11 ゴブリン滅亡の危機
俺達上級魔族には探知機能が備えられている。
精神を集中する事によって他の魔族の持つ波動をキャッチし、居場所を特定する能力だ。
探知機能を使い、目当てであるゴブリン族の住みかを探し当てる事に成功した。
ゴブリン達は人里離れた辺境の洞窟に生息している。
だが俺は妙な違和感を覚えた。
あれだけ繁殖力が高く、群れで暮らしてるはずのゴブリンの反応が予想よりも少なく感じた。
「ゴブリンが簡単に絶滅するとは思えないわ」
「奴等は力は弱いがどの種族よりも数が多い……敵に回れば厄介な存在にもなりうる……」
俺達は一抹の不安を覚えながらもゴブリン達の住む洞窟に向かった。
「…………」
俺達はゴブリン達に会うため、松明を手に洞窟内を詮索し始めた。
中はひんやりとした空気に包まれ、思わず身震いする程だ。
本当ならうじゃうじゃいるはずなんだけど、どれだけ進んでもゴブリンどころか虫一匹見かけず、不気味なまでの静寂が空間を支配していた。
ゴブリン達は間違いなくここにいるはずなのに。
「ね、ねえ……ほんとにゴブリンいるのかな…… ?」
「おかしいわね、まるで何かを恐れているようだわ……」
異変を感じ、カミツレ達は不審がりながら辺りを見回し、歩き続ける。
「きっと奥地に身を潜めてるんだと思いますよ、もう少し進みましょう。」
その時、突然何者かが岩の影から飛び出してきた。
剣を振りかざし、凄まじい敵意を剥き出しにしながら俺達に襲いかかる。
「うわっ !?」
俺は咄嗟に短剣を取り出し、勢い良く振り下ろされた剣を反射的に受け止める。
襲ってきた者は黄緑色の肌と長い耳をした青年で片眼を黒い眼帯で覆っていた。
ハンサムで整った顔をしていたが、その顔は怒りと憎しみで歪んでいた。
「ちょちょっ、待ってくれ! 俺達は敵じゃない !」
「黙れゴブリン狩りめ! 今度こそ貴様らの好きにはさせんぞ !」
青年は息を荒げ、極度の興奮状態にあり、まともに話が出来る感じではなかった。
恐らくこの洞窟で何かただならぬ事が起こったのだろう。
俺は腕に力を込め、青年の攻撃を受け止めるので精一杯だ。
「アンタ、ホブゴブリンのリーダーね !」
カミツレ達も急かさず臨戦体勢に入る。
フライゴは突然の事態にアワアワしている。
「どどど、どうしようヴェロス、カミツレ…… !」
「落ち着けフライゴ! おいホブゴブリン! 俺達は魔族だ! 人間じゃない、お前達に敵意は無い !」
ヴェロスは怒り狂うホブゴブリンを宥めるように言った。
ホブゴブリンは歯を食い縛り、片目を血走らせながら俺達を見渡す。
「俺達はお前達と話に来ただけだ! 剣を収めろ !」
ヴェロスに諭され、興奮していた青年は徐々に落ち着きを取り戻し、少しず剣を握る力を弱める。
「…… ! 確かに……人間とは違う闇の魔力を感じる……」
ホブゴブリンは頭が冷えたのか、ゆっくりと深呼吸して剣を収め、二三歩程後退する。
「すまなかった……俺の勘違いで……」
ホブゴブリンは申し訳なさそうに頭を下げた。
先程まで猛獣のように荒れ狂ってたとは思えないくらい大人しくなり、穏やかな雰囲気になっていた。
「分かってくれれば良いんですよ、それより事情を話してくれますか ? ここで何があったのかを」
俺は冷や汗を掻きながら剣を鞘に戻し、苦笑した。
もし人間の時だったら有無を言わさず殺されていただろう。
「はい、俺はホブゴブリンのリブットと言います……実はですね……」
ホブゴブリンのリーダー……リブットは深刻そうな表情を浮かべながら話を始めた。
最近、「ゴブリン狩り」と呼ばれる冷酷かつ最強の冒険者が現れ、多くのゴブリン達を狩り尽くしていた。
その実力は勇者にも匹敵する程で一度で数100匹のゴブリン達を一掃出来るらしい。
彼一人の手によってこの近辺のゴブリン達は全滅の危機に晒されていた。
ここの洞窟にもゴブリン狩りが現れたがリーダーのリブットがなんとか死力を尽くして奮戦した。
しかしリブットの力を持ってしても追い払うのが関の山で代償として片眼を失ってしまった。
そのせいか洞窟内のゴブリン達は人間への恐怖と怒りで大変ピリピリしているのだ。
さっきの侵入者に対する異常なまでの敵対心もその為だ。
「ゴブリン狩り……全く、最悪のタイミングね」
「これからゴブリン達をスカウトしようって時に……」
「俺達をスカウト……? 貴方達は一体何を ?」
落胆する俺達に対してリブットは首を傾げる。
俺は愛想笑いを浮かべながら説明を始める。
「えっと、俺達は魔王軍です……最近復活したんですけどね……でも今は少数しかいなくて、ゴブリンさん達のお力を借りようと思ってたんです」
「……それは当てが外れましたね……俺達は今や滅亡寸前……次にゴブリン狩りが現れたら僅かに生き残った俺達も無事ではすまないでしょう……」
リブットは悔しそうに拳を震わせていた。
「いえ、そんな事させません、俺達魔王軍が何があっても貴方達を助けます」
俺はリブットの肩を優しく叩き、励ましの言葉を送った。
「ええ、私達の計画の邪魔する奴等にお仕置きしてあげなきゃね」
「ふん、同意見だ、同じ魔族としてほっとけんしな」
「あ、相手がどんな強敵だろうと……頑張ってみるよ……」
カミツレもヴェロスもフライゴも俺と気持ちは同じだった。
リブットは嬉しさから涙を浮かべながら深々と一礼した。
「ま、魔王軍の皆さん……感謝します…… !」
続く