第25話 骨を喰らう者~順調に強くなってるねー~
サジさんの本当の実力を見せてやる発言から数十分後、私たちは未だ森の中で獲物を探していた。
「普通じゃない方の狩りと違って、獲物が中々見つからないですね」
私は出来るだけ小声でサジさんに語りかける。獣に私たちの存在を気取られないためだ。
「そうだね。普通の狩りだけしていたら一日中森の中を歩き回っても獲物がみつからないこともあるよ」
サジさんも私と同じように小声で喋る。
「だけどね、」
サジさんはそう言葉を区切ると、私の危機察知センサーが微弱な何かを検知した。
「サジさんもしかして索敵魔法使いました?」
「え!わかったの?」
「微妙に私の危機察知スキルが反応したような気がしたので」
「まったく、どんな修羅場を送ってたらそんな精度の危機察知スキルを得ることができたのやら……」
サジさんは呆れたようにそう言う。そりゃあ確かに普通の女子高生の生活と比べたらちょっとだけ殺伐とした生活を送ってたけど……
「それはトップシークレットなことなので教えられません」
教えたくないのが本音なのだが、そのあたりはサジさんは察してくれるだろう。
「まぁ、ルナちゃんが話したくないのなら深くは訊かないけど、いつかは聞かせてくれたら嬉しいかな」
「はい」
私たちがそんな話をしていた時だった。サジさんが私の動きを手で制する。
「いたよルナちゃん」
私はサジさんの見つめる方向を見るがそこには何も見当たらない。鬱蒼とした森が広がるのみだ。
「それって索敵魔法に反応があったってことですか?」
「うん、今あたしが向いている方向に一匹いるね」
そう言うとサジさんは背中に装備していたボーンを手に持つ。
「そういえばサジさん弓はボーンちゃんがいるから良いですけど矢はどうするんですか?」
「そんなの象形魔法でいくらでも創り出せるでしょ」
「それもそうですね」
言いながらサジさんは象形魔法で矢を創り出しボーンちゃんにつがえる。
「サジさんその矢って骨で出来てるのですか?」
「そうだよボーンは骨を喰らう者だからね。当然吐き出されるモノは骨の類いになるの」
言ってサジさんは、ボーンちゃんを水平に引き絞る。
「ってサジさん水平に射っても木に当たっちゃいますよ」
「大丈夫、大丈夫」
言ってサジさんはつがえた矢を射ると、その矢は水平に放たれたというのに木々を避けていき、獣に矢が命中したのか、短い断末魔が聞こえた。その様子を私はただただ唖然としながら見ていた。
「よし、行こ、ルナちゃん」
「あ、はい」
言われてサジさんについていくと、200メートルほど歩いた先に、見事な角を生やした一頭の牡鹿が倒れていた。
「すごいですね。本当に当たるなんて思いませんでしたよ」
「あれも魔法の一種だよ。付与魔法って言うのだけど、象形魔法で創り出した矢に障害物をよけて獲物を追尾するっていう属性?を付与したんだよ」
「魔法って何でもありすぎじゃありません?」
私が呆れたようにそう言うと、サジさんは私の方を見ながら「ははは」と短く笑う。
「確かにね。でもそれなりに修行をしなきゃここまでの付与魔法はモノにできないよ」
「サジさんはどんな修行をしたのですか」
「魔力操作の修行――座禅をして体内のや体外の魔力を感じ取って、操作する修行だね。体外の魔力を感じる修行は隠ぺい魔法や索敵魔法の修行にもなるからおすすめだよ」
へーそうなんだ。座禅の修行はアレックスさんに言われて毎日1回はしてたけど、今日からは暇な時間を見つけたら、行うにしよう。
しばらくの後、私たちは牡鹿の解体作業を終えると帰り支度を始めた。
「さてと帰り支度も済んだし帰ろっか」
「そうですね――」
そこで私はふと喰らいう者について一つ疑問が湧いた。
「サジさん喰らいう者について一つ疑問があるのですけど、訊いてもいいですか?」
「別に良いよ」
「前に戦った田中っていう喰らう者使いが」使ってたのですけどゲロリアスって何ですか?」
「ああ~吐瀉物ね、吐瀉物は|吐瀉物って書いて吐瀉物って読む喰らいう者の特殊能力の一つでね、喰らいう者が今まで食べてきたモノを吐き出す能力なんだよ」
「吐き出すの能力ですかそれってなんか汚くないですか」
「気持ちはわかるけどかなり強力な能力なんだよ――そうだ!やって見せてあげようか」
「いいのですか?」
「大丈夫、大丈夫。残弾にはかなり余裕あるし、ボーンもいいでしょ?」
「気はあまり進みませんが、別にかまいませんわよ」
「それじゃあボーン吐瀉物」
「おえ」
能力名が吐瀉物なだけにボーンちゃんからあまり聞きたくない声が聞こえた。やっぱろくな能力じゃねぇ。
サジさんが吐瀉物と唱えると一本の白い矢が異空間から出現し、サジさんはその矢を手に取りボーンちゃんにつがえ、サジさんの正面にある気に向かってその矢を射った。するとその矢は正面にあった木をなぎ倒し、その後も勢いを衰えさせることなく幾本もの木をなぎ倒していった。
「やっばあ」
私が唖然としながら矢の放たれた様子を見ていると、サジさんが慎ましやかな胸を張る。
「どう?すごいでしょ、これで更に付与魔法で威力を上乗せするともっとすごいことになるよ」
「マジですか」
「それじゃあイーターも吐瀉物を使えば――」
「俺は出来んぞ」
「は?」
「俺は出来んと言ったのだ」
コノヤロウ、形態変化もしない、吐瀉物出来ないなんて、何、私に喧嘩でも売ってるの!?
「よーしイーターその喧嘩買った」
「ストップルナちゃん」
「何ですかサジさん」
私はこの棍棒をぶちのめすことに集中したいのだが、
「喰らいう者の中には吐瀉物が出来ない個体もいるんだよ。ほら、飲み会とかでお酒飲み過ぎた人を吐かせるときに吐くのが苦手で中々吐けない人がいるでしょ。あれと一緒」
「そう言われても私飲み会の経験とかないんですけど」
「そうか~ルナちゃん女子高生だったもんね。そりゃあ飲み会の経験なんてないわよね~」
言いながら額を手で覆い天を仰ぐサジさん。でもサジさんの言いたいことはなんとなくわかる。要は喰らいう者にも個体差さがあり、うちのイーターはただ単に吐瀉物が出来ない個体というだけのことだ。でも、
「なんか納得いかね~」
「気持ちはわかるけど仕方のないことだから」
「うう~」
なんか、この世界喰らいう者関連について私に厳しすぎない。まあ魔法の才能がある分そこらへんはバランス調整されたのだろう。そう思うことにして、私は村への帰路についたのであった。
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