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英傑物語  作者: しろ組


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一一一、エ・グリン邸の庭

一一一、エ・グリン邸の庭


 ゲラーナと蜥蜴族の戦士は、路地裏を通り抜けて、一路、エ・グリン邸へ向かった。人面下衆魔犬の話の通りならば、エ・グリン邸が、濃厚だからだ。

「また、あの邸へ行かなきゃならないのか?」と、蜥蜴族の戦士が、ぼやいた。

「俺も、気乗りはしないんだが、看過出来ないんでな」と、ゲラーナも、眉根を寄せた。魔獣を飼っているようなら、それなりに、考えておかなければならないからだ。

「騒ぎになるのは、()けたいな」と、蜥蜴族の戦士が、口にした。

「同感だ」と、ゲラーナも、同調した。人面下衆魔犬の“裏付け”に行くだけだからだ。

 しばらくして、郊外へ続く道に進入した。そして、一本道を進むと、奇妙な模様の壁が、視界に入った。

「エ・グリン候爵の美的感覚には、理解に苦しむな」と、蜥蜴族の戦士が、溜め息を吐いた。

「確かにな」と、ゲラーナも、相槌を打った。上手いのか、下手なのか、さっぱりだからだ。

 間も無く、二人は、左右の門扉の傾いた正門へ辿り着いた。

「こりゃあ、荒れ寺よりも酷いぜ」と、ゲラーナは、皮肉った。先日、オギャワが暴れ回り、()ち壊した状態のままだからだ。

「もう、居ないんじゃないのか?」と、蜥蜴族の戦士が、見解を述べた。

「奥を見ろよ」と、ゲラーナは、咄嗟に、右側の扉へ身を隠した。屋敷へ入る人影を視認したからだ。

 少し後れて、蜥蜴族の戦士も、反対側の扉へ身を隠しながら、覗き込んだ。そして、「何者かは、判らんが、奥へ通したな」と、補足した。

「奥へ行きたいところだが、奴が、どれだけの私兵を囲っているか、判らんからな」と、ゲラーナは、表情を曇らせた。二人で乗り込むのには、少々、手に余りそうだからだ。

「そうだな。オギャワと日輪大熊猫が一緒ならば、迷わず行くところだからな」と、ゲラーナが、口にした。突破力は、申し分無いからだ。

「でも、この前とは、訳が違うぜ。下衆魔犬やら、得体の知れない奴が、現れてんだからよ」と、蜥蜴族の戦士が、見解を述べた。

「確かに、不用意に、奥へ進むのは、得策じゃないな」と、ゲラーナも、頷いた。下手に踏み込むのは、ヤバい気がするからだ。

「ここは、大人しく、応援を呼びに戻った方が良いかも知れないぜ」と、蜥蜴族の戦士が、提言した。

「そうだな。エ・グリン邸を探るのは、後回しだな」と、ゲラーナも、賛同した。エ・グリン邸を探るよりも、応援を呼ぶ方が、最優先だからだ。そして、「早々に、引き返すとしよう」と、告げた。長居は無用だからだ。

「そうだな。誰かに見付かると、厄介だからな」と、蜥蜴族の戦士も、同意した。

 その直後、「そこに居るのは、誰だっ!」と、庭から男の声がした。

「くそっ! 気付かれたかっ!」と、ゲラーナは、顔を顰めた。出来れば、穏便(おんびん)に、立ち去りたかったからだ。

「あの野郎は…」と、蜥蜴族の戦士が、安堵した。

雑魚(ザコ)のモリータだぜ」と、ゲラーナも、口元を綻ばせた。弱者にしか威張れない“クズ野郎”だからだ。そして、庭へ侵入するなり、「エ・グリン様に、飼い慣らされて居るのかい?」と、挑発した。

「あ? 俺に、そんな口を利いて良いのか?」と、モリータが、凄んだ。

「うるせえ! 街の者を護らないで、いばってんじゃねえぞ!」と、蜥蜴族の戦士も、言い放った。

「エ・グリン様さえ無事なら、街の下賤(げせん)の者共などは、どうでも良いんだよ!」と、モリータが、悪怯れる風も無く、言い返した。

「胸くそ悪いぜ! こいつだけみたいだし、さっさと殺っちまうか?」と、蜥蜴族の戦士が、不快感を露わにした。

「同感だ。こんな奴を生かして置いても、死人が増えるだけだからな」と、ゲラーナも、同調した。街の者達を見殺しにした事を、白状しているようなものだからだ。

「俺は、有意義に、選別をしてやったまでだ。全ての生命を救える訳じゃない。けれど、救える生命を選ぶ事が出来る。だから、エ・グリン様の私兵となったんだよ!」と、モリータが、どや顔で、語った。

「どうせ、旗色が悪くなったら、別の奴へ乗り換える気なんだろ?」と、ゲラーナは、指摘した。恐らく、自分の事しか、考えて居ない筈だからだ。

「さあな」と、モリータが、はぐらかした。そして、「エ・グリン様の周囲を彷徨く不審者を、始末せねばならんからな」と、口にした。

「どうする気だ?」と、ゲラーナは、不敵な笑みを浮かべた。一応、打ち負かしているからだ。

「やれやれ。脳筋の下等種族が、何を粋がって居るのかねぇ」と、モリータが、溜め息を吐いた。

「それは、俺を怒らせたいのかい?」と、ゲラーナは、わざと問い返した。苦し紛れの挑発とも考えられるからだ。

「は? 勝負は決しているって、言いたいだけさ」と、モリータが、勿体振った。

「おいおい。中々、物分かりが良くなったじゃねぇか。つまり、あんたが、負けを認めるって事なんだろ?」と、ゲラーナは、半笑いで、尋ねた。見たところ、モリータ以外に、見当たらないからだ。

「いいや」と、モリータが、頭を振った。そして、「俺だけだと思ったら、大間違いだぜ」と、示唆した。

「なるほど。つまり、俺らは、お前の罠に、足を踏み入れて居るって事かな?」と、ゲラーナは、何食わぬ顔で、問うた。モリータの落ち着き払った態度が、妙に、気になっていたからだ。

 間も無く、地面から、下衆魔犬(ゲスベロス)に食い散らかされた無数の兵士の遺骸が、這い出て来た。

「おい、街の方からも、死体の集団が来て居るぞ!」と、蜥蜴族の戦士が、告げた。

「まさか、こんな仕掛けを用意して居たとはな…」と、ゲラーナは、顔を顰めた。このような伏兵を忍ばせているとは、思いもしなかったからだ。

「どうする? 戦ったところで、こいつらは死んでいるんだから、殺すなんて事は出来ないぜ」と、モリータが、したり顔で、語った。

「お前みたいな奴が、死体を操るなんて、世も(すえ)だな」と、ゲラーナは、皮肉った。モリータのような知性の欠片(かけら)も無い者が、死霊使い(ネクロマンサー)のような技量(スキル)を有しているとは、考え辛いからだ。

「死霊使いの技量は、闇属性では、かなりの高等な術者でないと使えない筈だ。術者のようには見えんがな」と、蜥蜴族の戦士も、見解を述べた。

「確かにな。俺とやり合った時に、迷わず死体を使役(しえき)している筈だからな」と、ゲラーナも、頷いた。術以外の別のやり方が在ると推察したからだ。

「ならば、一つだけだな」と、蜥蜴族の戦士が、口にした。

「錬金術って事か?」と、ゲラーナは、淡々と言った。短期間で使えるとすれば、錬金術で作られた物が、有力だからだ。

「ちっ! バレたか…!」と、モリータが、あっさりと認めた。

「だろうな」と、ゲラーナは、口元を綻ばせた。錬金術ならば、合点が行くからだ。

「死者を、こんな事に使うなんて、趣味が悪いな!」と、蜥蜴族の戦士が、吐き捨てるように言った。

道端(みちばた)に転がして置くくらいなら、戦力として活用する方が、有意義ってもんだろう?」と、モリータが、得意満面に、語った。

「けっ! 反吐(へど)が出るぜ!」と、ゲラーナは、嫌悪した。

「確かに!」と、蜥蜴族の戦士も、相槌を打った。

「もうじき、お前らも、死体となって、俺の戦力となるのだからな!」と、モリータが、意気揚々に、宣告した。

「そいつは、ごめんだな」と、ゲラーナは、即座に断った。ここで殺られる気など、更々無いからだ。

「同感だ」と、蜥蜴族の戦士も、同調した。

「おいおい。お前らの状況を解って居るのか? 逃げ場なんて、無いんだぞ」と、モリータが、勝利を確信するように、告げた。

「だったら、やる事は一つだ!」と、ゲラーナは、モリータへ向かって駆け出した。モリータが持っている“死体を操っている物”を、奪いに行くだけだからだ。

 少し後れて、蜥蜴族の戦士も、走り出した。

「やらせんよ!」と、何者かの声が、割り込んだ。

 その直後、「うわっ!」と、ゲラーナは、寸前の所で、透明な物に弾かれた。そして、「何だ!?」と、面食らった。ブヨブヨした物に、阻まれたからだ。

「ひょっとして、透ける豚の魔物かっ!」と、蜥蜴族の戦士が、身構えた。

「スケル(トン)、助かったぞ!」と、モリータが、にんまりとなった。

「ふん。お前が殺られちまうと、おでの仕事が増えるからな」と、スケル豚が、素っ気無く返答した。

「何だ! その言い草はっ!」と、モリータが、怒鳴った。

「お前は、先刻、オギャワと手合わせしていた奴っ!」と、蜥蜴族の戦士が、口にした。

「ああ。あの気合いの入った人の仲間かい?」と、スケル豚が、問うた。そして、緑色に光るぼやけた骸骨が、現れた。

「如何にも」と、蜥蜴族の戦士が、返答した。

「あの気合いの入った人は、居ないのかい?」と、スケル豚が、尋ねた。

「残念ながら、お留守番だ」と、ゲラーナが、淡々と回答した。まさか、スケル豚が、援護に現れたのは、誤算だったからだ。そして、「あんたは、俺らと殺る気なのか?」と、質問した。返答次第では、また、立場が悪くなるからだ。

「お留守番ねぇ」と、スケル豚が、訝しがった。

「まあ、信じる信じないは、お前さんの勝手だがな」と、ゲラーナは、しれっと言った。嘘は言っていないからだ。

「おい、豚野郎! 真に受けてんじゃねぇぞ! 絶対に、仲間が来ている筈だぞ!」と、モリータが、得意満面に、口を挟んだ。

「お前、うるさい! 黙れっ!」と、スケル豚が、怒鳴った。

「普段から扱いが悪いようだな」と、ゲラーナは、口にした。魔物にすら、信用されていない事が、発覚したからだ。

「こんなので、今まで、街の警備隊長をやれたもんだなぁ~」と、蜥蜴族の戦士が、呆れた。

「確かに」と、ゲラーナも、頷いた。そして、「偉い奴に取り入るのが、巧いんだろうな」と、見解を述べた。弱者に対して威張る奴は、大概、上役の機嫌を取るのが上手だからだ。

「おで、モリータ嫌い! エ・グリン様、何故、こんな奴を仲間にしたか? 分からない…」と、スケル豚が、理解に苦しんだ。

「俺は、お前さんとやり合う気は無い。その内、お前さんの方を切り捨てるんじゃないのか?」と、ゲラーナは、不安を(あお)った。ここは、分断する好機だからだ。そして、「どうする?」と、勧誘した。

「おい、豚野郎! 俺の言う事を聞け! エ・グリン様を裏切るのかっ!」と、モリータが、喚いた。

「お前、必死だな。これは、観物(みもの)だなと、蜥蜴族の戦士が、冷やかした。

「う〜ん。心苦しいんだが、お前と一緒に居るのは、嫌だ! いちいち、指図(さしず)してんじゃねぇ!」と、スケル豚が、意思を示した。

「そうか。ならば、ここで、全員、死体共の餌食となれ!」と、モリータが、がなった。

「くっ…! 調子に乗りやがって…!」と、ゲラーナは、歯嚙みした。死体の群れには、対処の仕様が無いからだ。

「おでに、一つだけ、考えが在る」と、スケル豚が、示唆した。

「何だ?」と、ゲラーナは、問うた。この際、どんな案だろうと、乗っかるしかないからだ。

「おでの脂を、武器に塗るんだよ」と、スケル豚が、回答した。

「その脂に火を()けて、炎の剣にするのだな」と、ゲラーナは、補足した。刀身は、熱で駄目になるが、他に、方法が無いからだ。

「気乗りはしないが、それしか無いだろう」と、蜥蜴族の戦士も、同意した。

 間も無く、スケル豚が、二人の武器の刃渡りへ、撫でるように、右手で、手脂を塗った。程無くして、「出来たぜ」と、告げた。

「へ、これで、何とかなりそうだな」と、ゲラーナは、意気込んだ。行動不能にする事くらいは、出来そうだからだ。

「豚野郎! エ・グリン様に、言い付けてやらあ!」と、モリータが、語気を荒らげた。

「うるせえ! 俺は、俺の思うがままに生きる! ついでに、孫のお()りは、ごめんだぜ!」と、スケル豚も、言い返した。

「その前に!」と、ゲラーナは、モリータへ斬り掛かった。使用者だけでも、叩いておくべきだからだ。一瞬後、モリータの頭部から胸元までを切り裂いた。

「これで、動きが…」と、蜥蜴族の戦士が、言葉を詰まらせた。

「どうした?」と、ゲラーナは、尋ねた。そして、周囲を見回すなり、「なっ…!」と、両目を見開いた。死人達の移動速度が、落ちて居ないからだ。

「モリータめ! 死体で、複製していたみたいだな!」と、スケル豚が、憎々しげに言った。

「そ、そのようだな…」と、ゲラーナも、視線を戻して、苦笑した。本物と見分けが付かなかったからだ。

「あいつ! 屋敷へ駆け込みやがったぞ!」と、スケル豚が、口にした。

「俺達も、ここを離脱だ!」と、ゲラーナは、決断した。モリータに逃げられ、死体立ちに殺られるのは、ごめんだからだ。

「そうだな。長居は無用だな」と、蜥蜴族の戦士も、頷いた。

「おでも、あんたらに付いて行く。啖呵(たんか)を切っちまった以上、戻れないからな」と、スケル豚が、同行を告げた。

「取り敢えず、火を起こすぞ!」と、ゲラーナが、提言した。突破するには、死体を行動不能にする事が、前提条件だからだ。

「了解!」と、蜥蜴族の戦士も、応答した。

 その直後、二人は、軽く刃先を当てた。次の瞬間、火花が散るなり、刃渡りが、炎に包まれた。

 間も無く、ゲラーナ達は、エ・グリン邸からの離脱を開始するのだった。

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