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英傑物語  作者: しろ組


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一〇四、河川敷にて

一〇四、河川敷にて


 ヤスタンは、パレサ達が戻るまで、筏で来た四人を見張る任に就いて居た。

「ブヒヒ族の兄ちゃんよ。俺らは、デヘルの間者(スパイ)じゃないぜ。(むし)ろ、戦う為に来たんだよ!」と、柄の悪い若者が、熱っぽく言った。

「まあ、口では、何とでも言えるからな」と、ヤスタンは、素っ気無く返答した。相手の額面通りに聞き入れても、碌な事にはならないからだ。

「バートン、大人しくして居ろ。ヤッスル達が、嫌疑(けんぎ)を晴らしてくれる筈だからな」と、弓を左の肩に掛けているブヒヒ族の女性が、仏頂面で、窘めた。

「俺が言えた義理じゃないですけど、このお方に、何を言っても、信じて頂けないと思いますよ」と、縮れ頭の兵士が、口を挟んだ。

「まあ、俺らと一緒という時点で、デヘルの者だと思われても、仕方無いでしょう」と、鞘だけを差した兵士も、口添えした。

「た、確かに…」と、バートンが、言葉を詰まらせた。

「まあ、俺様だって、お前さんらの言う事を聞いてやりたいんだが、連れが戻って来るまで、辛抱(しんぼう)してくれ」と、ヤスタンは、口にした。デヘル軍の動向が判らない以上、足止めするしかないからだ。

「時に、ブヒヒ族の戦士よ。どうして、お前は、ダーシモへ肩入れしているのかな?」と、ブヒヒ族の女性が、淡々と尋ねた。

「そうだな…」と、ヤスタンは、経緯を語った。

 しばらくして、「なるほど。特に、縁もゆかりも在る訳じゃないんだな」と、ブヒヒ族の女性が、理解を示した。

「ああ」と、ヤスタンは、頷いた。そして、「けれど、蛮行を働く連中は、許せん!」と、意気込んだ。蛮行に、大義など無いからだ。

「くっ…。ゴルトが聞いたら、嬉々としただろうな」と、バートンが、溜め息を吐いた。

「他にも、別動隊がっ!」と、ヤスタンは、身構えた。目の前の者達は、囮かも知れないからだ。

「いや。それは無い」と、ブヒヒ族の女性が、否定した。そして、「信じる信じないは、勝手だが、デヘルの者達を乗せる前に、離れ離れになったんだよ」と、ブヒヒ族の女性が、事情を説明した。

「俺らが乗せて貰った時には、もう、三人だけでしたよ」と、縮れ頭の兵士が、補足した。

「そうか。でも、気を抜く事は出来んな」と、ヤスタンは、警戒を解かなかった。何処で、様子を窺って居るか、知れたものではないからだ。

(うたぐ)り深いんだな」と、縮れ頭の兵士が、口にした。

「まあ、性分なんでな」と、ヤスタンは、しれっと言った。初対面で、敵かも知れない連中を信じる程、お人好しじゃないからだ。

「俺も、半裸の兄ちゃんの言う事には賛成だぜ」と、バートンも、同調した。

「私も、立場が逆なら、同じ事を言うだろうな」と、ブヒヒ族の女性も、考えを述べた。

「俺達は、あんまり、他人を疑うのは苦手だからな」と、鞘だけを差した兵士が、苦笑した。

「そうだな。村から出たのは、今回が初めてだしな」と、縮れ頭の兵士も、補足した。

「なるほど。だから、ゴルトとも、どっこいどっこいだったんだな」と、バートンが、納得した。

「あんたも、俺と、ほぼ互角だっただろ!」と、鞘だけを差した兵士も、指摘した。

「ははは。俺は、盗みが専門だからな」と、バートンが、誤魔化した。

「何だ? 実戦経緯の乏しい素人の集まりってか…」と、ヤスタンは、愕然となった。弱い振りをしているのかと思えば、本気で弱いのだと判明したからだ。

「ちょっと、待て!」と、ブヒヒ族の女性が、口を挟んだ。そして、「私は、違うぞ!」と、即座に否定した。

 その直後、「さっきの矢は、あんたが…」と、ヤスタンは、表情を強張らせた。少なくとも、射撃の腕前を、目の当たりにして居たので、実力は、本物だと直感したからだ。

「如何にも」と、ブヒヒ族の女性が、したり顔で、小さく頷いた。そして、「我が名は、“ブーヤン”。ここより少し上流の森で、集落の見回りをして居た者だ」と、言葉を続けた。

「それだけの腕前の在る奴が、集落を離れて良いのかい?」と、ヤスタンは、尋ねた。集落が狙われたら、お終いだからだ。

「いや。もう、私の集落は、無いんだよ…」と、ブーヤンが、視線を伏せた。

「そうか…。悪い事を聞いちまったな…」と、ヤスタンは、思い(とど)まった。これ以上の事を聞くのは、酷だと察したからだ。

「気にするな。別に、あんたの所為じゃないんだからさ」と、ブーヤンが、頭を振った。

「半裸の兄ちゃんよ。あんた、俺らの事ばっかり聞いて居るけど、まさか、“形式(かっこう)だけ”って事は無いだろうな?」と、バートンが、訝しがった。

「へ、ヤスタン様を舐めてんじゃねえ! 実戦は、まだだが、鍛錬(たんれん)だけは、毎日、しっかりやって居るから、後れは取らない筈だ」と、ヤスタンは、胸を張った。素振(すぶ)りだけは、毎日、剣を数回だけ振って居るからだ。

「確かに、それなりの筋肉は、在りそうだな」と、バートンが、見解を述べた。

「しかし、実戦は、まだだって言ってたけど、どうしてだ?」と、ブーヤンが、怪訝な顔で、尋ねた。

武者(むしゃ)修行の為に、旅を始めたばかりさ」と、ヤスタンは、得意満面に、回答した。こう言った方が、格好が付くからだ。

「武者修行ねぇ〜」と、バートンが、見据えながら、溜め息を吐いた。

「まあ、初心者が、よく言う方便だな」と、ブーヤンも、同調した。

「俺らには、勇ましい戦士様にしか見えんがな」と、縮れ頭の兵士が、口にした。

「そうそう」と、鞘だけを差した兵士も、相槌を打った。

「どうだろう? 私と手合わせをして貰えないか?」と、ブーヤンが、申し出た。

「いや。今は、止めておこう。それに、女と戦わない主義なんでな」と、ヤスタンは、もっともらしく断った。ブーヤンが、一番苦手な相手であり、自分が倒されれば、逃走される事も、考えられるからだ。

「そうか。ちょっと、体を動かしたかったのだが、仕方無いな」と、ブーヤンが、両手を組んで、頭上へ突き上げながら、伸びをした。

「俺らは、ケッバーさんが戻るまで、ごろ寝でもして居ようぜ」と、鞘だけを差した兵士が、提言した。

「そうだね。また、どうなるか、判らないからな」と、縮れ頭の兵士も、同意した。

「デヘルが来るまでの束の間の時間だから、それもアリかな」と、バートンも、頷いた。

「まさか、俺様を油断させる為に…」と、ヤスタンは、睨みを利かせた。こちらの隙を作る作戦かも知れないからだ。

「疑うのは、勝手だ。私達は、騙し討ちをする気は無い。殺る気だったら、お前の前に現れずに、仕留めている!」と、ブーヤンが、厳かに言った。

「た、確かに…」と、ヤスタンは、言葉を詰まらせた。説得力が在るからだ。

「あんたも、大軍を相手にしなければならないんだから、今の内に、休んどいた方が良いぜ」と、バートンが、助言した。

「そうするか…」と、ヤスタンも、聞き入れるのだった。

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