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11 ゴブリン族



「はぁ……はぁ……」


ここは人里離れた辺境の土地。

洞窟には小さき下級の魔族・ゴブリン達がひっそりと暮らしていた。

だが、彼等の平和はある男によって脅かされていた。

薄暗い坑道にはいくつもの血痕と無数のゴブリン達の屍が転がっている。

そしてそれらを踏みつけながら先へ進む一人の男……。

男は錆れた甲冑を身に纏い、兜で素顔を隠し、全身に赤い血を浴びていた。

片手には道を照らす松明を、もう片手には刃溢れしたボロボロの短剣を握り締め、刃からポタポタと血を垂らしながら歩き続ける。


「出たな、ゴブリン狩りめ !」


甲冑男の前に一人のゴブリンが立ち塞がる。

そのゴブリンは大きな耳と黄緑色の肌が特徴的だがゴブリンにしては背が高く、ホブゴブリンにしては華奢で、若く爽やかな青年のように見えた。


「俺は隊長のリブッド! 侵入者め、これ以上先には進ませんぞ !」


リブッドは若干緊張しつつも物怖じせず剣を構え、甲冑男を威嚇する。

甲冑男は怯みもせず、無言で血にまみれた短剣を翳す。


「うおおおおおおおお !!!」


リブッドは内なる恐怖心を押し殺しながら剣を振りかぶり、勇敢にも叫び声を上げながら甲冑男に飛び掛かった。


キィィンッ




場面は変わり、俺達は三幹部を連れて魔界へと帰還した。

これから玉座の間に集まり、今後について皆で作戦会議を開く。


「というわけで、数百年ぶりに元三幹部の皆さんも無事に復帰されたわけですが……」


玉座の間にて、彼等の機嫌を損ねないよう俺は愛想良くしながら話を進める。

三人は真面目に聞いているのか聞いていないのかよく分からない。

カミツレは退屈そうに頬杖をつき、ヴェロスは怖い顔で睨み付けながら腕組みをし、フライゴは周りを見ながらオドオドしている。

新入りだからか、まだ認めてもらえそうにないな……。


「今のままでも充分な戦力にはなったと思います、一人一人が一騎当千の実力……しかし……それでもまだまだ兵力不足と言いますか……課題は山積みですね……」


三人の顔色を窺っていくうちにどんどん歯切れが悪くなっていく。

サリーの指名でどういうわけか新参の俺が進行している。

こんな個性の強い連中を纏めるなんて荷が重すぎるよ。


「要するに重鎮だけが数名揃っても軍として成立しないって事でしょ ?」

「……軍を動かす為の有象無象の駒……雑兵がいないからな、今の魔王軍には」


ヴェロスは詰まらなそうに吐き捨てる。


「集めようにも、今の落ちぶれた魔王軍にワザワザ入りたいなんて物好き、いるはずないしね」

「はぁ……ですよね……」


運良く重鎮達を呼び戻す事には成功したものの、数百名以上の一般兵を集める方法が誰も思い付かない。

数百年前に勇者に敗北してから、魔王軍のブランド力は落ちに落ちている。

作戦会議は難航した。


「何をいつまで無駄話をしているのだ」


自分は干渉せず、部下達に話い合いを任せてみたものの、いつまで経っても纏まらないため、痺れを切らしたサリーが玉座の間に顔を出した。


「「魔王様 !」」「サリー様 !」


俺、ヴェロス、フライゴはサリーの姿を見て慌ててガタッと直立に立ち上がり、彼女の方へ視線を向けた。


「キャー魔王様ー! いつもご苦労様ですわ! 肩でもお揉みしましょうか~ !?」


カミツレは少女のように目をキラキラ輝かせながら風のように素早くサリーの背後に回り、媚を売りながら彼女の肩を揉み始めた。

魔王に対する異常なまでの忠誠心、普段の大人びた雰囲気と比べてかなりギャップを感じた。


「うむ、すまんな……所でカーリー、どうやら駒を増やす方法が思い付かないようだが、我々魔王軍が如何にして過去に栄華を極めたか教えてやろうか ?」

「それは一体…… ?」


サリーは暴走気味のカミツレに肩を揉まれながら、どや顔で話を続けた。


「村や町を侵略し、刃向かう者共を力で捩じ伏せ、無理矢理従わせたのだ ! どうだ? 簡単だろ ?」

「…………」


サリーは得意気にフフンと鼻を鳴らす。

が、シーン……と城内は静まり返る。

……駄目だ、分かってたけどこの王は脳筋だ ! 力こそパワーとか言うタイプだ。

誰もが呆れて物が言えず固まる中、カミツレだけが夢中でサリーの肩を揉み続けていた。


「ど、どうしたのだ? 妙案ではないか ? 武力を持って勢力を拡大するのは基本だろ ?」


「……お言葉ですがサリー様、力で無理矢理抑えつけても兵士達は反発するだけです……仮に成功したとしても、いつか徒党を組んで反旗を翻す可能性だってあります……」


俺の反論にサリーは一応納得したものの、何処か不満気な様子だった。

……とは言え、サリーの提案自体は存外そこまで的外れというわけでもない。

俺や三幹部だけでも充分な武力は備わってる。

その力を見せつけるだけでも魔族達は従うはず。


「ねえ、手始めにゴブリン族を味方につけるなんてどう ?」

「ゴブリン……ですか ?」


サリーの肩を揉み終わったカミツレが口を開く。

「ゴブリン」は俺も何度も戦った事がある。

下級魔族で個々の戦闘能力は低く、初心者冒険者の良い経験値稼ぎなのだが、徒党を組まれると厄介で油断出来ない種族だ。

更に恐るべきはその繁殖力。

生後僅か1ヶ月程度で急成長し、繁殖可能になる。

しかも人間の女を拐って無理矢理交尾し、飽きたら殺して子供達の餌にするという凶暴な性格。

決して一人の時に出会いたくない連中だ。


「……た、確かに、繁殖力の高いゴブリンなら、あっという間に兵士達の数を増やせるね」

「一人じゃ雑魚でも群れを成すことで力を発揮する……雑兵にはうってつけだな」


ただ問題が無いわけはない。

そんな凶暴な魔族をどうやって説き伏せて仲間にするかだ。

俺が出会った時なんか言葉が通じなかったし、有無を言わさず襲われて失禁した事もある。


「カーリー、人間だったお前は知らないだろうが、ゴブリンにも話の分かる奴はいるぞ ?」


サリーはマントを翻しながら俺の方へ近付く。

彼女曰く、有象無象のゴブリン達を統率するゴブリン族最強の「リーダー」が存在するらしい。

ゴブリンのリーダーは戦闘能力は勿論頭も良く、知能は学者レベルだそうだ。

おまけにサリーには及ばないものの、野蛮で凶暴な連中を纏め上げるカリスマ性も備わってる。


「リーダーさえ口説き落とせば大勢のゴブリン達も味方になったも同然、悪くないだろ ?」

「確かに……一人を仲間にすると数百人の兵が手に入る……これしかないですよ !」


長かった話し合いもようやく一つに纏まり、ゴブリン族を軍に引き入れる方向性に決まった。


早速俺達は兵を集める為、ゴブリン達の住む洞窟へと向かった。

だがそこで俺達は壮絶な生存競争に巻き込まれる事になる。


続く

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