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5話 ウソの味 5

「ぶるあぁあぁあぁぁあぁぁあぁー、重たかったー」

 しばらくして、ようやく羽山公園へとわたしたちは降り立った。

 ミレニィは赤木君をおろすと、少しはなれたところに大の字に寝転がる。

「長距離、飛ぶのが、こんなに、しんどいとは、思わなかった、わね……」

 わたしも地面に両手をついて、肩で息をする。

「そういえば、息してないのに、気ぃ取られてたけど、アレにかじられたのよね? そっちはだいじょぶなの? 赤木君?」

「そういやそうよね」

 わたしの疑問にミレニィは、寝返りをうち、這いながら赤木君のもとまでいくと、彼のおなかをペタペタとなでた。

「あ~、チョッとあざに、ってかカッチカチ。どんな鍛え方してるのよ赤木君?」

 ミレニィのボディタッチに顔を赤らめていた赤木君だが、ふと表情が真剣になる。

「なぜ……どうして……俺の名を……」

 赤木君が不思議そうにわたしたちの顔を見た。

 わたしたちも顔を見合わせる。

「あぁ、そうかこんなカッコじゃわかんないわよねー」

「いいよね、ばらしても? お互い様だし」

 言うなり千代ちんは変身をといた。

「ほら、ぼたんちゃんも……」

「いやほら、わたしさっきあんなことしたばっ、あぁー! いま名前で呼んだー!」

「ほらほら、もう観念してばらしちゃいなって」

 きょとんとした顔でわたしたちのやり取りを見ている赤木君の前で、わたしもしぶしぶラクシュミーの姿からもとの姿へと戻った。

「竹田……さんと、冬咲……さん……」

「みんなには内緒だからね」

 千代ちんが人差し指を口に当てる。

 そのとき、ガサッ、と後ろの茂みから何かが動いたような音がした。

 その音に振り返ると、そこにいたのは旧高畠駅で見たあのフードの男だった

「……君たちが……お前たちがラクシュミーだったのか……」

 男はかみ締めるように低い声で言うと、ふところをまさぐりだした。

 しまった! 正体がばれた!

 そうは思いつつも、反射的に顔をかくしながら、わたしと千代ちんは身構える。

 如意宝珠は、変身をとくと不思議な力でシンハの元へと戻ってしまう。

 つまり、再びシンハと合流しなければ変身することはできないのだ。

 変身とかなきゃよかった、と思ってももう遅い。

 絶体絶命の……ピンチ……

 ここはもう逃げるしかない!

 ザリ、と音を立ててわたしたちは後ずさる。

フードの男がふところの中の何かをつかんだ。

 しかし、つかんだはいいが、なぜか彼は動かない。

 心なしか小刻みに震えているようにも見える。

 フードの男がどう動くか目を離せない。

 視界の端で千代ちんを見る。

 どうやら彼女も動けないらしい。

 緊張感に満ちた沈黙が流れた。

「……もう、もう終わりにしよう……青木……」

 沈黙を破ったのは赤木君の声だった。

 赤木君の発言に、わたしと千代ちんは顔を見合わせる。

「……青木…………」

 ふたたび赤木君がフードの男に呼びかける。

 男は舌打ちをひとつすると、ゆっくりとフードに手をかけ、その素顔をさらした。

「……には……君には知られたくなかった……」

 フードの下から現れたのは、確かに青木君の顔だった。

 声が震えている。

 町場からの明かりを受け、もともと青白い顔に影が落ち、彼の持つ異様な雰囲気が増している。

「ちょ、ちょっとまってよ! 青木君が化け物を操ってて、赤木君とわたしたちはその化け物と戦って、それでいて青木君と赤木君が学校だといつも一緒で……ってどうゆうことよ?」

 事態を飲み込めない千代ちんが、いやわたしもぜんぜん飲み込めてはいないが、二人をかわるがわる指差しながら声を上げた。

「……が……だちが…………しかった……」

 赤木君がうつむいて、こぶしを震わせながらつぶやいた。が、よく聞き取れない。

「……ともだちが……友達がほしかった!」

 叫ぶように言うと、突然赤木君は両手をついて泣き崩れた。

「……ちょ、と、友達が欲しいって、話の流れがかみ合ってないと思うんだけど……」

 わたしは千代ちんと顔を見合わせた。

「つまり……今までの化け物騒ぎは、全部俺たちの自作自演だったんだ……」

「え?」

「自作自演?」

 はてなマークを浮かべたわたしたちに向かって、青木君は震える声で語りだした。

「俺がダデーナー、あの紫の化け物のことだが、あれを操って、赤木がみんなの見ている前でダデーナーをやっつける……そうすれば、みんなが赤木をもてはやす……赤木が人気者になれると思ったんだ……」

 青木君はこぶしを震わせ、うつむきながら続けた。

「俺たちはこんな見た目で……俺は気味悪がられて、赤木は怖がられて、今まで誰からも避けられてきた……俺たち二人のほかに友達って呼べる奴がいなかった……だから友達が……どうしても友達が欲しくて……」

「なによ……なによそれ……友達が欲しい……なら余計な小細工なんかしないで素直にいえばいいじゃない!」

 わたしは爆発した。青木君の話はまったく理解の範疇を超えていた。

「それは……」

 青木君が何か言いたげに口を開くが、まだわたしの気はおさまらない。

「自分たちの都合でいろんなもの壊して、みんなを危険な目にあわせて、自分たちだって危ない目にあって、わたしだって……わたしだって何度も……何度も怖い思いや、痛い思いして……それでいて友達が欲しかったですって……馬鹿にしないでよ! 今日だって!」

 そのとき、わたしの頭に先ほどの人工呼吸が思い出された。

 今まで助けてもらった恩返しだと思っていた。

 人命救助のための神聖な行為だと思っていた。

 わたしのファーストキス……

 それが……

 それがだまされて、無理やり唇を奪われたように感じて……

 吐き気がした。

 グシグシと腕で口をぬぐう。

 それでもまだ汚れている気がして、つばを吐いた。

 何度も……何度もつばを吐いた。

「冬咲君……」

「冬咲……」

 心配そうな声で二人がわたしを見る。

 でも……

「……気持ち悪い……」

 二人の顔を見ると、なんだか胸の鼓動が不安定になっていく……

 頭の中がぐるぐると渦を巻いているように感じる。

 こんなところには一瞬たりともいたくない。

 そう感じた瞬間、わたしは羽山公園の広場から駆け出していた。

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