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英傑物語  作者: しろ組


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一〇七、大義名分

一〇七、大義名分


黄龍(イエロードラゴン)が飛び去った直後、「学長が、(さら)われてしまったぞ!」と、オサーク副学長は、錬金学術部の建屋前で、喧伝した。この方が、印象良く見えるからだ。

「まさか、黄龍を使うとは…!」と、衛兵が、左隣で、悔しがった。

「あれは、アマガー教授の仕業ですかねぇ」と、巨躯の衛兵が、北の方を見やりながら、ぼやいた。

「だろうな。あやつは、ドナ国から、敵前逃亡をして、戻って来た奴だ。恐らく、自己保身の為に、学長を人質にして、何処かの国へ、亡命(ぼうめい)する気かも知れんな」と、オサークは、吐き捨てるように言った。アマガーを主犯に仕立てておけば、学長の身に、何かが起こっても、転嫁し易いからだ。

「錬金術と申しますと、ライランス大陸の錬金大国のブサイクリング帝国辺りですかね?」と、左隣の衛兵が、口にした。

「確かに、我が帝国と張り合える大国と言えば、ブサイクリングしかないだろうな」と、オサークは、頷いた。デヘルと並び、大国と称されるのは、ブサイクリング以外に、考えられないからだ。

「急いで追いませんと、ブサイクリング領内へ逃げられると、厄介な事になりますぞ」と、巨躯の衛兵も、顔を顰めた。

「確かにな。大陸統一の前に、邪魔が入ると、この国が、滅ぼされるかも知れんしな」と、オサークも、渋い顔をした。この戦が失敗に終われば、帝国大学の存亡(そんぼう)にも係わり兼ねないからだ。

「この方角ですと、アーク提督の指揮するデヘル水軍艦隊の上を通る事になりますねぇ」と、左隣の衛兵が、口にした。

「ウルフ族の指揮官か…」と、オサークは、憎々しげに言った。そして、「信用ならんな」と、言葉を吐いた。見逃すような気がするからだ。

「黄龍と戦闘となりますと、茶竜(チャイバーン)が最適ですけど、ドナ国へほとんど向かわせましたので、帝都に居るのは、数頭くらいですかねぇ」と、巨躯の衛兵が、語った。

「まあ、理想としては、茶竜が望ましいところだが、帝都の有事の際の事を考えると、茶竜を調達するのは、現状、無理だろうな」と、オサークは、溜め息を吐いた。このような些事(さじ)で、茶竜を要請するのは、気が引けるからだ。

「では、保毛天馬(ホモサス)は、どうですか?」と、左隣の衛兵が、提案した。

「保毛天馬なら、どれくらいで、出発出来る?」と、オサークは、問うた。すぐにでも、追い掛けさせたいからだ。

「今からですと、夜の(とばり)が下りる頃には、出られると思いますよ」と、左隣の衛兵が、回答した。

「しかし、それでは遅いな」と、オサークは、ぼやいた。アークの艦隊と接触する前に、捕まえて貰いたいからだ。

「だったら、“謀反人の討伐”なんて言ったら、どうだ?」と、巨躯の衛兵が、満面の笑顔で、提言した。

「なるほど。その手なら、(よい)の口くらいで、出発出来そうだな」と、オサークも、賛同した。どさくさに紛れに、邪魔者を始末出来るからだ。そして、「じゃあ、お前達に、追跡の件は、任せても良いかな?」と、口元を綻ばせた。

「はっ!」と、二人が、即答した。間も無く、本館の方へ向かった。

「わしは、学長室で、報告を待つとしようかのう」と、オサークは、満面の笑みを浮かべた。学長の地位は、目の前にぶら下がっているようなものだからだ。そして、「イーッヤッホー!」と、跳び上がった。少しして、「うっ!」と、着地に失敗して、左の足首を捻挫するのだった。

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