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アルタイル

作者: 六笠はな
掲載日:2022/03/07

彗星が落ちてくる。

蒼く、美しい流線型を描いて、この星の裏側に消えていった。

そして間もなく、上空に広がっていた美しい星の光は息を潜めるようにゆったりと空にとけてゆく。


その軌跡が消える前に、急いで星の落ちた場所に向かって走り出した。


息を切らしながら、何とか視界の端に彗星を捉えると、そこには落下の勢いで地面に大きな穴がクレーターが出来ていた。

珍しいことではない。時折大きな隕石が落下しては、大きなクレーターをつくる。

この星を俯瞰してみたらきっと穴ボコだらけだろう。


不安定な足場を注意しながら墜ちた彗星に駆け寄った。


期待も虚しく、そこには小さな石が落ちていただけだった。

落下の勢いで全て燃え尽きてしまったのだろう。


凡そ数ヶ月ぶりにやってきた”お客様”に落胆し少年は肩を落とす。


先程地面についた一人分の轍をみて、不意に涙が出そうになるが、糸のほつれた袖口で顔を拭い、またその足跡を戻るように基地に帰る。


灰色の砂が覆うこの星は、僕一人が暮らすには大きすぎた。

一度ひたすら真っ直ぐ歩き続けたことがあるが、何故かまた元の場所に戻ってきてしまった。

恐らく球体状にできているのだろう。

逃げ出すことも、ましてやこの星をあの大きな青い星に落とすことなんて夢のまた夢で、

僕はずっとこの星に閉じ込められているようだ。


見上げれば太陽を中心とした多くの惑星たちが僕に光を届けている。

あの星々を巡って旅ができたらどれだけ幸せなことだろうか。

きっと僕以外の生命もいるのだろう。


そう考えるとなんだか心に空いた穴がより拡がっていくような気がして、目を瞑った。


そんな僕にも楽しみなことがある。

それは、遠い星から流れついてくるガラクタを集めることだ。


例えば、太陽に照らすと美しいエメラルドグリーンに光る瓶だったり、

髪の長い綺麗な人間の女性が白い砂浜で横たわっているポスターだったりする。

他にも、とても大きなただと鉄の塊のように何の用途もなさそうな物だって流れてくることがある。


そんなガラクタを集めて、自分だけの宝箱にコレクションしたり、基地の部品としてついったりする事が唯一の楽しみだ。


そんなガラクタを求めて、今日もあてもない散策をはじめた。


基地を離れ、先程落ちた隕石を超えると確認しきれていない多くのガラクタが落ちている場所がある。


今日はその中でもずっと気になっていた鉄の大きな箱の中を見てみることに決めていた。


透明なガラスで覆われた部分を鉄の棒で割って入ると、そこには茶色い紙のようなもので出来た箱が沢山入っていた。


ひとつずつ開けていくと、大したものは入っていなかったが、ある箱の中に気になるものが入っていた。

小さく透明な瓶に白い粒のようなものが一つだけ入っていた。

これが一体何なのか検討も付かず、とりあえずその瓶だけを持ち帰ることにした。


基地に戻って、瓶から白い粒を取り出してみた。

匂いもしないため、全く判断がつかず困っていると、手のひらに載せていたはずのあの粒が姿を消していることに気付いた。

焦って辺りを探してみても地面はは砂で覆われている為、恐らく見つけることは出来ないだろう。

結局あれの正体はなんだったのか分からずじまいになってしまったのは悔しいが、今日は大人しく休むことにした。


その数日後、いつものようにガラクタ散策に出かけようとした時に、地面から緑色のなにかが生えてきていることに気付いた。

驚いた僕は、その周りの砂を掘り起こしてそれが何なのかを突き止めようとした。

が、何故かその手を止めた。

どうして手を止めたのかと聞かれると答えが難しいけれど、ただ今はそのままにしてあげたいと直感的に感じた。


数日後。

それは少しだけ背丈を伸ばしたが大きな変化はなかった。


数日後。

緑の得体の先に小さな膨らみが生まれていた。


数日後。

昨日生まれた膨らみが開きかけていた。

まだとても小さいが、これは間違いなくひとつの生命なのだと感じた。

暗闇の中を彷徨い、僕の元までやってきた。

涙が頬をつたう。

その雫が膨らみに触れ、なにかが満ちたかのようにそれは開いた。


美しく均等に並べられた青い羽のようなものが黄色い目のような円を囲んでいる。


僕はそれを『花』と名付けることにした。


花に声をかけても返事が返ってくることもなく、ただ星空に向かって凛と咲いている。


そんな姿をみているだけでも僕は少しだけ生きる勇気をもらっていた。


同時に自生する植物に対しこんなことを感じる自分に少し奇妙な感覚を得ていた。


それから僕と花は長い日々を過ごした。

流星群だって見たし、あの大きな青い星がこれまでかというほど近くにきたことだってあった。


花はそこに咲いているだけだったけど、それだけで僕の人生は少し色付いた気がした。


花周りの地面を少し綺麗にしてみたり。

その勢いで基地も綺麗にしてみたり、

とてもとても些細なことだけど僕は楽しさを感じた。


けれど今はもう、あの頃の凛とした姿はなく、

空とは反対に、地面に近付いていくようにぐったりとしていた。


青く澄んでいた翼のような部分も、この星の色を写しているような灰色になってしまっている。


きっと花の終わりがきたのだと思った。


結局花を掘り起こすことも無く、花に触れるのこともなかった。

どんな匂いがするのか、柔らかいのか硬いのか、どこから来たのか、そんなことも全く何

もわからないままだった。


けれど、知りたいけど知らないままでもいい。

そう思った。


もし僕がこれからこの星を旅立とうと、

この星で野垂れ死ぬことになろうと、

また思い出すと思う。


そんな些細で小さな僕たちの物語。

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