頼光と綱
彼女と初めて会ったときのことを思い出す
彼女は広大な屋敷の庭で一人で遊んでいた
美しい黒髪で愛らしい顔をして独り言を言っていた。
彼女が微笑むと周りの景色も揺らいだりして、なんとも幻想的だ。
眼の前にある鞠は触れてもいないのにずっとリズムよく動いてる。不思議で
〜〜~~~~
「いいか、お前が頭領になるのだ」
幼き頃より父からずっと言われてきた言葉。
私は分家だが我が家門は本家、分家問わず優秀な人が頭領になる
それが我が国最大の武門を誇る秘訣でもある
父は優しかった。しかし本家の子が優秀だと知ると
父は笑わなくなった。
そして
「お前が頭領になるのだ」
呪いのようにそう言った。
幸い私は優秀だったのだろう。父の課題をどんどん乗り越えていった。
「お前が頭領になるのだ、綱」
〜~~
新年の挨拶に本家に行った。
大きな門をくぐる。手入れされた庭まだ雪が所々残っている。
「これはこれはようおいでになった。さぁ頼光と遊んでくだされ」
そして私は頼光のいる部屋まで連れて行かれる。
部屋に入る前に中から声が
「綱、ようこそ。また美しくなったわね。今日の服は貴女の凛とした姿にとても似合ってるわ」
いつもこうだ。頼光は私を見ていないのに、いつも恰好を言い当ててしまう。
「さぁ入って」
私は部屋に入ると
「新年の挨拶を申し上げます。姫」
頭を下げると
「相変わらずかたいのね、綱」
ふふふと満面の笑みで笑う姫。
黒髪は艶めかしく、美しい。
「私はまだ頭領じゃないわ。貴女と同じ頭領候補よ」
「貴女は頭領の娘ですので。」
「ねぇ、綱、私は別に頭領にならなくてもいいのよ」
綱は目を見開く
「何を・・。お戯れを」
「でも貴女とはきちんと闘いたいと思っているの。勝っても負けても恨みっこなしね」
「ええ、同じ家門ですから、負けたら大人しく姫の下につきます」
無邪気な姫を見てなんの苦労もなく育ったのだろう
やはり私が頭領にならなくてはと決意をかためる。
「ほら、綱またかたいことかんがえてるでしょ?」
それでも姫の能力はおそろしい。普通にやっても勝ち目はないだろう
なぜなら姫の能力は
八百万の神々から愛される
という能力なのだから。
しかしそれこそが姫の弱点でもある
闘う前から能力を把握されている。それがどれほど危険なことか、この優しい姫は気づいてない。
〜~~~~
桜散る春の日に頭領戦の儀が執り行われた
今回の頭領戦は私と姫しか参加表明をしなかった。
姫の能力に皆やるまでもなく下につくことを決めたのだ。
「綱、私は負けないわよ、闘い楽しみにしています」
姫は笑顔で話しかけてきた。
「私も負けませんよ姫」
私は笑わずそう答えた。
頭領戦はいつも同じ場所で行われる
とある神社の境内を使わせてもらっている。
私は前日の夜にその境内に忍び込んで地面に魔法陣を書いていく。
卑怯ではない。正攻法しか使えない頭領など愚者でしかない。
戦いはもうはじまっているのですよ姫。
〜〜〜〜
そして試合当日。
姫は時間通りにあらわれ、そして審判の立ち会いのもと
試合が
始まった。
私が魔法陣に力を流すと、姫と私は地中へと沈んだ
姫を見ると焦ることなく地中にのまれていった。
私と姫は地中にできた空間の中にいた。私の作った結界だ
「ここは私が作った結界内です、外からは見られず、この結界は外部からの干渉を拒否します」
貴女の能力は封じられたのです
「あら、これは楽しい余興ね」
カラカラと笑う姫。この期に及んでまだ余裕があるのか。そういえば私は姫が焦っているところを見たことがない。
「姫に勝ち目はないので降参してください。」
「楽しみにしていた闘いだもの、降参なんてしないわ」
私は刃引きされた短剣の双刀を抜く
姫も無言で刀を抜いた。
「いきます!」
そして私は双刀を振るう
姫は踊るように躱していく。紙一重で避けていく姫。
「綱、私は頭領を貴女になら譲ってもいいと思ってるの」
「相変わらず上からですね!」
怒りがこみあげる。
「質問に答えてくれるかしら」
私は無言で双剣を振るう
「綱、貴女は頭領になって何をするの?」
「えっ」
私は父から呪いのように頭領になれと言われていた。
だから頭領になることしか考えてなかった。
「この国1番の武力を貴女は手に入れて何をなすの?」
「私は・・・。」
わからない、そんなこと考えたこともない。
「答えられないなら頭領は譲れないわ!」
姫が攻撃にうつる!
私は双剣でさばきながら、
「頭領は箱入りの姫になれるものではない!では姫は頭領になって何をなすのだ!」
「私は善良な人を妖怪を守りたいの」
この国はたくさんの妖怪が暗躍している。何を言っている?
「人もいい人もいれば悪い人もいる、妖怪だって!」
「綱!私が勝ったら私の右腕になりなさい」
「神々の力を借りれない姫など私に勝てるないわ!」
私は修行して人を超えた。仙女として人を超越した素早さで動ける
「これで!眠れ!」
完璧なタイミングで姫の首を手刀で打つ
これで気絶させれば、私の勝ちだ。
しかし私の手刀は届かなかった
「え?」
気を取り直してもう一度!
しかしまたしても姫は避ける
「なぜ・・・。」
「さすが綱ね。人を超えるなんて。仙女ってやつなのかな?」
「姫、姫の力とは、神から愛されるではなかったのですか!!」
「愛されると言っても私の意のままにうごいてくれるってわけじゃないのよ。」
「私に義がなければ協力してくれないの。だから能力というより体質??かな?」
「では貴女の能力は・・・。」
「内緒って言いたいけど、綱は私の右腕になるもの。特別に教えてあげる」
「私は八雷神の力を使えるの」
だからね
一瞬で綱の背後にまわった
「雷と同じ速さ・・・」
綱が冷や汗を流す
「誰にも言わないでね」
そう言って姫は私に触れて雷を流した
〜~~~
私は目を覚ますと姫に膝枕されていた
「頼光様」
「綱、付喪神って知ってるでしょ?」
「本来、神と妖怪の違いなんて曖昧なのよ、私が仲良くしている妖怪もたくさんいるの。そして凶悪な妖怪に脅かされているのは善良な妖怪も同じなの」
「今、妖怪は新たな王を産み出そうとしているわ」
「私は頭領となり!妖怪に怯えない世界を作る!人だけでなく善良な妖怪も守るの!」
「そんな夢不可能です」
「えぇ、だから貴女の力を貸してちょうだい」
「人の世で無理なら妖怪には違う世界を用意するまでよ」
そんなこと可能なのだろうか?
「綱、私のものになりなさい」
綱は頼光を見つめる
ずっと意識していた。ライバルで強く気高い源の姫
初めてあったときから惹かれていた。それに今気がついた。
「私といると決して飽きさせないと誓うわ」
そう言って微笑む姫に私の心は抵抗をやめたのだった
「わかりました。貴女に仕えます」
「忙しくなるわよ!綱!」
そう言って二人は微笑みあった。
随分昔、寝る前に妄想していたお話です。ここにかけてよかった。