1話 誕生!まほろば天女ラクシュミー 7
夕飯を終えて、わたしは農機具小屋の二階に増築された自室へと入った。
部屋の中にはシンハがちょこんと座っておとなしくまっていた。
台所からくすねてきた魚肉ソーセージをむいてわたしてあげると、シンハは器用に両手でソーセージをつかみ、おいしそうに食べ始めた。
勉強机のイスに腰掛け、机の上においてあったビー玉のような宝珠を見つめながら今日あったことを振り返る。
トゥインクルファウンテンであの化け物をやっつけたあと、化け物の体からこのビー玉のような宝珠が転がり落ちたのだ。
シンハの話によるとこの宝珠は「文珠」というらしい。
「文珠」は全部で百八つあって、これが文殊様の、ひいてはシンハの力の源であるというのだそうだ。
この「文珠」の大半が何者かに奪われたとシンハがばつが悪そうに告白した。
「じゃぁなに、この文珠を全部集めるためにわたしに協力して欲しいって言うの?」
「そ、そういうことに、なるッハー」
「それじゃ……またあんなのとやりあわなきゃなんないの?」
「た、たぶん……」
シンハはわたしから視線をそらす。
「冗談じゃないわよ、もうあんな怖い思いこりごりだもん」
「でも、「文珠」がないとボタンの合格祈願ができないッハー」
うぉぅ! なんと言う人質だ……
わたしの未来の夢への架け橋がこんな犬っころに握られているなんて……
わたしの表情からあきらめを読み取ったのだろう、シンハが言葉を続ける。
「というわけでしばらくよろしくお願いするッハ! あ、お礼といっては何だけど、そのあいだ家庭教師として勉強を見てあげるッハ」
カリカリと足を引っかかれる感触で現実へと引き戻される。
見ればシンハが足にまとわりついていた。
「ソーセージのビニールを最後までむいて欲しいッハ」
幸せそうなシンハの顔を見ているうちになんだかむかむかと腹が立ってきた。
わたしはソーセージのビニールを全部むくと、シンハが口をつけたほうの3センチほどをちぎり、残り全部をわたしの口の中に押し込んだ。
「あーーーーーーーー!」
シンハの悲しそうな声が夜の闇に響き渡った。
一方そのころ
「くそっ! なんだ! なんなんだいったい、あいつは!」
一見誰も住んでいないように見えるあばら家の中で、青木は荒れに荒れていた。
「おかげで計画が台無しじゃないか! なぁ赤木!」
青木が振り返った先には赤木が座っていた。頬杖をついて無表情で窓から月を見ている。
「学校へダデーナーを出現させて、大暴れさせる! その後で俺たちが出て行ってかっこよくやっつける! そうすれば、友だち百人! 彼女も百人! モテモテのリア充学園生活が送れるはずだったのに! おい、聞いているのか赤木! あかぎー!」
甲高い声で青木は赤木に呼びかける。
赤木はまだ、無表情で月を見上げている。
「……まぁいい、「文珠」はまだまだこんなにある、それに学園生活はまだ始まったばかりだ! 次回こそは、次回こそはあの女に邪魔される前にダデーナーをやっつけて、友だち百人! 彼女も百人! モテモテのリア充学園生活を手に入れてやる! なぁ赤木!」
青木の高笑いがあばら家の中に響き渡った。
赤木はまだ月を見ている。
しかしその瞳に写るのは月ではなく、今日学校で手を差し伸べた少女「ラクシュミー」が、自分に送ってくれた微笑みであった。