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英傑物語  作者: しろ組


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一一二、猛襲! 茶悪魔!

一一二、猛襲! 茶悪魔(チャーゴイル)


 パーサー達が、現場へ駆け付けた時、ほとんどの騎士達が、白骨死体と化して、地面に散乱していた。

「くそっ! これからという時に!」と、ラオスが、憤慨した。

「すまない…。俺の責任だ…」と、パーサーは、自責の念に駆られた。自分が、連れ込んだようなものだからだ。

「今は、誰の所為でもないでござる! ここで、奴を食い止めないと、ルセフ様にまで、危害が及ぶでござる!」と、覇偈(はげ)が、指摘した。

 ゲロービスが、渋い顔で、仰ぎ見るなり、「そうだな。しかし、こう飛び回られちゃあ、俺の二段跳びでも、難しいな…」と、ぼやいた。

「あいつを飛べなくさせれば、何とかなるでござるが…」と、覇偈が、示唆した。

「そうだな。あの蝙蝠(こうもり)みたいな羽根を、どうにか出来れば、勝機は有るかもな」と、パーサーも、同調した。飛び回らさせなければ、攻撃を当てられる確率は、格段に、上昇する筈だからだ。

「拙者が、あいつの羽根へ攻撃する役を()け負うでござる」と、覇偈が、申し出た。

「まさか、君も、空を飛べるってんじゃないだろうな?」と、パーサーは、尋ねた。見たところ、羽根のような物が生えているようには見えないからだ。

「拙者は、これを投げるでござるよ」と、覇偈が、放射状に尖った円形の鉄の板を出した。

「それは?」と、パーサーは、怪訝な顔で、問うた。初めて見る物だからだ。

「これは、“八方手裏剣”でござる。刺さる箇所が多い分、命中させ易いでござる」と、覇偈が、説明した。

「そうか。でも、今、持っている分じゃあ、心(もと)無いだろ?」と、パーサーは、口元を綻ばせた。今有る分で倒すのは、困難なのは明白だからだ。そして、「あんたの腕前は、判らんが、その“八方手裏剣”とやらを増やしてやる事しか出来んからな」と、告げた。

「それは、ありがたいでござる。手持ちが無くなったら、お手上げでござるからな」と、覇偈が、安堵した。そして、「お願いするでござる」と、右手で、八方手裏剣を差し出した。

「任せろ」と、パーサーは、したり顔で、受け取った。そして、右手を振り上げて、投げる構えをした。次の瞬間、八方手裏剣が、次々に湧き出て来た。

 そこへ、「見付けたぞ!」と、茶色い肌の人相の悪い魔物に、気付かれた。

「わ、私は、この体勢では、動く事が出来ん! ヤバくなったら、逃げてくれ!」と、パーサーは、覚悟を決めた。手裏剣では、応戦出来ないからだ。

「させるか!」と、ゲロービスが、寸前の所で、割り込むなり、「唐竹(からたけ)割り!」と、剣を振り下ろした。

 しかし、茶色い魔物も、紙一重の手前で、停止して、回避した。

「逃がさんでござる!」と、覇偈が、間髪容れずに、八方手裏剣を打った。そして、茶色い魔物の右側の羽根の皮膜を裂く事に、成功した。

 その瞬間、茶色い魔物が、右肩から地面へ落下を始めた。そして、羽根をばたつかせながら、地べたを這いつくばった。

 その間に、パーサーは、体勢を直すなり、「よっしゃあ!」と、右手を突き上げた。飛べなくなってしまえば、こっちのものだからだ。

「くそっ! 茶悪魔様が、羽根をやられるとは…!」と、茶悪魔が、悔しがった。そして、「まだ、負けちゃいない! 食らえ!」と、茶色い(たま)を吐き出した。

「やらせるかっ!」と、ラオスが、鉄の棍棒(クラブ)で、打ち返した。

 程無くして、茶弾が、茶悪魔の口の中へ、猛速度(スピード)で、一直線に入った。

 その直後、「ぐがぁ…」と、茶悪魔が、両目を見開いたまま、動きを止めた。次の瞬間、爆散した。

「ラオス、助かったよ…」と、パーサーは、礼を述べた。茶弾を防ぐ術は無かったからだ。

「王国最強の騎士達が、魔物一匹に、ここまで殺られるとは…」と、ラオスが、嘆息した。

「ラオス、相性が悪過ぎたんだ…」と、パーサーは、沈痛な面持ちで言った。対抗手段が無ければ、こんなものだからだ。

「しかし、一匹だけでござろうかな?」と、覇偈が、疑問を呈した。

「へ、嫌な事を言うなよ」と、ゲロービスが、表情を強張らせた。

「そうだな。偶々(たまたま)、一匹だけだったのかも知れないな」と、パーサーも、冴えない表情をした。何匹かの内の一匹に、目を付けられただけかも知れないからだ。

「これでは、王都(ロナ)奪還(だっかん)は、無理かも知れないな」と、ラオスが、弱音を吐いた。

「状況は、判らんが、戦力的に厳しいのか?」と、パーサーは、問うた。ラオスが、意気消沈しているからだ。

「ええ。ここに居た者達以外に、戦力は残って居りません…」と、ラオスが、俯きながら、回答した。

「確かに、数で押されると、勝ち目は無いな…」と、パーサーも、険しい顔をした。デヘルを追い払うには、少な過ぎるからだ。

(たみ)の力を借りようにも、昨日の奇襲攻撃で、日和って居て、戦を出来るような状態ではござらん」と、覇偈が、現状を述べた。

「何らかの一手が有れば、この人数でも、何とかなりそうな気がするのだが…」と、パーサーは、口にした。人数的には厳しいのだが、形勢を変えられそうな気がするからだ。

「つまり、民が、奮起(ふんき)するような事をすれば良いって事だろ?」と、ゲロービスが、含み笑いをした。

「まさか、茶竜を倒す様を、民草に見せようって事でござるか?」と、覇偈が、尋ねた。

「そうだな。それと、ルセフ様が戻られれば、立ち上がってくれるんじゃないのかな?」と、ゲロービスが、考えを述べた。

「う〜む…。それは、同時に、王子を危険に(さら)すようなものだぞ…」と、ラオスが、難色を示した。

「しかし、それくらいしないと、駄目だろう…」と、パーサーも、意見した。デヘルを追い払うのには、民衆の力が、必要不可欠だからだ。

「王子抜きにして、我々が、勝手に決めるのも…」と、ラオスが、渋った。

「そりゃそうだ」と、パーサーも、相槌を打った。ルセフの意思を確認しなければならないからだ。そして、「駄目なら、別の方法を考えるまでだ…」と、言葉を続けた。断られる時の事も、考えておくべきだからだ。

「少数精鋭で、突入するまででござるな」と、覇偈が、しれっと言った。

「そうだな」と、パーサーも、同調した。気の長くなりそうなやり方だからだ。

「それか、ダーシモまで(くだ)りますかな? アフォーリーを討てば、動揺させる事が出来るかも知れませんよ」と、ラオスが、提言した。

「しかし、アフォーリーの所へ着く前に、返り討ちに…!」と、覇偈が、はっとなった。そして、「あいつと合流出来たら…」と、仄めかした。

「何か、策でも思い付いたか?」と、パーサーは、問うた。妙案を、思い付いたように察したからだ。

「王子の(もと)で、話すでござる」と、覇偈が、勿体振るのだった。

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