くミン」と、ミンミン族の長老が、告げた。

「マジかよ!」と、ゴルトは、顔を顰めた。下りるなら、尚更、不可能だからだ。

「お主、何か、勘違いでもしておるんじゃないかミン?」と、ミンミン族の長老が、指摘した。

「いや。幹を伝って下りるんだろう?」と、ゴルトは、怪訝な顔をした。他の方法が、思い付かないからだ。

「誰が、そんな危険な事をやらせるミン! わしだって、こんな暗がりでは、やらないミン!」と、ミンミン族の長老が、否定した。

「確かに、わしらでも、あんまりやらんのう。夜目(やめ)が利くと言えども、範囲は限られるからのう」と、ズニも、同調した。

「しかし、どうやって下りるんだ? 見たところ、入口みたいな(もん)は、見えんけどな」と、ポットンも、訝しがった。

「あっちも、初めて聞いた。長老、何か、考えが在るのかも」と、ティカが、口にした。

 突然、「ンゴーン!!」と、デヘゴンの(いなな)きが、聞こえた。

「どうやら、滝を越えて来たようだミン」と、ミンミン族の長老が、補足した。

「だったら、デヘゴンを助けに行かなきゃ!」と、ゴルトは、(ふる)い立った。デヘゴンを見殺しには出来ないからだ。

「デヘゴン、大丈夫。悪い奴に負けない!」と、ティカが、力強く言った。

「わしらは、デヘゴンが相手をしている内に、下へ向かうんじゃ」と、ズニが、口を挟んだ。

「しばらく振りじゃから、時間が掛かるミン」と、ミンミン族の長老が、入口を探し始めた。

 そこへ、茶色い法衣の司教が、宙に現れた。そして、「ブタマンダーの生き残りの“嗅覚(はな)”は、確かなようだな」と、口元を綻ばせた。

「お前は、何者だ!」と、ゴルトは、怒鳴った。直感的に、ヤバそうな気がするからだ。

「私は、茶司教(チャショップ)。“神魔大戦”を再現させようとする物だ」と、茶司教が、名乗った。

「何!? “神魔大戦”じゃとっ!」と、ズニが、素っ頓狂な声を発した。

「じゃあ、デヘルを嗾けたのは、お前かっ!」と、ゴルトは、語気を荒らげた。元凶だとすると、許して置けないからだ。

「嗾けたのは、私ではない」と、茶司教が、否定した。そして、「まあ、無関係でもない」と、補足した。

「どっちか、はっきりして欲しいもんやなぁ〜」と、ポットンが、冷やかした。

「そうそう」と、ティカも、相槌を打った。

「つまり、デヘゴンと戦って居るのは、お主らの仲間という事だミン?」と、ミンミン族の長老が、質問した。

「う〜ん。仲間とは違うかな…」と、茶司教が、言葉を濁した。

「今回のデヘルの侵攻の裏で、色々と悪さをしておるようじゃのう」と、ズニが、指摘した。

「悪さとは、人聞きの悪い。皇帝を(そそのか)したのは、ダ・マーハとネデ・リムシーですよ」と、茶司教が、口にした。

「便乗してりゃあ、同じ事だろうがっ!」と、ゴルトは、怒鳴った。責任転嫁しているようにしか聞こえないからだ。

「確かに、そうだな。でも、“神魔大戦”の前では、些細な事だがな」と、茶司教が、淡々と肯定した。

「ここに来たという事は、(あらかじ)め知って居るようだミン」と、ミンミン族の長老が、見据えた。

「如何にも」と、茶司教が、頷いた。そして、「“神魔大戦”の最中、ここには、木ではなく、塔が建っていた筈だ」と、語った。

「う〜ん。そんな昔の事は、忘れたミン」と、ミンミン族の長老が、回答した。

「代々、お前達は、塔の存在を隠し続けて居り、地下に眠る守り人を匿って居ったなあ」と、茶司教が、得意満面で、口にした。

「そ、そうなのか?」と、ティカが、両目を見開いた。

「う〜ん。そこまで知られて居るのなら、益々、行かせたくないミン」と、ミンミン族の長老が、拒否した。

「禍龍カリバート様を復活させて、我々の地を取り戻すのだからな」と、茶司教が、目的を告げた。

 ポットンが、面食らった顔をするなり、「カリバートって、“神魔大戦”で、ライランスの方に君臨して居た“狂龍王(きょうりゅうおう)”でっせ!」と、驚きの声を発した。

「この地下に、狂龍王を復活させられる“何か”が在るんたな!」と、ゴルトは、察した。途轍もないない力を秘めた物だと想像が付くからだ。

「それは、判らん。だが、五〇〇年前の結界が、未だに効力を維持しているという事は、そういう事だな」と、茶司教が、見解を述べた。

「ド・ラーグ様より、この地の守護を任されて居るのでな。五〇〇年前に戻す訳にはいかないミン!」と、ミンミン族の長老が、言い放った。

「ンゴゴーン!!」と、デヘゴンの荒々しい声が響いた。

「ブタマンダー族め! 何をやって居る!」と、茶司教が、苛立った。

「デヘゴンは、わしらの護り神みたいなものミン。お主の連れて来たブタマンダー共は、全滅するかも知れんミン」と、ミンミン族の長老が、冷ややかに言った。

「それは、それで構わんよ。どうせ、使い捨ての連中だからな」と、茶司教が、淡々と口にした。

「んだと!」と、ゴルトは、激昂した。敵ではあるが、命を軽んじる物言いが、気に食わないからだ。

「ゴルトはん、落ち着きなはれ。わいも、今の言葉は、少々、カチンと来ましたので…」と、ポットンも、さり気なく同調した。

「あっちも、あいつ嫌い!」と、ティカも、嫌悪した。

「目的の為ならば、あやつらも、役に立って散るのだから、本望(ほんもう)だろう」と、茶司教が、悪怯れる風も無く言った。

「そりゃあ、利己(エゴ)というもんじゃ」と、ズニが、指摘した。

「ここで、相手をするしかないミンね」と、ミンミン族の長老が、溜め息を吐いた。

「ほう。やっと、やる気になったか」と、茶司教が、口元を綻ばせた。そして、「お前達を全員片付けてから、ゆっくりと探すとしようかな」と、補足した。

「言ってくれるな!」と、ゴルトは、闘志を剥き出しにした。完全に、見下されているからだ。

「ホッホッホ。わしが行かねば、ならんかのう」と、ズニが、体を左右に捻りながら、告げた。

「ズニ様。あんまり、無理はしない方が…」と、ゴルトは、苦笑いを浮かべた。張り切られても、碌な事にならないからだ。

「若い連中に、任せてばかりも居れんミン。先ずは、地面へ下ろしてやるミン!」と、ミンミン族の長老も、意気込んだ。

「なるほど。私の相手を、あなた方が、してくれるのだな。まあ、その方が、後々、楽になるからな」と、茶司教が、嬉々とした。

「あんまり、見下してんじゃないぞ!」と、ズニが、急上昇をするなり、茶司教へ仕掛けた。

「何の!」と、茶司教が、赤銅色の(いびつ)(メイス)で、受け止めた。そして、「火炎弾(フレム・バレット)!」と、無数の火炎弾を放った。

「うわっ!」と、ズニが、咄嗟に離れて、回避した。

「ちっ!」と、茶司教が、舌打ちした。

「余所見をしてちゃあ、駄目ミン!」と、ミンミン族の長老が、告げるなり、「ミィィィーン!!」と、大声で鳴いた。

「うるさいんだよ! 火炎弾!」と、茶司教が、火炎弾で、応戦した。

 間も無く、双方の攻撃が、空中で、相殺された。

「わしも、良いところを見せんとな!」と、ズニが、張り切った。そして、右へ旋回するなり、突撃を敢行した。

「ふん! 私に殺ってくれと言っているようなものだな」と、茶司教が、勿体振った。

「確かに、あれじゃあ、当ててくれって、言っているようなもんでっせ」と、ポットンが、表情を曇らせた。

「確かに…」と、ゴルトも、頷いた。茶司教の火炎弾へ、突っ込むようなものだからだ。

 その間に、茶司教が、ズニへ狙いを定めた。そして、複数の火炎弾を出現させた。

 その瞬間、「今だミン!」と、ミンミン族の長老が、口にした。そして、「ミィィィーン!!」と、先刻の鳴き声を放った。

「何!」と、茶司教が、狼狽した。

「お主、わしらを老いぼれと思って、油断したようじゃな」と、ズニが、寸前で、宙返りをした。

 程無くして、ミンミン族の放った鳴き声が、火炎弾へ命中した。その刹那、火炎弾が誘爆を起こした。

 茶司教が、瞬く間に、爆発に巻き込まれた。

 ズニが、宙返りを終えるなり、「どうじゃ? まだ、やるか?」と、問うた。

 茶司教が、少々焦げた法衣姿を現すなり、「くっ! 今日のところは、これくらいで、勘弁してやらあ!」と、捨て台詞を吐いた。その直後、姿を消した。

「まさか、御二人で、撃退されるとは…」と、ゴルトは、感服した。見事な連携だったからだ。

「わいらでも、難しいだろうな」と、ポットンも、口にした。

「長老に、あんな技が在ったなんて…。ちょっと、うるさかったけど…」と、ティカも、目を瞬かせた。

「これまで、使う事が無かっただけミン」と、ミンミン族の長老が、しれっと言った。

「ホッホッホ。わしも、久々の宙返りじゃったから、自信が無かったがのう」と、ズニも、降下しながら、目を細めた。

「よう言うわ」と、ポットンが、ツッコミを入れた。

「だな」と、ゴルトも、同調した。(おとろ)えたように見えなかったからだ。

「む…! 思い出したミン!」と、ミンミン族の長老が、告げた。そして、木の幹へ向き直るなり、「ミーン!」と、鳴き声を放った。

「まさか、“呪文”を唱えたら、開く奴じゃないだろうな?」と、ゴルトは、溜め息を吐いた。そう都合良く事が運ぶとは、考えにくいからだ。

「ホッホッホ。ここは、見守るしかないじゃろうな」と、ズニが、穏やかに言った。

「そうでっせ。長老はんの記憶を当てにしましょう」と、ポットンも、口添えした。

 間も無く、一同の足下から、重低音の地響きが、聞こえて来た。

「な、何だ!?」と、ゴルトは、動揺した。足下で、途轍もない事が起こっているかも知れないからだ。

 しばらくして、地響きが止んだ。

「あ!」と、ティカが、驚きの声を発した。

 少し後れて、ゴルトも、大木の幹を見やった。次の瞬間、洞穴が視界に入るなり、「ええ!?」と、目を瞬かせた。先刻まで、無かったからだ。

「わしの鳴き声が、鍵だった事を、思い出したミン」と、ミンミン族の長老が、告げた。

「やかましいだけじゃなかったんだぁ〜」と、ティカが、感心した。

「じゃから、お主が、長老を任されて居ったんじゃな」と、ズニが、見解を述べた。

「わしも、場所だけは覚えて居ったんじゃが、老いの所為で、忘れっぽくなったんじゃ」と、ミンミン族の長老が、言い訳をした。

「そうじゃのう」と、ズニも、相槌を打った。

「茶司教のお陰で、“呪文”の事を思い出せて良かったミン」と、ミンミン族の長老が、口にした。

「不幸中の幸いって事じゃな」と、ズニが、苦笑した。

「確かに」と、ゴルトも、頷いた。皮肉にも、茶司教が、記憶を(よみがえ)らせたからだ。

「さあ、中へ入るミン。守り人を起こすミン」と、ミンミン族の長老が、先立って進入した。

 間も無く、ゴルト達も、続くのだった。

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