1話 誕生!まほろば天女ラクシュミー 6
地面を一蹴りしただけで化け物との一気に間合いが詰まる。
わたしは右手を大きく振りか、ぶっ!
またも力加減をあやまり顔面から化け物の胸あたりへと体当たりしてしまう。
しかしながら体当たりが功を奏して化け物は大きくかたむき、そして倒れる。
相当の重量があるのだろうか地響きが起きる。
どっ、とギャラリーから歓声が上がった。
……いける……
力加減はまだまだつかみきれないけど、地に足つけて殴り続ければなんとかなるんじゃないかしら。
わたしは立ち上がると化け物に対して半身になって向き合い、こぶしを胸の前で構える。
化け物はうでを突っ張り必死に立ち上がろうともがいている。
わたしはまた突っ込んでしまわないように、すり足で化け物に近づくと、まだ低い位置にある頭をめがけて渾身の右ストレートを叩き込む。
化け物の頭がぐにゃりとへしゃげる。そして再び化け物は地面に倒れ付してしまう。
反撃に備えて再度構えをとる。
しかし化け物はひとみと口を閉じピクリとも動かなくなった。
「やっつけた……のかしら?」
そう思った瞬間、化け物の足の辺りから2本のムチのような器官が現れわたしの足に絡みついた。そのムチに足をとられわたしは転倒してしまう。
次の攻撃に備えなきゃ、そう思って化け物を見る。
すると、腰の辺りに真っ赤な目が開いたかと思うと一気に隆起し、両の腕を高く持ち上げた体勢へと変化した。
「こんなのあり?」
思わず声が出る。
化け物の口が開き、にやりと笑う。
はずみをつけるために体をのけぞらせる。やばい、やられる!
その時だった、化け物が突然「く」の字に折れ曲がる。
逆光でよく見えないが、誰かが両方のひざでぶつかって行ったような……
化け物は再びどうと倒れ伏す。
しめた、今のショックで足が自由になった。
そのとき、わたしの前に大きな手が差し伸べられる。見上げると、誰か大柄な男の人のようだ。
顔には覆面をしており、逆光も合わせてよく表情が見えない。
ともあれ
「ありがとう」
と、お礼を言って微笑むと、わたしはその手をとって立ち上がる。
すると彼はすぐにくるりと後ろを向いて、跳びあがったかと思うとその場から姿を消してしまった。
「あの人は……」
姿を消してしまった彼を探すためあたりに視線を走らせる。しかし彼の姿は見つけられない。
そのうちに、三たび化け物の体がごもごもと隆起をするけはいがした。
「……ラクシュミー……」
どこかで聞いたような声がした。
「ラクシュミー」
シンハの声だ。追いついたんだ。
「ラクシュミー、トゥインクルロッドを使うッハー」
「トゥインクルロッド?」
また聞きなれない単語が出てきた。
わたしは化け物と間合いを取るとシンハにたずねた。
「チンターマニに手を当ててラクシュミートゥインクルロッドと叫ぶッハ」
わたしは言われたとおり、胸のリボンの中央についたチ……如意宝珠に手を伸ばし、
「ラクシュミートゥインクルロッド!」
と、叫んだ。
すると、チン……如意宝珠が胸からはずれ、柄のような部分が丸い側から生えてくる。
途中にちょうちょの羽ををあしらった飾りがついている、まるで魔法のステッキだ。
胸の前に浮かんでいるそれを右手でつかむと頭の中にトゥインクルロッドの使い方が流れ込んでくる。
どうやらこの杖は、空間に魔方陣のようなものを描くための道具らしい。
魔方陣を描く動作はまるで踊りのようで、くるりくるりと体を回転させるたびに体に力が満ち満ちてくるような感覚に包まれる。
体中にたまった気がおなかに集まる、そしてその気の固まりは胸をとおり、右手に流れ込み、トゥインクルロッドの先の宝珠へと凝縮されていったような感じがする。
わたしは化け物へと向き直る。
次にいうべき言葉が自然と頭の中に浮かんでくる。
「ラクシュミー・トゥインクル・ファウンテン!」
声を発すると同時にトゥインクルロッドの先からきらきらという光の奔流がまるで噴水のようにあふれだし、化け物へと向かって降り注いだ。
「ダ……ダ……ダデーナァアァアアアァァァァアアアァァァ…………」
輝く光の泉の中で、化け物は体をねじらせ、ゆがめて、ちぎれ、そして消えていった。