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1 裏切り



(あれ……俺は一体……確か皆とクエストに出掛けて……ダンジョンに入って……それで……)


目を覚ますと、果てしなく広がる薄暗い天井が最初に目に映った。

ここは無数の魔物が潜むダンジョン。

並の冒険者でも油断すれば命の危機に晒される場所。

そんな場所で無防備にも俺は仰向けになって昼寝をしていたらしい。


(こんな所で寝てたらいつ魔物に襲われるか分からない……)


朦朧としながら俺は起き上がろうとしたが、体は石のように重く、動けなかった。

指一本ぴくりとも動かない。


「……っ…… !」


声を出そうとしたが口すらも糸で縫い付けられたかのように全く開けなかった。

けれど不思議と痛みも感じない。

まるで無の感覚だ。

心臓の鼓動すら聞こえず、不気味なまでの静寂に包まれる。

暫く考えているうちに最悪な状況が頭を過る。


(……もしかして俺、死んだのか…… ?)


更に俺は自分の身に何が起こったのか、だんだんと思い出した。

思い出していくに連れ、鮮明に嫌な記憶が甦っていった。


俺の名前はカーリー。勇者のパーティーの一人で職業は僧侶だ。

いつか勇者と共に世界を救うんだと、夢と希望に満ち溢れていた。

……けれど……。


「お前マジ使えねえな」

「いつになったら戦力になるんだよ」

「冒険者向いてないんだよ、大人しく田舎帰ったら?」


仲間達から浴びせられる、心を突き刺すような罵詈雑言の数々が一言一句脳裏に甦る。

俺は勇者のパーティーの一人だったが臆病でどんくさく、戦場で役に立つ処か仲間の足を引っ張ってばかりだった。

最初のうちは多目に見てくれていたが、どれだけ経っても芽が出ず、次第に疎まれるようになった。

毎日毎日仲間達から嫌味を言われ、精神は擦りきれていく一方だった。


ある日俺達のパーティーは魔物討伐のクエストを受け、とあるダンジョンに足を踏み入れた。

その際、事件は起こった。

ダンジョン内で強敵の魔物と遭遇した時、仲間達は俺を囮にしてさっさと逃げてしまった。

更に魔法使いが俺に拘束魔法を使い、逃げられなくした。


「待ってくれ皆! お願いだから置いてかないでくれ ! これから役に立つように頑張るからぁ !」


俺はみっともなく鼻水を垂れ流し、恐怖と絶望の中顔を歪ませ、声を枯らす必死に叫んだが、悲鳴が洞窟内に虚しく響くだけだった。

魔物は無情にも無抵抗の人形を容赦無くなぶり、悲痛な断末魔を上げ、絶望のどん底の中俺は絶命した。


最初から俺は嵌められたんだ。

あいつらは邪魔なお荷物を片付ける為、わざと難易度の高いダンジョンに俺を連れていき、魔物に殺させたんだ。

リーダーのマルスだけは俺を気にかけてくれて、落ちこぼれの俺に真っ直ぐに向き合えってくれた。

だからどんなに辛くてもマルスが俺を受け入れてくれてると思ったから頑張れた。

今回のクエストだって、一緒に頑張ろうって言ってくれたのに……。

あの優しさは嘘だった……。

悔しくて悔しくて堪らなかったが、目から涙は一滴も流れなかった。


「無様だなあ人間、哀れすぎて涙すら出るぞ」


意識を取り戻してどれくらい経ったのかは分からないが、突然女の声が聞こえた。

張りがあり、腹から響くような透き通った

美しい声だ。

幻聴まで聴こえてきたかと思ったが、どうやら本物らしい。


「遠巻きに見ていたがあれは酷かったぞ、男の癖にあの程度の魔物に手も足も出んとは、情けない……昔の人間は手応えがあったものを、今の若者共と来たら……」


女は呆れた様子で俺を見下ろしながらクドクド説教を始めた。

初対面なのになんて失礼な女だ。

俺は心の中でムッとした。

あれは仲間の拘束魔法のせいで……

って拘束魔法関係なくどの道俺じゃあの魔物に勝てないよな……。


「何を弱音を吐いておるのだ馬鹿者め ! 後誰が失礼な女だと ? 」


え !? 聞こえるの ?心の声が !?


「ふむ、どうやら驚いているようだな、若者よ、そろそろ見下ろしながら喋るのがきつくなってきたぞ、いい加減起きろ」


女はそう言うと指をパチンと鳴らした。

その瞬間、急に全身に何かが流れ込んできた。


「うわっ !?」


俺は思わず蛙のように飛び起きた。

何が起こったのか自分でもよく分からない。

混乱したまま、辺りをキョロキョロと見回す。


「ここだここ」


女は俺の肩を指でつつき、振り向かせた。


「おはよう、ようやく目を覚ましたな !」


きょとんとする俺を真っ直ぐ見つめ、女は白く光り輝く歯を見せながら満面の笑みを浮かべる。

女は俺より大きい180センチ以上の長身、

この世のものとは思えない整えられた美貌、腰まで伸びた夕焼けのように美しいオレンジ色の髪をしており、スタイルも良く、禍々しい漆黒のビキニアーマーを着こなしていた。

そして何より目を見張るのが二つに実った巨大果実のように豊かな胸。

男なら誰でも惚れる程の絶世の美女が目の前にいる。

俺はごくんと唾を飲み込み、女の美しさに見とれてしまった。


勇者のパーティーに裏切られ、俺は一度死んだ。

だが彼女との出会いによって、俺の運命は大きく変わることになる。

それが吉と出るか凶と出るかはまだ分からない。


続く

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