一一四、感知
一一四、感知
ゴルト達は、密林の集落で、細やかな宴を楽しんで居た。
「客人よ。今宵は、大いに楽しまれよミン」と、ミンミン族の長老が、にこやかに告げた。
「あ、ああ…」と、ゴルトは、ぎこちない返事をした。バートン達の事が気になって、心ここに在らずだからだ。
「ホッホッホ。ゴルトよ。三人の事を気にして居ても、今は、どうしようもない」と、ズニが、あっけらかんと、口を挟んだ。
「そうでっせ。わいらが心配したところで、何も出来ないんでっせ。今を楽しむしかありまへんよ!」と、ポットンが、左手に椀を持ちながら、口にした。
「ゴルト、楽しもうよ! 暗いのは、駄目だよ!」と、ティカも、陽気に口添えした。
「そうだな。今は、気晴らしに、楽しむべきだな」と、ゴルトは、聞き入れた。宴で、辛気臭い顔をするのは、失礼でしかないからだ。そして、昼間仕留めた石頭魚の切り身を、右手で摘んで、口へ運んだ。程無くして、口に含むなり、「…!」と、両目を見開いた。肉が、舌先で、瞬く間に溶けて無くなったからだ。
「どうじゃ? 美味じゃろう?」と、ズニが、したり顔で、尋ねた。
「え、ええ…」と、ゴルトは、頷いた。このような食感は、初めてだからだ。
「自分らで仕留めたやつだから、味も一入でっせ!」と、ポットンも、左手で、身を摘んだ。
「そうじゃ、そうじゃ」と、ズニも、同調した。
「ゴルト。今日、一番、石頭魚を仕留めた。お前のお陰。遠慮するな」と、ティカが、勧めた。
「そうだな」と、ゴルトは、もう一切れ食した。腹を満たす事が、最優先だからだ。
しばらくして、「皆の者! 宴は、お開きミン! 滝の下に、昼間の連中が来ているミン!」と、ミンミン族の長老が、宣言した。
「まさか、デヘルが…」と、ゴルトは、気を引き締めた。この頃合いだと、その可能性が大きそうだからだ。
「デヘルだとしても、こんな密林に、何の用が有るのかのう」と、ズニが、小首を傾いだ。
「“森の守護者”かも知れんミン」と、ミンミン族の長老が、淡々と言った。
「ティカが、話していた奴か…」と、ゴルトは、思い出した。この密林を護り抜いた英傑だと話して居たからだ。
「あっちも、長老から聞いただけだから、“森の守護者”が、何者かなんて、判らないよ」と、ティカが、屈託の無い笑顔で、言った。
「本当に居るか、どうか、怪しいな」と、ポットンが、ぼやいた。
「どうやら、“森の守護者”の下へ、案内しなければならんようだミン」と、ミンミン族の長老が、示唆した。
「何だか、居場所を知って居るような物言いじゃのう」と、ズニが、指摘した。
「うむ。この下に眠って居るミン」と、ミンミン族の長老が、頷いた。そして、「恐らく、滝の下の連中は、わしらでは、撃退する事は、無理じゃろうミン」と、溜め息を吐いた。
「くっ…!」と、ゴルトは、歯嚙みした。自分が、弱いと言われているような気がするからだ。
「わしの申した言葉に、イラッとしたのなら、それは、若者の特権じゃミン」と、ミンミン族の長老が、意味深長な物言いをした。
「ははは…」と、ゴルトは、苦笑した。図星だからだ。
「まあ、ゴルトはんは、短気ですからねぇ」と、ポットンが、半笑いで、補足した。
「おい!」と、ゴルトは、むきになった。悪口にしか聞こえないからだ。
「おいおい。喧嘩をしている暇は無いミン」と、ミンミン族の長老が、口を挟んだ。
「迫って居ると言うのか?」と、ズニが、尋ねた。
「そうじゃ。この集落を放棄するミン」と、ミンミン族の長老が、回答した。そして、「わしらは、争いを好まないミン。森を乱すのは、五〇〇年前に戻るようなものだミン」と、語った。
「わしも、穏やかに、余生を過ごせると思って居ったのじゃがのう」と、ズニが、ぼやいた。
「すみません…」と、ゴルトは、詫びた。ズニの平穏な生活を台無しにしてしまったからだ。
「ホッホッホ。別に、わしは、お前さんの事を悪く思っては居らんよ」と、ズニが、否定した。そして、「元凶は、デヘルじゃからな」と、補足した。
「そう言えば、“神魔大戦”を起こしたのも、一つの種族が、発端じゃったミン」と、ミンミン族の長老が、口にした。
「と言う事は、デヘルみたいな事をした連中が、五〇〇年前にも居たって事かのう?」と、ズニが、興味を示した。
「如何にも」と、ミンミン族の長老が、頷いた。そして、「昔、この森に住んで居た“エバゴン族”じゃよ」と、言葉を続けた。
その瞬間、「エバゴン!?」と、ゴルトは、素っ頓狂な声を発した。まさか、“エバゴン”の名を耳にするとは、思いもしなかったからだ。
「確か、エ・グリンも、“エバゴン”という種族じゃったのう」と、ズニも、表情を曇らせた。
「エ・グリンと名乗る者が居るミン?」と、ミンミン族の長老が、興味を示した。
「うむ。わしは、エ・グリンに、罪人に仕立て上げられて、宮廷を追い出されたんだがのう」と、ズニが、溜め息混じりに告げた。
「お主も、酷い目に遭わされたようじゃミン」と、ミンミン族の長老が、察した。
「ひょっとして、五〇〇年前に、デヘルみたいな事をした連中って、エ・グリン達の事か?」と、ポットンが、指摘した。
「うむ。ここで話し込んで、連中と鉢合わせになるのは、宜しくないミン。それに、実物の前の方が、話し易いミン」と、背を向けた。
「何も無い所かと思ったが、何かが在りそうじゃのう」と、ズニが、目を細めた。
間も無く、ゴルト達は、ミンミン族の長老を追うのだった。




