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「へえ、遠山さんの姪っ子さんなんですか」
「ええ。可愛がっていただいてますわ…お2人のお話もかねがね」
少し赤みがかった長い巻き髪に細いシルエットのロングドレスを身に纏う女は、名を鏑木紗枝と言った。遠山勇には妹がおり、医者家系の名家鏑木家に嫁いだことで密かに噂されていたことがある。その娘だというのだから育ちが良いのだろう。
「叔父様ったら私を招いてくださったくせに放っておくんですの。…本当に勝手な方」
いかにも悩ましそうに喋る紗枝の話を聞いていた枢は、小さく溜息をつくと冬馬をその場に残して立ち去ろうとした。枢が踵を返すと、その手を紗枝が取って引き止める。
「…もう行ってしまわれるの?」
「…待たせている女性がいますので」
枢は悪びれもせずに虚言を吐いた。
「まあ。酷い人ね…私、枢さんと2人きりでもっとお話したいわ」
紗枝は甘えた声で枢のスーツの袖を掴む。色気が滲み出ていて、なんとも魅力的である。
「そこの神崎はいい男ですよ…色々と小さい男ですけどね」
「っテメェ!高嶺ェ!!」
捨て台詞に冬馬を貶めるのは忘れずに、枢は本当に立ち去ってしまった。
後に残されたのは、冬馬と、枢に優しく払われた紗枝の片手だけ。
「…女性の扱いに慣れた方なのね」
紗枝は枢の後ろ姿を恨めしく見つめてポツリと呟いた。
少しいたたまれなくなった冬馬は咳払いをして、紗枝に手を差し伸べる。
「……バルコニーにでも出ますか、レディ?」
「…喜んで」
紗枝は驚いた顔をしながらも、少し嬉しそうに冬馬の手を取った。
紗枝の手を引いて近くのバルコニーへ歩いていく冬馬は、紗枝に気付かれないようにスーツの内ポケットの感触を確かめ、気を引き締める。内ポケットには、L字型の硬いものを忍ばせてあった。
(さて…仕事仕事)
短いです、、次回の更新を早めに予定しています。
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