一〇九、報告
一〇九、報告
ダーシモ商工組合執務室にて、パレサ達は、ソドマらの帰りを待ち侘びて居た。
「ソドマの奴、大丈夫かなぁ〜」と、パレサは、眉間に皺を寄せながら、心配した。偵察ならば、もう帰って来ても、良い頃合いだと思うからだ。
「ひょっとして、何か、不具合でも起こったのかも…」と、フェイリスが、口にした。
「うちの受付兼盗賊頭のリーボンが一緒だし、戦闘となれば、ヤッスルと
ボライオスが居るから、安心せえ!」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男が、得意満面に言った。
「どれだけ強いかは、判らないけどな…」と、パレサは、眉を顰めた。三人の実力を知らないからだ。
「パレサさん。今は、皆が無事に戻って来られる事を祈りましょう」と、エシェナが、やんわりと言った。
「そうだな。俺が苛ついたところで、ソドマ達が、目の前に現れる訳じゃないしな」と、パレサも、理解を示した。ただ待つだけというのが、もどかしいからだ。
「そうね。私達に出来る事は、帰りを待つだけだからね」と、フェイリスも、淡々と言った。
その直後、ソドマ達が、瞬時に現れた。
「ソ、ソドマ!」と、パレサは、面食らった表情で、名を呼んだ。まさか、眼前に現れるとは、思わなかったからだ。そして、「ほ、本当に、ソドマだよな?」と、信じられない面持ちで、尋ねた。
「パレサ、ただいま」と、ソドマが、応えた。
「ボライオス、リーボンは?」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男が、問うた。
「デヘルの足止めに向かいました。俺らとは、別行動です」と、ボライオスが、回答した。
「別行動?」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男が、眉を顰めた。
ボライオスが、経緯を語った。
しばらくして、「つまり、橋を架け直して居たので、お前らが陽動して、デヘル軍を惹き付けて、リーボン達に、破壊工作をさせたって訳か…」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男が、口にした。そして、「成果は?」と、問うた。
「俺らは見て居ないが、大きな破裂音が聞こえたっけな」と、ヤッスルが、口を挟んだ。
「攻め込まれる寸前の所で、僕らは、“タクの切符”で、逃げ出したんだけどね」と、ソドマが、補足した。
「音だけじゃあ、判断は付かんな…」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男が、渋い顔をした。
「ケッバーって奴に嵌められて、デヘルの捕虜にされたとか…」と、ボライオスが、表情を曇らせた。
「時と場合によっては、傭兵ってのは、態度を変えるものだからな」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男も、頷いた。
「でも、それでしたら、僕らも、どうなって居たか、分かりませんよ」と、ソドマが、異を唱えた。
「ケッバーは、オイらを騙すほど、卑怯な男じゃねえ!」と、ヤッスルが、語気を荒らげた。
「ヤッスルは、お人好しだからなぁ〜」と、ボライオスが、溜め息を吐いた。
「ぐっ…」と、ヤッスルが、歯嚙みした。
「わしも、ヤッスルの言葉を信じるとしよう。案外、人を観る目が在るからな」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男が、支持した。
「分かったよ。まあ、リーボンが、一番、疑っていたから、大丈夫だと思うが…」と、ボライオスが、ぼやいた。
そこへ、二人の者が、転移した。
その瞬間、一同は、安堵した。ケッバーとリーボンの無事を確認したからだ。
「あら? あたい達が、後だったようね」と、リーボンが、あっけらかんと言った。
「おいおい。心配したんだぜ。デヘルに捕まったんじゃないかってな」と、ボライオスが、平静を装った。
「らしくないじゃない。それに、あんたに心配される筋合いも無いからね」と、リーボンが、素っ気無く言った。
「早速だが、“破裂音”について、聞かせて貰えんかな?」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男が、口を挟んだ。
「私からで、宜しいでしょうか?」と、ケッバーが、申し出た。
「どちらでも、構わんよ」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男が、快諾した。
間も無く、ケッバーが、別行動時の事を語り始めた。
しばらくして、「“破裂音”は、リーボンが、茶背広の男から貰った“玉”だったのか…」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男が、冴えない表情をした。
「胡散臭いとは思ったけど、使い時だと思ったから、使っただけよ」と、リーボンが、心境を述べた。そして、「ケッバーが居なかったら、多分、旨く行かなかったかもね」と、補足した。
「そうですね。ケッバーさんが協力してくれなければ、デヘルの侵攻を止められなかったかも知れませんね」と、ソドマも、同調した。
「私は、仕事をしたまでだ」と、ケッバーが、謙遜した。
「しかし、君は、もう、デヘルへは戻れないんじゃないのかね?」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男が、表情を曇らせた。
「少なくとも、アフォーリー隊へ戻る事は出来ませんね」と、ケッバーが、しれっと返答した。そして、「デヘルと組むのは、元々、今回までと決めて居ましたので…」と、語った。
「しかし、これまでの報酬なんかは、どうするんだ?」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男が、尋ねた。
「頂ける物は、明日にでも、貰いますよ」と、ケッバーが、含み笑いをした。
「ちゃっかりしてんな」と、パレサは、感心した。ケッバーのあざとさに、舌を巻いたからだ。
「団員を食わさなければならないからな」と、ケッバーが、理由を述べた。
「そうだな」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男も、同調した。そして、「どうだろう。デヘルの脅威が落ち着くまででも、専属の傭兵になって貰えんかな?」と、勧誘した。
「そうだな。デヘルを敵に回す事になるのだが、同盟という形で、どうだろうか?」と、ケッバーが、提案した。
「まさか、しょぼい人数で、うちの組合と同盟なんて言わないでしょうね?」と、リーボンが、つっけんどんに言った。
「確かに、人数的に、うちの傭兵団は、しょぼいだろうな」と、ケッバーが、肯定した。そして、「けれど、色んな繋がりが有るから、悪い話じゃない筈だ」と、自信満々で、言葉を続けた。
「確かに、人との繋がりは、強味だな」と、威厳の在る顔のブヒヒ族の男も、頷いた。そして、「わしは、同盟でも構わんぞ。対等な立場なら、お互いにとっても、悪くはないだろう」と、理解を示した。
「私が疑わしいのなら、君が、お目付役として、同行してくれても構わんよ」と、ケッバーが、リーボンを誘った。
「そうね。あたいの“勘”では、あんたが、何かを隠している気がするのよねぇ」と、リーボンが、疑いの眼差しを、ケッバーへ返した。
「俺も、連れて行って貰えないか?」と、パレサは、志願した。興味を唆られるからだ。
「パレサ、物見遊山に行くんじゃないんだよ」と、ソドマが、眉間に皺を寄せた。
「どんな所なのか、知りたいんだよ」と、パレサは、理由を述べた。戦好きというのだから、国民全員が、武装しているのかも知れないと想像したからだ。
「どんな想像をしているかは知らないけど、君が思うような所じゃないと思うよ」と、ソドマが、呆れ顔で、否定した。
「ソドマさんも、付いて行ったら、どう?」と、フェイリスが、提言した。
「お目付役としてですか?」と、ソドマが、冴えない表情で、問うた。
「帝都には、世界魔術師組合と同じ規模の図書室が在るわよ」と、フェイリスが、回答した。
「そ、そうなんですか!」と、ソドマが、両目を見開いた。そして、「でも、余所者が、容易に立ち入れないでしょう? 特に、異種族の者は…」と、顔を顰めた。
「その図書室の最高責任者は、バニ族で、帝国大学学長のバッチャマという方よ。異種族や他国の者の為に、門戸を開かれているのよ。だから、遠慮は要らないわ」と、フェイリスが、力強く言った。
「そ、そうなんですか…」と、ソドマが、冴えない表情で、生返事をした。
「ソドマ。門前払いされたら、俺が怒鳴り込んでやるよ!」と、パレサは、口にした。偶には、ソドマの力になってやりたいからだ。
「私も、一言言ってあげますわ」と、エシェナも、口添えした。
「エシェナ、君も付いて来る気かい?」と、パレサは、驚きの表情で尋ねた。エシェナが付いて来るのは、想定外だからだ。
「帝都へ行く機会が無かったものですから、パレサさんと同行して、見ておきたいと思ったので…」と、エシェナが、理由を述べた。
「おいおい。まだ、私は、連れて行くとは言っていないぞ」と、ケッバーが、苦笑した。
「た、確かに!」と、パレサ達は、口を揃えた。
「まあ、仕事料を貰いに行くだけだから、帝都見物は、今のところ、考えていないからな」と、ケッバーが、淡々と言った。
「一先ず、“ヨーカン号”の奴らに、伝えるとしようぜ」と、ヤッスルが、口を挟むのだった。




