1話 誕生!まほろば天女ラクシュミー 5
「衣装は気に入ってくれたッハ?」
「ちょ、ちょっとこどもっぽいかしら」
「そんなコト言って、顔がにやけてるッハ」
う……シンハは一言余計な性格のようだ。
「そ、そんなことよりさっきのやつ」
「そうだッハー、すぐに追いかけるッハー」
わたしが照れ隠しにそういうと、シンハはあわててふもとのほうを見た。
先ほどの紫の化け物はわたしとシンハのやり取りの間にずいぶんと先へと進んでしまったようだ。
「あいつはしきりに学校、学校って言ってたッハ」
「えっそれって中学校のこと? やだ、もし新しい学校が壊されちゃったら……ダメ、そんなの絶対いや、もう古い学校になんて戻りたくない!」
わたしは思いっきり大地をけって駆け出した……
と、思ったら、なぜか空の上にいた。
眼下に広がるのはわずかに雪の残る田んぼとぶどうのハウス。
高さの目算なんてまるっきり見当がつかないけど、酒屋の前に止まっている軽トラックがコンビニで売ってた缶コーヒーのおまけのミニカーくらいに小さく見えた。
じょじょに浮遊感がうすれてくる。
そして、垂直落下が始まる。
「いやぁああぁあぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁああぁおぁわぁぁああぉぁあぁ!!!」
見る見る地面が近づいてくる。
「死ぬ! 死ぬ! 死んじゃう!」
わたしは必死で体をひねる。
「ーーーーーーーーっ!」
がに股の恥ずかしい格好で、何とか両足で地面をとらえることには成功するが、足の裏からしびれるような痛みが頭の先まで何度も何度も往復する。
「なによこれ、力の加減がぜんっぜんわかんない」
シンハがよろよろと近寄ってくる。
「気を付けるッハー、今の君は普通の人の何十倍もの力を持っているッハー」
「そういうことは早く言ってよ!」
「言ったッハ! 驚異的な身体能力が備わるって!」
「驚異的にも限度があるでしょ……」
足のしびれがいえると、少しずつ足を運んでみる。
歩く速度から早足、そして走る動きに。
少しずつ動きを早くすれば何とかコントロールできる。
何よりスピードが段違いに速い、まるで自動車の窓から顔を出しているかのような、そんな感触を頬に感じる。
ぐん、ぐん、ぐんと地面を蹴るたび加速していく感じもまた楽しい。
中学校が見えてきた、中から男女問わず悲鳴が聞こえてくる。間に合わなかったか!
校門の手前でフルブレーキ、砂埃を立てながら5メートルほどすべる。
少し戻って校門からエントランスを見渡す。
化け物はまだ校舎にも生徒にも手を出していない様子だ。
間に合った、よーし、後はシンハの言うとおりに戦えば!
「シンハ! どうすればいい! 指示をちょうだい!」
わたしは後ろを振り返る。しかしそこにはシンハの姿は無い。
そういえばよろよろしてて、さっきはまともに歩けなかったような……
「やっちゃった……置いてきた……」
顔からさぁっと血の気が引くのが自分でもわかる。
そうこうしているうちに化け物が校舎へと向きをかえる。そして両腕を組み高く掲げた。
まさか、校舎を壊す気じゃ、止めなきゃ、でも、一人でなんて……
化け物が間合いを計り、もう一歩校舎へと足を踏み出す。
「やめてーーーーーーーーっ」
わたしの絶叫に化け物も、そして逃げ出している学校のみんなもいっせいにこっちを向いた。
集中する視線に頭が真っ白になった。
「ほがなごどしたら、せっかぐ出だばっかのガッコぼっこれんべしたー」
普段は努めてしゃべらないようにしている方言が飛び出るぐらいパニックだったと思う。
たぶん今、涙目だ。
こうなったらやるしかない。意を決してわたしは化け物めがけて突っ込んだ。