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4 魔界に行きます



俺の名前はカーリー。

元々は人間で勇者の仲間の一人だった。

だけど勇者達に裏切られ、魔物に殺されて呆気なく人生を終えてしまった。

そんな俺を救ってくれたのは女神……ではなく美しい魔王様……。

魔王サリーに力を与えられた俺は人間をやめ、身も心も魔族になってしまった。

魔王由来の力を手に手に入れた俺は魔王サリーと共に世界征服を目指すのだった。




「凄いですねサリー様、自分の身体が自分じゃないみたいです」

「そうだろうそうだろう」


俺とサリーは他愛ない会話をしながらダンジョンを抜け、彼女のかつての故郷である"魔界"を目指していた。

魔界は並の生物では絶対に生きられない過酷な環境で人間がほぼ立ち入る事は無い絶対不可侵の領域だった。

だが魔族となった俺は魔界に踏み入れても適応出来るらしい。


「だがカーリーよ、今の貴様が強いのは元々貴様には秘められた才能があったからなのだ、人間は元々持っている力の僅かしか発揮せぬまま寿命を終えると聞く……だが魔族になった事で制限(リミッター)が解かれ、本来の力を発揮できるようになったのだ」

「成る程……」


皮肉にも人間をやめて魔族になった事で俺は今まで出来なかった事が出来るようになった。

闇に身を委ねた事で逆に人生に光が灯った。


「……なあカーリー、人間は憎いか」


サリーは突然物憂げな表情を浮かべながら問い掛けた。

まるでかつて人間と何かあったことを仄めかすように。


「憎い……ですか……そうですね……」


俺は少し間を置いて考えた。

憎くないと言えば嘘になる。

人間=勇者達に見殺しにされた事実は変わらない、あいつらは絶対に許せない。

だけど全ての人間が憎いかと言われればそうでもない。

つい勢いで世界征服なんて言ったけど流石に全人類をいじめるのは良心が痛む。


「元人間なんで思う所はありますけど……個人的には一部の人間が憎いですかね……」


俺は苦笑いしながら答えた。

本当は全人類を皆殺しにする勢いで答えた方が良かったのかも知れないが半端な嘘はつきたくなかった。


「そうか……まあカーリーの境遇を考えれば当然だろうな、ある日突然魔族になったからと言って、いきなり人類の敵になるのは心の整理がつかぬだろ」


意外にもサリーは複雑な俺の心境に理解を示していた。


「では何故我々魔族と人間が敵対してきたのか、教えてやろう」


サリーは真剣な表情で話を続けた。

俺は少し後ろに下がりながら耳を傾ける。


元々この世界では様々な種族の者達が分け隔て無く暮らしていた。

竜族、エルフ族、魔族、獣人、そして人間……。

だが傲慢な人間は他の種族を襲い、土地と資源を奪った。

数多くの罪なき魔族達が血を流した。

奴隷として売り飛ばされる者もいた。

そんな中一人の英雄が立ち上がった。

彼女こそが魔王サリー。

圧倒的な力とカリスマ性で幾千もの魔族を纏め上げ、他6人の魔王と共に人間達の領土を蹂躙した。

やがて人間界と魔王軍による戦争が始まり、戦いの果てにサリーは勇者に敗れ、魔王軍は壊滅した。

他の六人の魔王達は処刑され、サリーは力を封印され、数百年もの眠りにつかされた。

残された数千の部下達は処刑されたり奴隷にされたりした。

逃げ延びた者達はひっそりと暮らし、人間達との境界を断ち、そこで子孫を繁栄させた。


「そんな……俺の知ってる昔話とは事情が違う……」


サリーの話を聞いて俺はショックを隠せなかった。

人々に言い伝える為の童話やお伽噺が権力者の都合によって書き換えられる事などよくあることだ。

だが自分が正義と信じてた者が実は悪だった。

本当は正義も悪も無く、ただのエゴのぶつかり合い。

その事実に俺は動揺し、目眩すら起きた。


「ごめんなさい……いや、謝って済むはずがない……サリー様……俺達はずっと貴女断達魔族は悪で倒すべき敵だと思ってました……」

「今までそう教えられたのだから仕方あるまい、カーリー一人の罪ではない、私が言いたいのはだな」


サリーは胸を張り、軽く咳払いした。


「私が何故世界を支配したいか……それはこの世を生きる魔族達を守りたいからだ」


サリーの瞳は赤く輝き、晴れ晴れとした表情で海のように果てしなく青い空を見上げた。


「私が100年近く眠っている間、我が部下の子孫達は辛酸を舐め、尊厳を踏みにじられ、人間達に屈しながら生きてきたに違いないはず……だから私は彼らを救いたいのだ。

だがその為にはかなりの時間と財力が必要になる……貴様を始め、一から兵を集めねばならん……一度は崩壊した魔王軍を今再び復活させるんだ」


サリーは拳を石ころのように硬く握り、強く胸に誓った。


「……貴女に貰った命です、最期まで貴女に従います」


俺は不思議とサリーの思想、願いに共感し、惹かれていった。

もう人間としての未練は残っていない。

あいつらの事もどうだっていい。

変な感じだな。




「着いたぞ」


そうこうしている内に俺とサリーは魔族達の楽園、「魔界」へと到着した。

この世界に昼の概念は無く、常に暗雲が立ち込められ、空は毒々しい紫色に染められており、水色に輝く妖しい月が闇を照らしている。

果てしなく広がる荒野には冷たい風が吹き荒れ、人間が吸えば1分も持たない程のドス黒い瘴気が魔界全体を覆い尽くす。

もし俺が人のままこの地に足を踏み入れたなら瘴気で一瞬で肺をやられ、屍に変えられていただろう。


「すごい広いな……」


俺の知ってる大都市よりも遥かに広大な土地にも関わらず、誰一人として人らしき者は住んではいなかった。

いるのは低級の魔物くらい。

魔王が封印されて数百年、すっかり荒廃してしまったようだ。


「あれが我が城だ」


サリーが指を指すと、遠くで禍々しく巨大な城が聳え立ってるのが見えた。

魔王の拠点で本来なら俺達勇者パーティーがいずれ攻略するはずだった最難関、魔王城だ。

サリーが城を空けてから数百年……多少の劣化はしたものの見る者を圧巻させる驚異と威厳は保たれていた。

材質がそんじょそこらの物とは出来が違うらしい。


「ふん、思ったよりまだまだ大丈夫そうだな」

「そうですね……」

「ここが今日からお前の家になる、良いな」


サリーは微かに笑みを浮かべると、俺を城まで案内してくれた。

今日からここが俺の居場所……。

今は部下所か召し使いも居ない、寂れた無人の城だけど、サリーは少しも折れていなかった。

かつての部下もおらず、独りぼっちのはずなのに、サリーは自信満々の笑顔だった。


「どうして笑えるんですか ?」


俺はサリーに問いかける。

仲間のいない寂しさを俺は知ってるからだ。


「何故……? ふっ、確かに今の私はかつての魔王軍の見る影も無い……落ちに落ちぶれた惨めなものだが……それでも不思議と寂しくないのだ……お前がいるからかな」


サリーは俺の瞳を真っ直ぐ見つめながら答える。


「お前との出会いを運命と感じた……だからこの先何があろうと、お前となら覇道を進める……そう思ったんだ」

「そ、そう……ですか……ご期待に応えられるよう、精一杯頑張ります……」


俺ははにかみながら頭を掻いた。

サリーは自分を信じてくれる……そう思うとニヤケ顔を抑えられなかった。

つくづく俺はチョロい男だ。


兎に角文字通り、0からのスタート。

俺とサリーは沢山の部下を集め、軍勢を整え、最強の魔王軍を復興させる。

そしていつか俺を裏切った憎き勇者達に復讐してやる !

俺はそう固く誓った。


続く

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