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英傑物語  作者: しろ組


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一一五、ヤスノフ VS 保毛天馬騎士

一一五、ヤスノフ VS 保毛天馬(ホモサス)騎士(ナイト)


 ヤスノフは、黄龍(イエロードラゴン)を、茶竜(チャイバーン)の居ない龍舎(りゅうしゃ)へ案内した。

 黄龍が、覚束ない足取りで、屋内へ入るなり、横たわった。

「まだ、後遺症(ダメージ)が残っているみたいだな」と、ヤスノフは、見解を述べた。着地というよりは、ぶつかったような感じだからだ。

「キーちゃんに、ちょっと、無理をさせちゃったわね…」と、バニ族の娘が、自責の念に駆られて居た。

「ふん。荷物を取りに戻らなければ、こんな事にはならんかったろうにな」と、バニ族の老婆が、毒づいた。

「す、すみません…」と、ケール族の学者が、神妙な態度で、詫びた。

「誰が悪いとかじゃなく、起きてしまった事は、仕方が無い。今は、静かに休ませてやるべきだ」と、ヤスノフは、提言した。一晩寝かせてやれば、翌朝には、元気になっているものだからだ。

「あたいは、傍に居るよ」と、バニ族の娘が、申し出た。

「そうだな。あんたが、黄龍の相方みたいだから、居た方が良いかもな」と、ヤスノフは、了承した。見知らぬ場所に、一匹で居らすよりも、慣れた者と居た方が、良いからだ。そして、「何か起こったら、知らせてくれ。まあ、気休め程度の事しか出来んがな」と、補足した。急変する場合も有り得るからだ。

「分かったわ。キーちゃんとあたいは、付き合いが長いからね」と、バニ族の娘が、聞き入れた。

「取り敢えず、わしらは、隣の宿直小屋で、休むとしようじゃないか」と、ヤスノフは、提言した。一刻も早く、静かに休ませてやりたいからだ。

 程無くして、一同は、龍舎を出た。

「へ、オジキの居る所で助かったぜ」と、ヤスンクルが、口にした。

「ふん。まさか、わしも、お前の連れとは思わんかったよ」と、ヤスノフは、返答した。甥が来るとは、微塵(みじん)も思って居なかったからだ。そして、「お前、お尋ね者にでもなったのか?」と、問うた。帝都で、何かをやらかしたと考えられるからだ。

「オジキ、俺を疑うのかっ!」と、ヤスンクルが、語気を荒らげた。そして、経緯を語り始めた。

 しばらくして、「つまり、その副学長の制止を振り切って、ここまで来たって訳か…」と、ヤスノフは、理解を示した。自分が思うような悪い事をしていないからだ。そして、「わしも、お前らと一緒に行かなければならんかも知れんな」と、仄めかした。この件について、帝国の追及を(かわ)せる自信が無いからだ。

「すまねぇ。オジキ…」と、ヤスンクルが、詫びた。

「副学長の事ですから、何かしらのこじ付けるで、こちらに、追っ手を向かわせているかも知れませんね」と、ケール族の学者が、溜め息を吐いた。

「そうじゃのう。わしを消して、お前らを罪人に仕立て上げるつもりかものう」と、バニ族の老婆が、あっけらかんと言った。

「あの方なら、それくらい造作も無いでしょうね」と、汀雅も、同調した。

「だから、帝国の連中は、嫌いなんだよ!」と、ヤスノフは、不快感を露わにした。帝国の者は、他者を踏み台にして、私利私欲を満たそうとするからだ。

「そうじゃな。わしも、帝国は嫌いじゃ」と、バニ族の老婆も、しれっと言った。そして、「あのような名ばかりの学校なんぞ、誰も相手にしなくなるぞ」と、皮肉った。

「そうですね。ただの金と権威の巣窟になってしまえば、帝国大学は、廃れてしまうでしょうね」と、ケール族の学者も、考えを述べた。

「まあ、一回、潰れちまえば良いんだよ」と、ヤスノフは、憎々しげに言った。学校は、金儲けの施設ではないからだ。

「そうじゃな。ちょっと、調子に乗っておるからのう」と、バニ族の老婆も、口添えした。

「へっ! 学校が無ければ、勉強しなくて済むからな」と、ヤスンクルが、嬉々とした。

「ヤスンクル。一応、学校が無くても、勉学は必要だぞ。そうでないと、他人の言いなりになっちまうからな」と、ヤスノフは、溜め息を吐いた。考える事を止めれば、情弱になるだけだからだ。

「勉強は嫌いだが、他人の言いなりになるのは、もっと嫌だな」と、ヤスンクルが、口にした。

「まあ、最低限、読み書きと数字の計算だけは、しっかりしといた方が良いって事さ」と、ヤスノフは、(さと)した。読み書きと計算さえ出来れば、何とかなるからだ。

「へ、オジキ。分かったぜ」と、ヤスンクルが、納得した。「本当に、分かっとるんじゃか…?」と、バニ族の老婆が、ぼやいた。

「ですね」と、ケール族の学者も、相槌を打った。

「御二人共、本人の前では…」と、虎耳の娘が、ばつの悪そうに、気遣った。

「おい! 聞こえてるぞ!」と、ヤスンクルが、憮然とした。

「ところで、ヤスンクル。お前達は、何処へ向かおうとして居たんだ?」と、ヤスノフは、尋ねた。目的地が、はっきりしていないからだ。

「何処へ向かっていたんだっけ?」と、ヤスンクルが、バニ族の老婆を見やりながら、問うた。

「わしは、キーちゃんに乗りたかっただけで、特に、行き先は、決めて居らんぞ」と、バニ族の老婆が、回答した。そして、「アマガーよ、答えるんじゃ」と、ケール族の学者へ、振った。

「はい」と、アマガーが、返事をするなり、「世界魔術師組合へ向かうところです」と、告げた。

「世界魔術師組合か…。しかし、魔術の勉強じゃないだろ?」と、ヤスノフは、怪訝な顔をした。どう見ても、魔術師という柄じゃないからだ。

「ええ。ちょっと、調べ物が在りまして…」と、アマガーが、言葉を濁した。

「調べ物だったら、帝大の図書室でやれるだろうから、わざわざ遠出をしなくても良いんじゃないのか?」と、ヤスノフは、指摘した。蔵書の数なら、帝大も劣っていない筈だからだ。

「確かに、帝大でも事足りる。しかし、それを(こころよ)く思わん連中が居るからのう」と、バニ族の老婆が、示唆した。

「副学長派の連中か…」と、ヤスノフは、顔を顰めた。足を引っ張られて邪魔されるくらいなら、遠出をした方が良いという考え方も、理解出来るからだ。

「うむ」と、バニ族の老婆が、頷いた。そして、「それに、奴め、わしらの研究を横取りしようと画策して居る」と、補足した。

「だから、やたらと、研究室へ来られて居たのですね」と、虎耳の娘が、納得した。

「もっともらしい事を言って、圧力を掛けていたのも、その為でしたか…」と、アマガーも、同調した。

「つまり、副学長にとって、今が、実権を握る絶好の機会(チャンス)って事になるな」と、ヤスノフは、口にした。自分が、副学長ならば、この機を逃す事はしないからだ。そして、「刺客が来るかも知れんな」と、眉間に皺を寄せた。殺る気満々ならば、もう刺客が来ていると推察出来るからだ。

「オジキ、話せば、何とかなるんじゃないのか?」と、ヤスンクルが、提言した。

「いいや。恐らく、お前らは、学長を誘拐した凶悪犯になっている筈だから、問答無用で、口封じをされるだろうな」と、ヤスノフは、頭を振った。死人に口無しなのは、必至だろうからだ。

「確かにな。副学長の筋書きでは、すでに、わしは亡き者になっておるじゃろうな」と、バニ族の老婆も、口添えした。

「わしも、恐らく、消されるだろうな」と、ヤスノフは、示唆した。不安要素となるので、自分も、対象と考えるべきだからだ。

「オジキ、すまねぇ」と、ヤスンクルが、詫びた。

「へ、気にすんな。ヤスノヴの力になってやれんかったんだ。恐らく、飛行系の騎兵を寄越して来るんだろうな」と、ヤスノフは、予測を述べた。飛行系の方が、移動力が速いからだ。

「オジキ、何でもするぜ!」と、ヤスンクルが、申し出た。

「そうだな。隣の宿舎から、飛去来器(ブーメラン)を取って来てくれないか?」と、ヤスノフは、要請した。

「隣って…」と、ヤスンクルが、周囲を見回した。少しして、「おいおい。隣って言っても、相当、離れているぜ!」と、素っ頓狂な声を発した。

「でも、隣は、隣だろ?」と、ヤスノフは、何食わぬ顔で、言った。

「た、確かに…」と、ヤスンクルが、言葉を詰まらせた。

「わしらも、取り敢えず、宿舎へ身を隠すとしよう」と、バニ族の老婆が、提言した。

「そうですね。僕らの姿を見られるのは、不味いですからね」と、アマガーも、賛同した。

「話し合いで済まない時は、すまん」と、ヤスノフは、詫びを入れた。穏便(おんびん)に済ませられるか、自信が無いからだ。

「ふん。その時は、その時じゃ!」と、バニ族の老婆が、あっけらかんと言った。

「オジキ、口下手(くちべた)なんだから、無理すんなよ。それに、帝国の連中は、俺らの話なんて、聞いてくれやしないしな」と、ヤスンクルが、溜め息を吐いた。

「そうかも知れんが、力で決着を付けるのは、最後の手段だ」と、ヤスノフは、難色を示した。力では、禍根(かこん)を残すだけだからだ。

「ふん。聞き分けの無い奴は、問答無用で、黙らせたらええんじゃ」と、バニ族の老婆が、断言した。

「学長のビンタは、強烈ですからね」と、アマガーが、苦笑した。

「確かに…」と、ヤスンクルも、同調した。

「お前ら、食らった事が有るのか?」と、ヤスノフは、目を白黒させた。二人は、すでに食らっているような口振りだからだ。

「え、ええ…」と、アマガーが、言葉を濁した。

「そ、そうだな…」と、ヤスンクルも、はぐらかした。

「相当なやつみたいだな…」と、ヤスノフは、察した。二度と食らいたくないという反応(リアクション)だからだ。

 突然、「オジキ! 妙な明かりが、近付いているぜ!」と、ヤスンクルが、右手で、帝都の方角を指した。

 少し後れて、ヤスノフも、その方を見やり、浮遊しながら接近する明かりを視認した。そして、「茶竜よりは、小型だな。保毛天馬騎士かも知れんな」と、目を()らしながら、口にした。茶竜にしては、速度が遅いからだ。

 その直後、「じゃあ、オジキ。飛去来器を取って来るぜ」と、ヤスンクルが、行動に移った。

 アマガー達も、ヤスンクルに続いた。

 程無くして、ヤスノフだけとなった。そして、「さあて、わしの話術が、どこまで伝わるか…」と、冴えない表情で、口にした。恐らく、ヤスンクルが、飛去来器を取って来るまでの時間稼ぎくらいにしかならないだろうからだ。

 間も無く、二騎の保毛天馬が、ヤスノフの数歩手前で、並びながら、着地した。

「おい! お前。ここに、黄色い龍が来なかったか?」と、左側の赤銅(しゃくどう)色の騎士が、凄んだ。

「わ、わしは、知りませんよ。ただ、見回りをして居ただけですよ」と、ヤスノフは、おどおどしながら、返答した。弱いと思わせておいた方が、案外、旨く行くものだからだ。

「来る途中で、風に煽られたから、こっちの方へ流されたと思うんだがな」と、赤銅色の騎士が、考えを述べた。

「それは、騎士様みたいに、上手な方でしたら、うちの牧場へ来ているでしょうね。けれど、わしの所へは、誰も来てませんよ」と、ヤスノフは、回答した。そして、「何処かで、墜落したのかも知れませんよ」と、補足した。それっぽい事を言っておけば、多少は、信憑性が在るからだ。

「確かに、これだけ暗いと、その可能性も、有り得ますね」と、右側の黄銅の騎士が、理解を示した。

「しかし、手ぶらで帰ったところで、副学長の奴が、信じないだろうな」と、赤銅色の騎士が、溜め息を吐いた。

「ですね」と、黄銅の騎士も、相槌を打った。

「お前、一応、周囲を調べさせて貰っても、構わんか?」と、赤銅色の騎士が、無遠慮な態度で、問うた。

「あんたら、本当に、副学長の使いの者か?」と、ヤスノフも、つっけんどんに、問い返した。そして、「証拠の書類を見せてくれ」と、要求した。敷地内を彷徨かれたら、誤魔化し切れないからだ。

「これは、失礼。確かに、令状無しで、調べさせろと言うのは、些か、礼を欠いたな」と、赤銅色の騎士が、理解を示した。

「保毛天馬の上からじゃあ、文字が読めないから、ちゃんと見せてくれ」と、ヤスノフは、促した。ある考えを実行に移したいからだ。

 間も無く、赤銅色の騎士と黄銅の騎士が、降りるなり、数歩手前で立ち止まった。

「これで、どうだ?」と、赤銅色の騎士が、書類を取り出すなり、書面を提示した。

 その瞬間、「ぶへっくしょい!」と、ヤスノフは、くしゃみと同時に、鼻から火炎を放射した。そして、令状へ命中させた。その直後、燃え上がった。

「あ…」と、赤銅色の騎士が、一瞬、呆気に取られた。

 その間に、令状が、燃え尽きた。

「おい! わざとだろ!」と、黄銅の騎士が、激昂した。

「いや。偶々、くしゃみがしたくなっただけだ…」と、ヤスノフは、白々しく返答した。令状さえ無くなれば、どうにでもなるからだ。

「嘘つけ! くしゃみで、火が出るか!」と、黄銅の騎士が、指摘した。

「確かに、普通の奴だったら、こんな芸当は出来んだろうな。我々は、まんまと嵌められたという事だ…」と、赤銅色の騎士も、淡々と語った。そして、「我々も、これで、叩き斬る理由が出来た訳だ」と、口にした。

「ふん! どの道、わしを殺る気だったんだろ?」と、ヤスノフは、ぼやいた。令状なんぞは、建前(たてまえ)で、すでに答えが出来上がっているからだ。

「ほう。ブヒヒ族にしては、血の巡りが良さそうだな」と、赤銅色の騎士が、感心した。そして、「これ以上の無駄話は、不要だ。そろそろ、殺らせて貰うぞ!」と、騎士剣を抜いた。

 少し後れて、黄銅の騎士も、長剣(ロングソード)を抜いた。

「帝国の連中は、どいつも、こいつも、性根が腐っちょるのう」と、ヤスノフは、嘆息した。丸腰の者を(あや)めるところまで落ちぶれたと思うと、(なげ)かわしいからだ。

「世の中、綺麗事では生きて行けんからな。目的の為ならば、こういう事もやらなければならんのだよ」と、赤銅色の騎士が、自己弁護を述べた。

「確かに、それは、言えてるな」と、ヤスノフも、同調した。理解出来るからだ。そして、「しかし、それでは、騎士を騙る“賊”でしかないぞ!」と、毅然として、指摘した。

「ふん。これから殺られる奴に言われたところで、“賊”にはならんよ。我々が都合良いように、報告するだけだからな」と、赤銅色の騎士が、上段に構えた。

「オジキーッ!! 持って来たぞーっ!!」と、ヤスンクルの声が、聞こえた。

「っ!!」と、騎士達の動きが、一瞬、止まった。

 その直後、ヤスノフは、赤銅色の騎士の手元へ、火炎放射を食らわせた。この隙を逃せないからだ。そして、見事、手首へ命中させた。

 その刹那、「(あつ)っ!」と、赤銅色の騎士が、騎士剣を手放した。

 そこへ、「舐めた真似をっ!」と、黄銅の騎士が、斬り掛かった。

「おっと!」と、ヤスノフは、咄嗟に跳び退って、間一髪で、回避した。そして、「ふん!」と、黄銅の騎士の顔面へ、火炎放射を放った。その直後、黄銅の騎士の頭部が、炎に包まれた。

「うわぁー!! 消えろ! 消えろ!」黄銅の騎士が、倒れ込むなり、火を消す事に、躍起となった。だが、少しして、動かなくなった。

「殺人罪で、即処刑だな」と、赤銅色の騎士が、騎士剣を拾い上げながら、告げた。

「わしは、お前らが斬り掛かって来たから、反撃したまでだ。それに、そいつは、気を失っているだけだ」と、ヤスノフは、主張した。あくまで、正当防衛だからだ。

「そんな事は、どうでも良い! 学長の生死は、不問と言っていたから、用件を済ますまでだ!」と、赤銅色の騎士が、意気揚々に言った。

「やれやれ。やっと、本音が出ましたね。わしも、気兼ね無くやれるな」と、ヤスノフは、不敵な笑みを浮かべた。本音が聞けて、やり易くなったからだ。

「先ずは、お前の首を()ねてやる!」と、赤銅色の騎士が、踏み込むなり、有言実行で、騎士剣を水平に振るった。

「わっ!」と、ヤスノフは、その場で、素早くしゃがみ込んだ。その一瞬後、刀身が、頭上を通り抜けた。

 その刹那、「ちっ!」と、赤銅色の騎士が、舌打ちした。

 ヤスノフは、顔を上げるなり、「ふん!」と、火炎放射を噴射した。隙の生じている今こそ、好機だからだ。

「舐めるな!」と、赤銅色の騎士が、左腕で、火炎を薙ぎ払った。そして、騎士剣を振り下ろした。

「ヤバい!」と、ヤスノフは、目を瞑った。確実に、殺られると思ったからだ。突然、寸前の所で、金属音がした。

「何だと!」と、赤銅色の騎士が、素っ頓狂な声を発した。

 少し後れて、ヤスノフも、目を開けた。そして、「あ…!」と、声を洩らした。飛去来器の内側の垂直部で、刀身が留まっているのを視認したからだ。

「オジキ、ギリギリ間に合ったみたいだな!」と、ヤスンクルが、口にした。

「そうだな…」と、ヤスノフも、同調した。今回は、本当に、ヤバかったからだ。そして、「お前は、そこでお寝んねしている奴をふん縛ってくれ!」と、指示した。起きて来られると、厄介だからだ。

「おう。じゃあ、これを頼むぜ!」と、ヤスンクルが、同意した。

「ああ」と、ヤスノフは、左手で、飛去来器の端を掴んで、立ち上がった。これで、攻撃の幅が広がるからだ。

 間も無く、ヤスンクルが、右手を放して、速やかに離れた。

 程無くして、赤銅色の騎士も、刀身を引いて、後退した。

 その間に、ヤスノフは、飛去来器を投げる体勢を取った。次の動きで、決着を付けたいからだ。

「そんな珍妙な武器で、我が剣を止められるものかよ!」と、赤銅色の騎士が、言い放った。

「ふん。やってみんと、判らんがな」と、ヤスノフは、落ち着き払って、言い返した。勝負の行方(ゆくえ)など、決まっていないからだ。

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ! この豚野郎がよ!」と、赤銅色の騎士が、下品な言葉を吐いた。

「ふん。騎士になりすました扮装(コスプレ)野郎には、言われたくないな」と、ヤスノフは、冷ややかに、返答した。見てくれは、醜くても、帝国の人間よりは、品格を有しているからだ。

「くたばれ! 下等種族!」と、赤銅色の騎士が、突っ掛かって来た。

「どっちが、下等種族だか…」と、ヤスノフは、ぼやいた。そして、飛去来器を明後日の方向へ投げた。その直後、火炎弾を放った。火炎放射は、少々、体力的にきついからだ。

「こんな鼻くそみたいなので、殺られるかよ!」と、赤銅色の騎士が、薙ぎ払った。そして、「くたばれ!」と、手前で立ち止まるなり、騎士剣を振り上げた。

 その瞬間、飛去来器が、赤銅色の騎士の左の側頭部へ、直撃するなり、仮面を揺らした。

 間も無く、赤銅色の騎士が、その場にくずおれた。

「お前さんの言う“珍妙”な武器には、こういう使い方も有るんだよ」と、ヤスノフは、しれっと言った。飛去来器だからこそ、使えた手だからだ。

 そこへ、「オジキ。黄銅の奴は、一応、ふん縛ったからな」と、ヤスンクルが、告げた。

「そうか。ついでに、そこの野郎も、捕縛(ほばく)しておけ」と、ヤスノフは、指示した。流石に、少々、火を吹き過ぎて、疲れたからだ。

「応よ!」と、ヤスンクルが、二つ返事で、応えた。

 しばらくして、ヤスノフは、飛去来器の所まで、歩を進めた。そして、拾い上げようと(かが)んだ。

「オジキ。そのまま、放置するつもりかい?」と、ヤスンクルが、尋ねた。

「いや。“インタの鏡”で、一応、引き取って貰えるように伝えるつもりだ」と、ヤスノフは、考えを述べた。インタの鏡で、帝国の役所に伝えた後、出発すれば、時間が稼げるからだ。

「オジキ、黄龍の方は定員超過(オーバー)だから、歩くしかないぜ」と、ヤスンクルが、溜め息を吐いた。

「お前、黄龍ほどじゃないけど、二頭、良いのが入ったじゃねぇか」と、ヤスノフは、仄めかした。保毛天馬を拝借すれば、黄龍の負担を軽減出来るからだ。

「なるほどね」と、ヤスンクルが、納得するのだった。

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