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8 懐疑のヴェロス



スー スー


一定以上の魔力を与えられ、サリーは気持ち良さそうに寝息を立てながら安らいでいた。

もう体を蝕む恐るべき置き土産は影も形も無い。

もう少し休んでいれば元に戻るだろう。

一先ずは安心だ。


「よかったよ……魔王様死んじゃうかと思った……」

「何言ってるの、魔王様があんな種ごときに殺されるわけないでしょ !」


カミツレも安堵し、心の底から嬉しそうにサリーの寝顔を眺めている。


「所で、さっきは緊急事態だったんでスルーしたが、お前は何者なんだ」


突然冷徹な男は再び怪しみながら俺の顔を睨み付けた。


「さっきのは体内から寄生生物等のみを消し去る魔王様クラスでしか扱えない高度なスキル……何故お前が使えるんだ」

「そう言えば妙ね、貴方一体何なの? 魔王様と一緒にいるみたいだけど、新入り?」


思い出したかのように三人は改めて俺に詰め寄ってきた。

三人の圧にたじろぎつつ、俺は正直に自分の名前や生い立ち、今日(こんにち)に至るまでの経緯を詳しく話した。


「へえ……も、元々は人間だったけど魔王様から魔力を貰って魔族に生まれ変わったんだね」


白衣を着た子供の方は納得してくれたようだ。


「はい、それに俺は元々僧侶で回復専門だったんです……まあ未熟でしたけど……だから親和性も高かったんだと思います……」


俺はビクビクと緊張しながら答えた。

今目の前にいるのはかつて魔王に仕えた上位幹部達だ。

人間だった時に出会してたら確実に殺されていただろう。


「でも知らなかったわ、魔王様がつい最近復活なさってたなんてね。

それにちゃっかり新入りまで連れて、その上直々に魔力までお与えなさるなんて……なんだか妬けちゃうわ」


カミツレは顔を俺に近づけながら若干悔しそうにジト目で見つめた。


「まあ良いわ、改めて自己紹介するわね、私はかつて魔王様に仕えし魔王三幹部の紅一点・吸血鬼(ヴァンパイア)のカミツレよ」

「俺は三幹部の一人……人狼(ウェアウルフ)のヴェロスだ」

「ぼ、僕は人造人間(フランケンシュタイン)のフライゴです……よ、宜しく……」


色々立て込んで遅くなったけど、三人は俺に自己紹介をしてくれた。

サリーの元部下というだけあって三人共濃く個性豊かだ。

さて、いよいよ待ちに待った本題に入る。


「三幹部の皆さん、お願いがあります……もう一度魔王軍に戻ってきてくれませんか ? 今はサリー様と俺の二人しかいませんが、必ず軍を建て直して見せます! その為には貴方達の力が必要なんです !」


俺は深々と頭を下げ、カミツレ達の前で懇願した。


「私は大歓迎よ、もう一度魔王様の下で働けるなんて、長生きはしてみるものね」

「ぼ、僕も……ずっとこの屋敷で引きこもるのは……いい加減飽きたし……」


カミツレとフライゴは好意的な様子だったが約一名……ヴェロスだけは腕を組みながら苦い顔をしていた。


「……魔王様に仕えるのは構わんが……気に入らない事が一つある……」

「それって……」


ヴェロスはギロッと刃のように鋭く敵意に満ちた表情をこちらに向けてきた。


「それは貴様だ、カーリー !」

「えっ !?」


ヴェロスのきつい指摘に俺は思わず声が裏返った。


「貴様が新参者の分際で魔王様から寵愛を受けているのが気に入らない、それに元僧侶だと……俺達の敵である勇者の元仲間など、誰が信用出来る」

「そ、そんなぁ……」


ヴェロスだけは頑なに俺を認めようとはしなかった。

勿論彼の意見にも一理ある。

ぽっと出の新入りが魔王から可愛がられてるのは古参からしたらあまりいい気分にはならないししかもその正体がよりによって魔族と敵対している勇者側の人間。

無条件に信じろと言うのが無茶だ。


「ヴ、ヴェロスは疑り深いからね……」

「大丈夫よ、カーリーは悪い子なんかじゃないわ、一緒にいてそう思ったもの」


カミツレとフライゴが宥めるもヴェロスの考えは変わらない。


「ヴェロスさん、確かにすぐに信じられないかも知れません……俺は元人間ですし、しかも勇者の仲間でした……だけどサリー様……魔王様への忠誠心は本物です…… ! あのお方は俺を救ってくれた女神です、だから何があっても魔王様のお役に立ちたいんです」


俺はヴェロスの前でサリーへの想いと本音を嘘偽り無く語った。


「……ふん、その言葉が本当かどうか、確かめてやる」


ヴェロスは無愛想にそう言うと部屋から去ろうとした。


「カーリー、表に出ろ、腕試しだ」

「は、はい……」


俺はヴェロスに言われるがまま、屋敷の外へ出た。

ヴェロスは意外と脳筋思考なのか、言葉では無く、拳と拳のぶつかり合いで相手を理解するタイプのようだ。


「ほんと男って子供よね」

「そ、そうだね……」


カミツレは窓際から呆れた様子でヴェロスを眺めていた。

数百年前もこうして喧嘩しながら仲間を作ってきたんだろうな。

勇者パーティー時代にも盗賊のリューや格闘家のロビンなど、肉体言語が得意な仲間が居たことを俺は苦々しく思い出していた。


「お前の持つ魔王様の力……俺に見せてみろ」


屋敷の外には二人で戦うには充分の広いスペースの庭があった。

ヴェロスは余裕の態度で指をくいくいと曲げて俺を挑発する。


「分かりました……見せてあげますよ、サリー様から頂いた闇の力を !」


かくして、カミツレとフライゴが見守る中、俺カーリーと三幹部のヴェロスの手合わせが始まろうとしていた。


続く

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