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10年前の少女が泣いた  作者: 冷凍みかん
episode1: あと、365日が5回だけ
7/19

6




 都市部にも、人の目の穴は多く存在する。



 狭い路地を駆け抜け、上水の通るマンホールに入り、少し走ってからまた地上へ上る。そこには大きな廃ビルがあって、その地下2階がエルたちのホームーーー拠点の呼び名であるーーーだ。



 「ただいま」


 「「おかえりなさい!」」



 ドアを開けた瞬間に、明るい声がたくさん響き渡る。


 地下の広い部屋では子供たちがエルと小夜の帰りを待っていた。



 「エル、上着掛けとくから貰う」


 「ありがとう真哉(しんや)



 真哉ーーー川澄真哉(かわすみしんや)は15歳で、しっかりした男の子。いつもエルが仕事に行くときはホームで子供たちの世話をしてくれている。



 「小夜姉おかえりぃ〜お怪我なぁい?」


 「ん〜!無いよ〜小夜姉元気だよ〜♡」


 「そっかぁ、よかった!」



 小夜がデレデレになってしまうほど可愛らしい女の子、叶和(とわ)ーーー西野叶和(にしのとわ)は、ホーム内最年少の9歳。叶和はエルに1度抱きついてから、無邪気に手を振って、部屋の奥へ走っていった。


 現在ホームでは、エルを含めて9人が身を寄せて暮らしている。歳は叶和の9歳からエルと小夜の21歳で、幅が広い。そして、私たちにはある共通点がある。


 エルの視界に映る子供たちは全員、白銀の髪なのだ。さらに両眼が赤い。



 「エル、小夜姉、お疲れ様でした。小夜姉、ウィッグを預かりますよ」


 「じゃあ椎名(しいな)、小夜のコンタクトもお願いしていーい?」


 「どうぞ。これ、ケースです」



 椎名ーーー佐伯椎名(さえきしいな)に勧められ、小夜は栗色のミディアムヘアのウィッグを頭から外し、本来の白銀のボブヘアーを露わにした。ウィッグを椎名に渡してから、小夜は自分の左眼を人差し指と親指で探り、ブラウンのカラーコンタクトレンズを外す。小夜は右眼が茶、左眼が赤のオッドアイなのだ。ホームでは、小夜と、同じくオッドアイの玲吾、そして()()()自分の意志により調整できるエル以外はみんな両眼が常時赤い。


 「じゃ、いつも通り保存しておきますね」


 踵を返してテキパキと自分の仕事をこなすのは、椎名の性格であり、長所である。現在15歳で多感な女の子なのだが、同い年の真哉と同様に大人びている節があり、幼い子たちから見るとクールなお姉さん的存在になっているようだ。



 「真哉、玲吾はもう帰ってる?」


 「うん。奥の部屋にいる。慎司(しんじ)兄さんもいるはず」


 「わかった。小夜、行くよ」


 「はーい!」



 わいわいと賑やかだったエルと小夜の周りが、行き先が決まったことによりある程度落ち着いた。子供たちは賢く、今まで決してエルの嫌がることをしたことがない。年相応の扱いづらい行動をする子供はこのホームには誰一人としていない。


 「エル」


 エルが声のした方を見ると、いくつかある扉のうち奥の1つが半開きになっていて、そこから玲吾が覗いていた。



 「あの後、奴らに追われたりは…」


 「してないよ」



 玲吾の不安げな問いにエルが迷うことなく即答すると、玲吾は安心したように扉を大きく開けてエルを迎え入れた。ーーー小夜が入るときは全力で妨害していたが。



 「おかえり、エル」


 「ただいま慎司…誰か来た?」


 「いや、大丈夫だ」



 慎司ーーー佐野慎司(さのしんじ)は18歳で、ホームではエルと小夜の次に年長者。主に戦闘要員で、ホームに近付く害ある者を排除する役割を担う。ホーム内の戦闘要員は、エルと慎司、小夜、玲吾、真哉と椎名の6人。他の3人はまだ幼いので、戦闘の知識はあれど実戦はさせていない。


 「ターゲットは確認してきた。…はっきり言って、いつも通りに殺ろうと思って殺れる相手じゃないと思う。計画的にいきたい」


 エルが珍しく慎重な姿勢を見せるのを見て、小夜も頷く。



 「小夜も一筋縄じゃいかないと思ったよ。少なくとも、高嶺は小夜たちの気配を感じてたしね」


 「小夜のダダ漏れの気配はともかく、エルもか?」



 慎司が驚いたように言うと、小夜はむくれて慎司に詰め寄る。



 「悪かったね、隠密に不向きでっ!ただ、今回は確かにエルちゃんも気づかれてたと思うもん!相手が凄いんだもん!」


 「私もそう思う…高嶺枢は間違いなく手練だからね」



 エルが強めにフォローをしたので、慎司が「わかったわかった」とばかりに肩を竦めてみせた。


 慎司が小夜をからかっていた間始終何か考え込んでいた玲吾だったが、ようやく結論に至ったようで、軽く挙手して口を開く。



 「だったら今回の仕事、小夜はホームの留守だな」


 「っはぁ!?玲吾アンタ、ふざけたことをーーー」



 玲吾の唐突な進言に怒った小夜は抗議しようとしたが、エルが小夜の口を片手で塞ぎ、それを阻止した。


 「誰でも向き不向きはある。小夜は小夜にしか出来ないことが沢山あって、いつも活躍してもらってるよ。ただ、今回の仕事は暗殺実行において隠密能力がある程度求められる。だから、この仕事は、私に任せて。小夜は、叶和たちを護ってあげてほしい」


 小夜はその容姿からは想像出来ないほどの怪力の持ち主である。「こちら側」の人間は常人より優れた身体を持ち合わせているが、それにしても尋常でない馬力。例えばの話、1人で大型マンションを倒壊させることが出来る。


 一方で隠密行動においては秀でているとは言い難い。ホームのみんなでかくれんぼをやったなら、まず1番に見つかるのは小夜だろう。


 エルたちからすれば、高嶺暗殺で気配の濃い小夜が前線へ行くのはリスキーな話なのだ。



 「んん…エルちゃんが言うなら小夜は何でもします。……今度気配の殺し方、また教えてください」


 「勿論、よろこんで」



 小夜は少し小さくなってエルの一歩後ろに下がった。



 「じゃあエル、実行当日における戦闘員の配置図と、行動詳細を確認していきます」


 「よろしく玲吾」



 玲吾は隠密と解析に長けた頭脳型の戦闘員だ。ホームでの作戦立案は主に玲吾が行っている。それに対し、エルや慎司が改良することになっている。


 「まず明日の夜に行われる警察関係者の祝賀パーティにエルが単身で潜入します。慎司と俺は何かあったときの補助戦力として隠密行動をとる。エルはターゲットに近付き、できる限り人目の無い場所へ移動。暗殺してください。その後速やかに会場から脱出し、慎司と俺と合流、一晩明かしてから翌日にホームへ帰還します」


 エルが主体の暗殺計画。実にシンプルで分かりやすいものだ。ちなみに暗殺後、一晩明かすのはホームがバレにくいようにするためである。仕事の後はよく行う行動だ。


 エルは少し考えてから、ニコリと悪い顔をして口を開いた。


 「イイこと思いついたのだけど…」


 慎司も玲吾も小夜も、エルがそういう顔でそういうことを言うときはどんなことが起こるか知っていた。こういうときは決まって、リスキーな計画が執行されるのだ。


 3人は一縷の不安を胸に仕舞い、エルの計画を静かに聞いた。







登場人物が増えました。どの子も可愛いので今後の活躍に期待してください!

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