間話 過去への憧憬~久々にカズキのとこ見に行こっと~
この場所はどこだろうか。周囲を見渡してみるとところどころに廃材や工具が置かれてはいるがその数は少ない。見たところ廃倉庫といったところだろう。そんな倉庫の中でその場に似つかわしくない一人の少女が倉庫の柱に縄で拘束されていた。
その少女は黒髪黒目に整った顔立ちをしており、通っている学校の制服を着ていた。
少女の名は双葉一姫、そう、双葉二姫の双子の姉である。
なぜ、一姫がこのような場所で拘束されているのか、その答えは一姫を取り囲む、学ラン姿の不良少年たちが知っている。
「良い恰好だなぁ、双葉一姫」
不良少年たちのリーダー格の者が下卑た笑い顔をして言う。そんな不良少年に一姫は頭に鈍い痛みを感じつつもいたって平静に問う。
「私はどうしてこんな場所にいるのでしょう?」
一姫は本心を口にする。
「んなもん自分の胸に訊いて見ろってんだ!」
言われて一姫は不良少年の顔を見る。しかし、この少年の顔に心当たりなどどこにもない、と言うよりもこんな不良に興味を引かれたことなど人生で一度たりともない。一姫は首を傾げ少年に再び問う。
「失礼ながら私には全く心当たりがないのですが」
一姫は素直に思ったままを言ったのだが、その態度は不良の怒りを買ったらしく、不良は顔を真っ赤にして怒鳴る。
「手前ぇ、俺を舐めてんのか!?」
「そう言われましても心当たりがないものはないのです」
一方一姫は現在の自身の状況がわかっているのかいないのか、いたって平静に答える。そんな一姫の態度に業を煮やした不良は、一姫の胸ぐらを掴んで怒鳴る。
「俺は手前ぇら姉妹――特に手前ぇに恨みがあんだよ!!」
一姫は不良の姉妹という言葉にピクリと反応を示し、そして思い出す。ああ、そういえば以前に私とルナちゃんがデートをして楽しいひと時過ごしていた時に、ナンパ目的でデートを邪魔してきた虫けらの中にこんな特徴を持った虫けらがいたな。と、あの時は丁寧丁寧にお断りを入れたはずだが、
「まさかあの時のことを恨んでこんなことを?」
一姫は不気味に嗤う、まるで虫けらを見るような目で、そんな一姫の様子に怯んだ不良は掴んでいた胸ぐらを思わず離す。
「そ、そうだよだから、こうやって仲間を呼んで――」
「たかだか女の子二人にこんな大人数とは……そんなにあの時のことが怖かったのですか?」
一姫は不気味に嘲笑う。集まった虫けらの群れを見て。そんな一姫に周りの不良たちも怯み、動揺していた。
「う、うるせえ!!」
そう言って不良がその拳を振り上げた時、何者かが倉庫の扉を開け、一直線に不良たちの下に疾走してくる。
「先手必勝!!」
言って不良のリーダー格の男の顔面に飛び膝蹴りを喰らわせたのはルナであった。一姫はそんなルナの姿を見て目を輝かせる。ああ私の王子様、ルナちゃんならば必ず来てくれると信じていた。
ルナによる飛び膝蹴りを喰らった不良のリーダーはそのまま撃沈、それを確認したルナは次の標的に向かって再びの疾走そして不良たちを相手に大立ち回りを始める。そんなルナに不良の一人が気付いた様に言う
「思い出した。こいつら葛城中の双子鬼だ!!」
「誰が双子鬼じゃい!!」
そう言いながらルナは廻し蹴りを不良に喰らわせる。そんなルナの姿を見て周りの不良たちは動揺し、ついには逃げ出す者も出始めた。そうやって数分後、標的のいなくなった倉庫でルナはピースサインを天に掲げて言う。
「へっへん、ルナちゃん大勝利!!」
そしてルナは一姫に近づき言う。
「一姫、怪我は?」
「頭に少し痛みがありますけど問題ありません」
一姫はまるで憧れの人を見つめる少女のようにその瞳を輝かせながら言う。
「楽しそうに言うなっつーの」
「だってルナちゃんの活躍を見れたんですもの、こんなに感激するもの他にありません」
「あたしゃ、プロレスラーかなんかかっつーの、てか、もう立てるんでしょ、さっさと病院にいくよ」
そう言って手を差し伸べるルナ、一姫は既に解いていた縄から抜け出し、ルナの手を取ろうとした……
そして一姫の目が覚める。一姫は天井に向けて手を伸ばしていた。その先には何もない。しかし、一姫は何か大切なものを掴むように伸ばした手を握り、胸元にその手を大事に、大切そうに抱えた。
ややあって、
「お嬢、目が覚めたのですか?」
どこからか声がする。一姫はその声の主が誰かわかっているようで、その声の主に向かって言う。
「ソウル何も異常はありませんでしたか?」
声の主の正体は一姫の眠っていたベッドに立てかけられていた一本の剣であった。
「ありません、いたって平穏な夜でした」
「そう……」
寝起きだからであろうか、一姫は未だにボーっとしたような目でどこかを見つめていた。
「お嬢、お加減でも悪いのですか?」
「いいえ、少し昔のことを思い起こしていただけです」
「そうですか……」
一姫は時折このように昔のことを思い起こし、ボーっとすることがある。それがわかっているのか、ソウルと呼ばれた剣はそれ以上の言葉を発しなかった。
しばらくして、一姫は思い出したように我に返り、ベッドから出る。
「お嬢今日はどちらに?」
「どこへでも、行きつく地の命を奪うだけです」
「御意」
そう言って一姫はベッドの置かれた部屋から外に出る。するとむせ返るような血の匂いが鼻についた。周りは血だらけの死体だらけ、これら全ては一姫の行った行為の結果である。
そんな惨憺たる場を一姫は何事もないように歩く。次なる標的を求めて……この世界を壊してしまうために……
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