4-③
「おぉ……」
手先が器用か、と問われれば、月子は間違いなく首を横に振る。別にそんなことはない。小学校の夏休みにあった工作課題が中学校から消えたことにはとてつもなく安堵したし、小学校の授業にあった図工という科目が中学校で技術と名を変えて現れたことにはとてつもなく戦慄した。そういうタイプの人間である。
でも、毎回誰にも手伝ってもらえず、ひとりで頑張っていたから。
頑張っていた分の力は、身に付けていた。
「すごいね……これ……」
「ちゃんと使えるようになってるかはわからないけど……」
感動したようにカエデは言ってくれたけれど、月子の目から見てそれは、お世辞にも格好がいいとは言い難かった。
ハサミを使って、網戸のフレームと網を分解した。そしてその網の部分をそれっぽく折り曲げて、自動車の前側、よくわからないけれど引っかかってくれそうな部分に結び付てみた。
それだけ。
ハムスターが一生懸命考えたブルドーザーみたいだった。
自分のセンスのなさに月子が淡い悲しみを覚えている横で、カエデは興奮した様子でその車の周りをふんふんと回っている。
「すごいな、月子ちゃん! 文明の開拓者って感じだよ!」
あまり自分ではそんな感じはしなかったし、どちらかといえば幼児のおもちゃ遊びだ、と思っていたが、褒められて悪い気はしなかったので、とりあえず否定しないでおいた。
ちら、とカエデは月子を見る。
「……乗りにいっちゃう?」
色々と、不安はあった。いくらか試運転した感触ではちゃんと走ると思ったし、単純なつくりだからその分ちゃんと機能してメダルを拾えそうにも思えるけれど、実際に長距離を移動しようとしたら、たとえばジョイントが外れたりとか、そういうことは普通に起こりそうに思える。
でも、と月子は思う。
橙の瞳にまっすぐ見つめられながら。その期待に晒されながら。
もしもダメだったらがっかりさせてしまうかもしれないけれど。
でも、この人なら許してくれるかもしれない、と思うから。
「うん、乗る」
運転役は、結局月子になった。
運転席で、なんとなくで車を始動させて、障害物なんか何もないんだから事故の起こしようがないと自分に言い聞かせて、その隣ではいそいそとカエデが助手席に座ってシートベルトを締めていて。
「じゃあ、行くよ」
「うん、お願いするよ」
「しっかり掴まっててね」
「えっ? しっかり掴まってなくちゃいけないようなスピード出すの?」
もちろん出さなかったけれど。
でも、大成功だった。