一〇三、発狂のアフォーリー
一〇三、発狂のアフォーリー
アフォーリーは、建造中の橋の在る場所から、少し下流の河川敷に設置している簡易天幕の中に居た。そして、「くそっ! 今頃は、もう、ダーシモの手前くらいだろうに!」と、ぼやいた。橋さえ消されて居なければ、ダーシモ攻めに、着手している筈だからだ。
少しして、外が騒々しくなり始めた。
「ちっ! 懲りてないようだな!」と、河川敷の方から、声がした。
「数では、こっちが上だ! やっちまえーっ!」と、威勢の良い声が、追い討ちを掛けた。
間も無く、アフォーリーは、簡易天幕から、外へ出た。そして、河川敷の方を見やった。何の騒ぎかと思ったからだ。
その直後、川上の方で、破裂音が響いた。
その瞬間、周囲が静まり返った。
その間に、アフォーリーは、川上の方へ視線を向けた。何かが起きた事に、違い無いからだ。程無くして、巨大な火の玉が、川へ落ちる様を視認した。
少し後れて、「アフォーリー様! 大変です!」と、兵士が、土手を下りながら、駆け寄って来た。
「何が起こったんだ?」と、アフォーリーは、開口一番に、尋ねた。只事ではないのは、確かだからだ。
「私にも、ちょっと、判りません…」と、兵士が、狼狽しながら、回答した。
「橋が気になる! 付いて来い!」と、アフォーリーは、着の身着のままに、土手へ向かった。今後の進軍にも、響くかも知れないからだ。
「は、はい!」と、兵士も、即答した。
二人は、坂道を上り始めた。しばらくして、三叉路に、差し掛かった。
そこへ、林道から、二人の兵士が、現れた。そして、「アフォーリー様!」と、すぐさま、右手で、敬礼をした。
「お前達、何事か、判るか?」と、アフォーリーは、問うた。橋に近いのだから、何かしらの情報が得られると思ったからだ。
「いえ。自分にも、さっぱり…」と、面長で、縮れ頭の兵士が、眉根を寄せながら、返答した。
「シキヂの言う通り、自分も、音くらいしか聞いてません!」と、右側に居る短髪で、色黒肌の小太りの兵士も、口添えした。
「そうか。現場が、どうなっているのか、確認せんといかんな」と、アフォーリーは、表情を曇らせた。百聞は、一見にしかずだからだ。そして、「お前達も、付いて来い!」と、誘った。敵の襲撃とも考えられるからだ。
「はっ!」と、二人が、応えた。
間も無く、二人は、坂道を上った。程無くして、道の真ん中で、橋の方を見ながら、立ち尽くして居る誘導兵を視認した。
誘導兵も、存在に気付くなり、歩み寄って来た。
「おい、何が起こった?」と、アフォーリーは、数歩手前から、問い掛けた。一刻も早く、事態を把握したいからだ。
誘導兵が、立ち止まり、「と、突然、橋から火柱が上がりまして、茶竜が、炎に包まれたのであります!」と、回答した。
「橋から、“火柱”だと?」と、アフォーリーは、眉を顰めた。そして、「魔導師みたいな奴でも、来て居たのか?」と、尋ねた。魔導師くらいの術者てない限り、火柱やら、茶竜を炎に包む事など、考えられないからだ。
「いえ。自分は、魔導師には会って居ませんが…」と、誘導兵が、歯切れの悪い返答をした。
「何者かが、来たのだな?」と、アフォーリーは、詰問した。誰であろうが、この件を有耶無耶にしたくないからだ。
「はあ。確か、手の長いウキキ族の傭兵だったと思います…」と、誘導兵が、眉間に皺を寄せながら、証言した。
「あの傭兵め! 何かしらの“魔具”を使って、橋を消したのかも知れんのう!」と、アフォーリーは、語気を荒げた。朝から姿を現さないのは、自分を貶める為に動いているのだと考えられるからだ。
「アフォーリー様。もしも、“魔具”を使っていたのでしたら、橋の方から来ている筈ですし、何よりも、茶竜が気付いて、攻撃を仕掛けていた筈ですよ」と、誘導兵が、異を唱えた。
「確かに、下等種族が、独りでは、何も出来んわな」と、アフォーリーも、聞き入れた。魔具を持っているのなら、早い内に、仕掛けて来ている筈だろうからだ。
「あのぉ~。アフォーリー様…」と、色黒肌の小太りの兵士が、口を挟んだ。
「何だ?」と、アフォーリーは、振り返った。そして、「お前らも、怪しい奴を見たと申すのか?」と、尋ねた。可能な限り、情報を収集しておきたいからだ。
「はい。林道へ向かう途中、妙な格好の三人組と出食わしましたんですが…」と、色黒肌の小太りの兵士が、口にした。そして、「な、シキヂ」と、同意を求めた。
「間違いありません!」と、シキヂも、力強く頷いた。
「どのような連中だ?」と、アフォーリーは、不機嫌に問うた。その線も、疑うべきだからだ。
「二人の男が、茶ずくめの盗賊を捕らえたと申しましたので、アフォーリー様の天幕へ向かうように、指示をしたんですが…」と、色黒肌の小太りの兵士が、語った。
「ん? そのような連中は、来て居らんぞ!」と、アフォーリーは、訝しがった。道中で、行き違って居ないからだ。
「俺達は、嘘は申してません!」と、シキヂが、断言した。
「そうか…。しかし、これだけ、情報が錯綜しているとなると、本当と嘘の分別が付かんな…」と、アフォーリーは、表情を曇らせた。情報が多過ぎて、こんがらがって来たからだ。そして、「取り敢えず、現場の状況だけ、見ておくとしようか…」と、口にした。工事現場で、何かが起きた事だけは、事実だからだ。
「確かに、見たとか、見ていないとか言い合っていても、時間の無駄ですからね」と、色黒肌の小太りの兵士も、同調した。
間も無く、五人は、橋の方へ、歩を進めた。程無くして、現場へ到着した。
その瞬間、「は、橋が…」と、アフォーリーは、その場に、両膝を着いた。一からやり直しとなっているからだ。
「うわぁーっ!」と、色黒肌の小太りの兵士も、驚きの声を発した。
「マジかよ…」と、誘導兵も、嘆息した。
「アフォーリー様、気を落とさないで下さい」と、同行の兵士も、声を掛けた。
「俺達が、奴らを連行して居れば…」と、シキヂが、悔やんだ。
「ゆ、許さんぞ! わしの計画を邪魔しおって!」と、アフォーリーは、激昂するなり、立ち上がった。自分の計画を邪魔した者を生かして置く訳にはいかないからだ。そして、「こうなったら、お前らの目撃した者共を、引っ捕らえろ! 絶対に、逃がしてはならんぞ!」と、怒り狂った。目にものを見せてやらねば、気が済まんからだ。
「は、はい!」と、シキヂ達が、即答した。
「シキヂ。俺達は、もう一度、林道の方へ行くぜ!」と、色黒肌の小太りの兵士が、口にした。
「そうだな。まだ、間に合うかも知れないからな」と、シキヂも、応じた。
「自分は、ここで、見張って居ます」と、誘導兵が、告げた。
「うむ。わしらは、捜索隊を編成するぞ!」と、アフォーリーは、踵を返すのだった。




