一〇一、陽動
一〇一、陽動
ソドマ、ヤッスル、ボライオスは、ウスロ川右岸の河川敷へ転移した。
「俺の想像では、あの明かりの傍だったんだがな」と、ボライオスが、右手で、少し先の篝火を指した。
「でも、明るい所に、僕らが現れちゃうと、不味いんじゃないんですか?」と、ソドマは、冴えない表情をした。即座に、連行される虞が有るからだ。
「確かに、目立ち過ぎるかもな」と、ボライオスも、理解を示した。
「まあ、どの道、おいらは、目立たなくちゃあいけないから、明かりの傍まで行こうぜ」と、ヤッスルが、口を挟んだ。
「そうですね」と、ソドマも、相槌を打った。デヘル軍の気を惹くのが、本来の役目だからだ。
「確かに…」と、ボライオスも、頷いた。
間も無く、三人は、篝火の焚かれている所へ、歩を進めた。少しして、明かりの届く範囲内へ、足を踏み入れた。
その途端、「おい! お前ら、昼間の仕返しかっ!」と、重装備の鉄槌を構えた兵士が、喧嘩腰で、怒鳴った。
「は? 俺らは、初めて、ここへ来たんだぜ。人違いじゃないのか?」と、ボライオスが、否定した。
「いや。川から来るという事は、魔物以外に考えられん!」と、鉄槌を構えた重装備の兵士が、断言した。
「どうやら、ビ・チャブリンと勘違いしているみたいだな」と、ヤッスルが、溜め息を吐いた。
「昼間に、ビ・チャブリンと、一戦交えたみたいですね」と、ソドマも、見解を述べた。魔物と戦ったと推察したからだ。
「昼間の魔物が出たぞーっ!!」と、鉄槌を構えた重装備の兵士が、振り返りながら、叫んだ。
少しして、数名の兵士達が、駆け付けるなり、各々の武器を構えた。
「ちっ! 懲りてないようだな!」と、剣を構えた兵士が、息巻いた。
「どうやら、話は通じないみたいですねぇ」と、ソドマは、嘆息した。殺る気満々だからだ。
「そうみたいだな。ビ・チャブリンと半魚族との見分けが付いていないみたいだからな」と、ボライオスも、同調した。
「まあ、おいらが怒らせるよりも、デヘルが、やる気だから、やり易いけどな」と、ヤッスルが、あっけらかんと言った。
「そうですね。僕も、喧嘩を吹っ掛けるのは、苦手なんで…」と、ソドマも、口にした。どちらかと言えば、喧嘩を売られる方だからだ。そして、「まあ、僕達は、身を護りましょう!」と、告げた。自己防衛の為なら、気兼ね無く、殴れるからだ。
「そうだな。向こうから、喧嘩を売って来たんだから、ソドマの言う通り、正当防衛って事になるな」と、ボライオスも、補足した。
「おいも、売られた喧嘩を買う主義だ。おいに喧嘩を売って来た事を、後悔させてやる!」と、ヤッスルも、奮い立った。
間も無く、デヘル兵の一団が、仕掛けて来た。
「この人狼があっ!」と、剣を持った兵士が、斬り掛かって来た。
「僕は、人狼じゃないよ!」と、ソドマは、両手で、分厚い本を振るいながら、鎬へ当てて、斬撃を逸らした。本を傷めたくないからだ。
程無くして、「わっ!」と、剣を持った兵士が、前のめりに転けた。そして、勢いそのままに、河原の石を叩いた。次の瞬間、切っ先から半分が、砕け散った。
「えい!」と、ソドマが、突っ伏した兵士の頭へ、本を振り下ろした。そして、後頭部へ、命中させた。
程無くして、兵士が、伸びてしまった。
「おい! 昼間の魔物よりも、手強いぞ!」と、鉄槌を構えた重装備の兵士が、慌てた。
「飛び掛かられる前に、殺っちまえ!」と、槍を持った兵士が、鋭い突きを放って来た。
「やらせるかっ!」と、ヤッスルが、穂先の根元の部分を、右手で叩いた。その直後、叩いた箇所から、ポッキリと折れた。
「マ、マジかよ…」と、槍を持った兵士が、呆然となった。
「どうやら、“不良品”ばかりみたいだねぇ」と、ソドマは、皮肉った。“質”より“量”のような感じだからだ。
「確かに、噂ほどじゃないな」と、ボライオスも、同調した。「くそう! 虚仮にしやがって!」と、鉄槌を構えた重装備の兵士が、怒りを露わにした。
「呆けている場合じゃないぞ! ここで、食い止めないと、アフォーリー様に、処罰されちまう!」と、弓を持った兵士が、構えながら、立ち尽くして居る槍の柄だけを持った兵士へ、怒鳴った。
その直後、「お、おう!」と、槍の柄だけを持った兵士が、気を取り直した。
「俺は、あの豚野郎を殺るから、お前は、人狼の相手をしろ!」と、鉄槌を構えた重装備の兵士が、指示した。
「分かった」と、槍の柄だけを持った兵士も、頷いた。
「じゃあ、俺は、援護をするぜ!」と、弓を持った兵士も、意気込んだ。
「させるかっ!」と、ボライオスが、手の平大の飛礫を、弓兵へ向かって投げ付けた。間も無く、弓へ命中させた。その瞬間、命中した箇所が、砕け散った。そして、「へ、これで、弓は使い物にならねえな」と、口にした。
「ボライオス、流石だな!」と、ヤッスルが、称賛した。
「おい! ぼさっとして居ないで、応援を呼んで来い!」と、鉄槌を構えた重装備の兵士が、指示した。
「お、おうっ!」と、弓兵が、我に返るなり、砕けた弓を投げ捨てて、踵を返した。
「お前達を通さないぞ!」と、槍兵が、穂先の無い柄を横に構え直しながら、立ちはだかった。
「この豚野郎! 頭をかち割ってやるぜ!」と、重装備の兵士が、鉄槌を振り上げながら、突っ掛かった。
「相手になってやらあ!」と、ヤッスルも、応じるなり、向かっって行った。
「おい! 人狼! 余所見してんじゃねぇぞ! コラァ!」と、槍兵が、凄んだ。
「そうだね」と、ソドマも、相槌を打った。自分も、目の前の相手に、集中しなければならないからだ。
「何だ? 舐めてんのか!」と、槍兵が、怒鳴った。
「う〜ん。僕は、別に、あなたを見下してなんか居ませんよ」と、ソドマは、しれっと否定した。特に、何とも思って居ないからだ。
「人狼の分際で、見下すだとぉ~!」と、槍兵が、歯軋りした。
「僕、何か、怒らせる事を言いましたか?」と、ソドマは、眉根を寄せた。益々、機嫌が悪くなったからだ。
「お前の態度が、ムカつくんだよ!」と、槍兵が、指摘した。
「ははは…」と、ソドマは、苦笑した。パレサにも、よく言われたからだ。そして、「僕の幼馴染みにも、同じ事を言われます…」と、補足した。
「なるほど…」と、槍兵が、納得した。その直後、「じゃねぇよ!」と、頭を振った。そして、「ええい!」と、折られた箇所を突き出して来た。
「何の!」と、ソドマは、咄嗟に、本で受け流した。
「おおっと!」と、槍兵も、柄を突き立てて、踏み留まった。そして、「舐めるな!」と、柄を軸にして、蹴りを繰り出した。
ソドマは、右の脇腹へ食らってしまった。その瞬間、「ぐ…!」と、顔を顰めた。今の一撃は、全く、意識して居なかったからだ。
その間に、槍兵が、柄を振り上げで、攻撃態勢を取って居た。
ソドマは、本を顔の前へ持って行った。まともに食らえば、伸されるのは、必至だからだ。
「させねえよ!」と、ボライオスが、背後から口を挟んだ。その直後、鈍い音がした。
間も無く、ソドマは、右側へ、前のめりに倒れる槍兵を視認した。そして、振り返り、「た、助かりました…」と、礼を述べた。一撃を受け止める覚悟だったからだ。
「良いって事よ」と、ボライオスが、にこやかに、返答した。そして、ヤッスル、そろそろ決着を付けろや!」と、煽った。
「おう! そうだな!」と、ヤッスルも、同意した。
「豚野郎! もうじき、仲間が、駆け付けて来る! このまま、帰れると思うな!」と、重装備の兵士が、不敵な笑みを浮かべた。
程無くして、「こっちだ!」と、弓兵の声が、聞こえた。
「形勢逆転みたいだぜ」と、重装備の兵士が、口元を綻ばせた。
「二人共、俺の傍まで来い!」と、ボライオスが、呼び掛けた。
ソドマは、左手で、脇腹を押さえながら、後退を始めた。
少し後れて、「おらよ!」と、ヤッスルも、両腕を伸ばして、突き放した。そして、後退を始めた。
「わっ!」と、重装備の兵士が、鉄槌を手放して、尻餅を突いた。そして、「何をしやがる!」と、憤った。
「俺らの役割は、終わったんだよ」と、ボライオスが、告げた。
「ふ、ふざけやがって!」と、重装備の兵士が、激昂した。
その瞬間、上流で、火柱が上がった。そして、破裂音と茶竜の断末魔の声が、通り抜けた。
少し後れて、弓兵が連れて来た援軍も、足を止めて、上流の方を見やった。
その間に、ソドマとヤッスルは、ボライオスへ触れた。
「今だ!」と、ボライオスが、ここぞとばかりに、“タクの切符”を千切った。
その直後、三人は、転移するのだった。




