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恋愛もの

あの日の夕日を覚えていますか。

作者: Amaretto
掲載日:2019/03/27


「俺たち、別れよう。」


 それは、突然だった。

 私がテレビを見ている時、普段の何気ない会話と同じように、彼は言った。

 テレビの中の赤い服を着たお笑い芸人が「うそやんー!」といって、周囲が笑う声が聞こえてくる。

 テレビでは明るい雰囲気なのに、今この場は、空気が張り詰めている。


「え。急に……なんで?」


 私は戸惑っていたが、冷静を装いつつ、言った。

 彼は躊躇わずに、私の問いに答える。


「俺、もう、お前の事、好きじゃなくなった。」

 

 テレビの音は耳に入らず、彼の冷たい声だけが、鼓膜に響く。


 一瞬、意味が理解できなかった。


 彼に、心の中で問いかける。


 いつから? 

 いつから私の事、好きじゃなくなったの?


 そして、心の中で非難する。


 あんなに、私の事好きって言ってくれていたじゃん。

 私にいつも、笑顔を向けてくれていたじゃん。

 どうして、好きじゃなくなったなんて、言うの?

 

「……そっか。」

 

 そんなこと聞けるはずもない。


「……うん。それなら……別れよう。」


 私はそう言った。

 そう言うことしかできなかった。


 泣きそうだ。

 今すぐここで、みっともなく泣きたい衝動に駆られたが、必死に抑える。

 私は立ち上がり、彼のアパートから出るために身支度を済ませる。


「……じゃあ、今まで、ありがとうね。」


 私は彼を首元を見ながら、笑顔を作って言った。目は合わせられなかった。


 声が少し震えてしまっていたし、作った笑顔も、ぎこちなかったと思う。

 彼は、きっとそのことに気づいた。でも私を引き留めなかった。

 ……引き留めてほしかった。


 本当に最後なんだな、と私は実感し、余計に辛くなる。 


 私は、勢いよく彼の部屋から出た。

 バタンとドアが閉まる大きな音がした。

 私と彼の関係を断つ音。

 

 外は冷たい風が吹いていて、寒かった。

 私はコートのポケットに手を入れながら、アパートの階段を降りる。


「一人ぼっちに……なっちゃったな……。」


 一人になった瞬間、涙がとめどなく溢れてくる。

 

 どこか一人になれる場所に行こう。


 彼のアパートの近くには、川がある。

 私はそこに向かうことにした。

 顔を下に向けながら、人通りのない道を歩く。



 川の近くにたどり着いた私は、もう誰にも見られない、と安心する。

 私は坂を下り、川のほとりへ向かう。

 でも、そこには先客がいた。


 黒いコートを羽織った男。私の気配に気づいた彼は、私の方を向く。

 私は、泣きはらした顔を彼に見られてしまった。


「あ、ご、ごめんなさい。」

 私の顔を見てしまったことに、彼は謝る。


「あ、俺、ここにいないほうがいいよね?」

 彼は私の様子をみて、気を利かしたのか、立ち上がる。


「あ、い、いえ。だ、大丈夫です。」

 私はそう言い、くるっと回り、帰ろうとした。


「ねえ、どうしたの? 何かあった? 俺でよければ聞くよ。」


 彼のその発言に、私は足を止める。


「……なんて、かっこつけてみたけど、俺、今日振られたんだよね、彼女に。」


 私は彼の方を振り返る。彼は茶色い髪を風になびかせ、私に微笑んでいる。


「……あなたも、振られたんですか。」

 私はボソッと呟いた。

 それは風にかき消され、彼には届かなかった。


 彼は、私が帰らないと思ったのか、こっちへおいで、というポーズをした。

 私は彼の方へ向かう。


 彼はその場に座り込んだ。

 私も、その隣に座る。

 私と彼の距離は、近くもなく、遠くもない。

 彼氏よりは遠いけど、他人よりは近い。そんな距離。


 丁度、夕日が沈む時間帯。

 透き通るような水の色も、この時間はオレンジ色に染まる。


「ここにいると、落ち着くよね。だから、君がここに来たのも、分かる。俺は、辛い時よくここに来るんだ。ここは、自分をうけ止めてくれる気がするんだ。」


 彼は私の方を見ることなく、言った。


「……私、今日、振られたんです……。」


 彼は、無表情のまま、「そっか……。」と言った。

 同情するわけでもなく、笑うわけでもなく。


「私……一人になっちゃった。」


 私はポツリとつぶやく。

 少し間をおいて、彼は言った。


「君は、一人じゃないよ。僕も、今日振られたんだ。だから、仲間。」


「仲間……。」


「そう、恋人との関りが、すべてじゃない。俺も、君も、さみしいって感じている仲間だよ。」


「あなたは、振られたのに、どうして明るくいられるんですか?」


 彼は、頭をポリポリ書く。


「俺はね、元カノに、『明るいところが好き』って言われたんだ。未練たらたらだよね。」

 彼はそう言って笑った。


「私も、未練たらたらですよ。まだ……彼の事好きなんです。はっきり、『私の事好きじゃない』って言われたのに。」



 夕日は、だんだんと沈んでいきそうになっていた。

 空は、オレンジと藍色のグラデーション。



「いつか……忘れられる日が来かな。」

「いつか……思い出に出来る日が、来ますかね……。」



 私たちは、無言で夕日を見ていた。



 夕日が沈み、私の泣きはらした顔が少しマシになったころ、彼は立ち上がった。

 私も立ち上がる。


「じゃあ、暗くなる前に帰るんだよ。」

「はい。」


 私達は逆方向に歩きだした。

 また会いましょう、とは言わなかった。


 たまたま、会っただけの彼。

 たまたま、同じ日に振られたから、話しただけ。


 でも、彼のおかげで、救われた。

 一人じゃないって、気づけて良かった。

 



 川辺で会った彼とは、あれ以来会っていない。

 連絡先も、名前も知らない。





 だけど、あの日の夕日だけは覚えている。



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