III:aban
すると泣いていたヴィルニアは面を上げ
「尊堂の望みの一つはこの魔石でしょう。私はこれを尊堂に差し上げましょう。此は私には相応しくも有りませんし、私の力で支配出来る物では有りませんから。しかし愚生は我が祖父王を殺す事は出来ません。」
と言い、少女に砕けた剣の持ち手に嵌められたを引き渡そうとました。
しかし少女がそれを受け取らず、
「お前があの老い耄れの直系の孫か。しかし純血のエルフではないな。半エルフ、お前が先王を殺し、アバンの剣の支配者として私に付いて来るのだ。私はそれを望む。望みが叶わなければ私はこの国とこの国の民を見捨てるだろう。」
と言い、持ち手に触れると、剣のエルアラ、アバンは少女の指輪の石と共鳴し、彼女の石には黒い影が落ちました。
アバンは太陽の様に燦欄たる光を放ち、玉座の間に在る全ての宝石が輝きました。
少年は戦きました。
しかし王は動きませんでした。
そして白は
「さあ、選べ。私の手をとるか、貴下の母とエドラスの民を見捨てるか。」
と言い、少年は
「愚生には父が守りし民を見捨てることは出来兼ねません。嗚呼、貴女は誠に手厳しいお人で在られますね。私に祖父か母と民か選べと仰るのですから。」
と玉座の小さな少女を見て涙を零し乍ら言った。
白は言いました。
「ほう、神ならぬ、エルフである私に犠牲無き幸せを巡らせろ、盲目の優しさを与えよと言うのか。それではお前も私も唯一人さえ救えず犬死にさせられる他は無いだろう。では無知なる者に教えてやろう、私の目的とお前の役割を。聞け!まずお前の祖父、東エルフの国の王は私に対する好意を持たぬ。私がお前の母、数少ない純血のエルフの王女と人間を夫婦の関係にせしめたと思っているからだ。故に王は私に少しなりとも協力せぬ、此方に攻撃さえ仕掛けて来るだろう。そうなれば私が居る此の国の民と東エルフの争いは逃れられぬ。そして先程も言ったが、アバンの支配能力を持つのは、我が亡き兄の聖なる血を受けた者達だけだ。それがお前の一族、東エルフの王族なのだ。」
少年は、
「しかし何故祖父を殺せと仰るのですか。殺さずともアバンは此方に在るではありませんか。」と言いました。
応えて白は
「お前の祖父が私の為にアバンの支配権・・・エルフ王たる者が誇る絶大な力をお前に譲ると思うか。」
と言いました。
「では愚生が祖父に頼みましょう。」
とヴィルニアが言うと、
「成らぬ。東エルフの国は私の敵である長兄の同盟国なのだ。つまりは死んだ兄等の代わりに長兄が支配する二つの国の一つなのだ。だから私は、死すべき現王より、我が支配下にあるエレクトラ姫を女王としよう。」
と玉座の少女が言いました。
そして少女はこう付け加えました。
「さあ早く選べ。三度目は無いぞ。母がアバンの力に滅ぼされ、此処の民が敵軍に殺され、この身の弱さに唯嘆くか、それとも私の手を取りその身に罪を負いし勇者となるか。」
少年は
「我が幼き兄弟達を救い賜えるならば、私は後者を選びましょう。」
と言いました。
「ああ、幼き兄弟達を救おうではないか。さあ、そうと決まれば早く救済措置をとらねば。アノルに赴こうぞ。」
と白が玉座から降り立ち言いました。