表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/12

3 魔王軍に就職します



キシャアアアアア


「た、助けてくれぇぇぇ !!!」


食虫植物のような巨大な化け物はうってつけの餌を見つけ、歓喜のあまり不快な雄叫びを上げた。

忘れてた……ここは上級冒険者でも苦戦すると言われるかなり危険なダンジョン……化け物共がうじゃうじゃいる魔の巣窟だった。


巨大な魔物は象の鼻のように長い触手を伸ばし、一瞬で俺を捕らえて軽々と持ち上げた。


「やべえ……捕まった……もう終わりだ……」


早くも二度目の人生を終えようとした俺。

だがその時、勢い良く炎球が一直線に飛び出し、魔物の触手を焼き切った。


「怪我は無いか」


触手の拘束から解放された俺はいつの間にか長身の女にお姫様抱っこをされていた。

魔王のサリーが俺を助けてくれたんだ。


「あ、有り難うございます……」


顔を見上げるとサリーの凛々しい表情が良く見える。

お姫様抱っこをされた俺は乙女のように恥じらいたまらず頬を染めた。


「良くも我が部下に手を出してくれたな、黒焦げにしてやるぞ」


サリーは瞳に炎を宿しながら戦闘体勢に入り、手のひらに魔力を集中させていた。

いや、まだ貴女の部下になると決めたわけでは……。


シュルルルルル


魔物の触手は巨体に似合わぬ速さで瞬く間にサリーの腰に何重にも巻き付いた。

流石のサリーも咄嗟の事で反応しきれず、拘束を許してしまった。


「ぐっ…… !」

「さ、サリーさん !」


あっさりと捕まり手前まで引き寄せられるサリー。


「ふっ、私は魔王だぞ、この程度の低級魔物ごとき敵では無い」


サリーはどや顔を決めながら脱出を図るが触手はまるでびくともしない。


「あれ…… ?」


様子がおかしい。

あれだけ自信に満ち溢れていたのに全く脱出する気配はない。

どうやらサリーはまだ目覚めたばかりで完全に力を取り戻せていないようだ。

今の彼女は低級魔物よりも劣るくらいに弱体化していた。

魔王とは思えない無様な姿を目の当たりにし、俺は哀れみすら覚えた。


「くそっ、雑魚の分際で、私を甘く見るな……あれ……力が……抜ける…… !」


ボコボコと不気味に脈打ちながら躍動する触手。

絡み付いた触手はサリーから魔力を吸収し養分としていた。


「まずい……このままでは…… !」


サリーの身体にある魔力は残りカスしかないと言っていた。

もし全て奪われればいくら魔王でも命に関わる。

……俺は少し考えた。

この隙に逃げれば、自由になるんじゃないかと……。

けれど……。


「ぐっ……ああっ…… ! ぐわあっ !」


サリーは苦痛に身悶えしながら絶叫する。

触手による締め付けは更に強まり、彼女の顔はみるみる赤く染まる。

苦しんでる彼女を放っておく事が出来なかった。


「どうする……俺…… !」


俺はその場で立ち尽くし、葛藤する。

今まで勇者達の影に隠れ、逃げ回っていた臆病者のこの俺が、あの化け物を倒せるはずがない。

だけど、ここで彼女を見捨てて逃げれば、俺はあいつらと同じになる。

いくら魔王でも、下心があろうと、彼女は俺を助けてくれた恩人、それは変わらない。

それにどの道人間を止めて悪魔に魂を売り渡した裏切り者に帰る場所なんて無い。

選択肢は一つしか無かった。


「ウオオオオオオオオオ !!!」


俺はなけなしの勇気を振り絞り、獣のように喉が契れるくらい叫んだ。

化け物は突然叫びだした俺に一瞬気をとられる。


キシャアアアアア


化け物の身の毛も弥立つ咆哮にビビりつつ、俺は大地を蹴り、跳ねるように走り出した。

……何だ? 身体が軽い……中身がスカスカになったかのようだ。

しかも速い、今までこんなに速く走れたことなんて無かったのに。

これが魔族の力か……。

俺は重量級で動きの鈍い化け物の周りを駆け回り、翻弄する。

業を煮やした化け物はもう一本の触手を俺目掛けて叩き付けた。


「遅い……止まって見えるようだ !」


化け物の動きの一つ一つが手に取るように読める。

視力も嘘みたいに跳ね上がっていた。

振り下ろされた触手の一撃を避け、俺は化け物目掛けて飛び上がる。


「サリーさんを離せぇ !」


凄まじい脚力で飛び上がった俺は勢いのままに化け物の顔面にパンチを打ち込んだ。

化け物の顔面はクレーターのように凹み、緑色の体液を吐きながら巨体が崩れ落ちていく。


「嘘だろ……この威力……本当に俺が…… !?」


自分でも信じられない、夢でも見てるようだ。

攻撃も防御力も速さも魔力も並み以下でスライムにすら負けてた俺が今目の前の巨大な植物のモンスターにダメージを与えてる。

極限の緊張状態にも関わらず、言葉で言い表せない悦びの感情が沸き上がってくる。

化け物がダウンしたことで触手の力が緩み、サリーはその隙を突いて脱出した。


「サリーさん……大丈夫ですか ?」


よろめくサリーを俺は咄嗟に支えた。


「まあな……かなり吸われたが問題ない」

「良かった……所で俺は一体……」


自らの手のひらを眺めながら戸惑う俺にサリーは微笑みながら言った。


「魔王である私の魔力を吸収した事で眠っていた貴様の潜在能力が引き出されたのだろうな、今の貴様はもう昔の貴様では無い」


俺はもう……昔の俺じゃない……。

誰よりも弱くて、仲間から疎まれる……弱虫カーリーじゃない……。

俺は生まれ変わったんだ……魔王の力を手に入れた、不死者(アンデッド)として。


「おっと、お喋りする暇は無さそうだぞ」


サリーが目を配ると、先程の怪物がゆっくりと起き上がろうとしていた。

俺の一撃が余程効いたのか、満身創痍で今にも崩れそうだ。


「さあ、とどめを刺してやれ」

「はい !」


俺は拳に力を込め、魔力を集中させた。

初めてだけど、身体が覚えてるのか手に取るように解った。

手のひらから石ころのように小さな黒い球体が出現し、徐々に禍々しい赤いスパークを纏いながら巨大化していった。


魔王(わたし)の力の一端だ、遠慮なくぶつけてやれ」

「はい ! アングリーブレイズ !!!」


俺はドス黒い邪悪な球体を化け物に向かって投げつけた。

化け物は黒い炎に飲まれ、おぞましい断末魔を上げながら燃え盛り、一瞬で灰になった。


「はぁ……はぁ……」


化け物を倒した事への安堵か、魔力を使い果たしたのか、緊張の糸がほどけ、俺はその場でへたりこんだ。


「流石だな、想像以上だ」


サリーは満面の笑みで拍手をし、俺を讃えた。

誰かに褒められるなんて生まれて初めてで、俺は顔を赤くしながらはにかんだ。


「貴様の力はまだまだこんなものでは無いぞ、これから先もっと修羅場を潜り抜ければ、更に強くなれる」

「そ、そうですか……」


悪くない気分だ。

今まで充実感や達成感を感じた事なんて無かった。

サリーと出会わなかったら、俺は救われていなかったかもしれない。


「それでどうだ、我が魔王軍に」

「入りますよ」


サリーの言葉を遮り、俺は迷いなく答えた。


「俺が魔王軍最初の部下になります! サリーさん、いや、サリー様! 共に世界征服を目指しましょう」


俺はサリーに敬意を表し、彼女の前で膝まづき、忠誠を誓った。

それは人間達と決別することを意味していた。


「その答えを待っていた……今後とも宜しく頼むぞ……そう言えばまだ貴様の名を聞いてなかったな……」


サリーは慈愛に満ちた表情を浮かべ、頭を優しく撫でた。


「俺の名前はカーリーです……不死身のカーリー! 」


勇者一行に裏切られ、魔物の餌にされた冒険者の俺は独りぼっちの魔王に認められ、魔王の部下になった。

俺は彼女と共に、この闇の世界で生きていく。


続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ