仕事2
「えっと、くさ、草場?」
「草野鈴音。草に野原の野に鈴に音。転入生だよ。しかも隣の席の女子。覚えておいてよー。」彼女─草野さん─が分かりやすく頬を膨らませて、怒った表情を作る。
「ごめん、えっとじゃあ、草野、さん。」なんて呼べばいいんだろ。
「鈴音でもりんちゃんでも好きな方で呼んで。」
「え、あ、草野さんじゃダ…」
「りんね。」顔がにやけてやがる。完全に遊ばれてるな。
「じゃあ、鈴音。」女子の名前なんて呼んだことないから、違和感がすごい。体温が上がった気がした。
「よろしい。」鈴音は嬉しそうに笑った。
なんか、疲れた...。やっていけるかな。この人と。
「じゃあ、鈴音。仕事の説明するね。」無表情を意識しながら伝える。説明と言っても、ほとんどやることはないんだけど。
「まず、カウンターでは本の貸し借りをする。その人のカードを読み取ってから本のバーコードを読み取ればいい。本を仕舞うのは場所を覚えてないと難しいから、僕が最初はやるよ。」
「なんか、つまんなそうだねー。」そう言う鈴音は、本棚の周りを走り回っていた。
何で図書委員になったんだ...。
「ねぇ、聞きたいんだけどさ。どうして僕になんか話しかけるの。」疑問に思う。こんなに明るく、しかも転入生だ。他の人が寄ってこないはずがない。まして、誰もやりたがらない図書委員なんて。
「え、うーん。なんでだろうね。なんか面白そうだったから。」走り疲れて、深呼吸をしながら鈴音はそう言った。
「そう、なんだ。」分からない。あまり、関わるのはやめよう。
「じゃあ、僕はカウンターで君より真っ当な仕事をするから。」本を片手にとって、僕は言う。
「えぇー。つまんないー。」
無視だ。無視。