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10年前の少女が泣いた  作者: 冷凍みかん
episode1: あと、365日が5回だけ
4/19

3

 


『広場の西の並木通りまで行ってください』


 小夜の手を繋ぎ直して、エルは桜になど目もくれずに進んでいく。


『エルの現在地点から150メートル北に10人近くのグループがあって、荷物は多いのに誰も飲食してない』


「それはそれは…花見でもお仕事なんて。痺れるね」


「それは小夜たちも同じじゃないですか」


 小夜の拗ねた顔を見て、エルは少し笑った。


「また今度ってさっき言ったばかりでーーー」


 そう言いかけて、エルは口を止めた。


「?エルちゃんどうし」



 ドォン



 突如大きな爆音が公園に鳴り響いた。

 爆煙が上がっている場所はとても近くで、エルは誰が爆発を起こしたのか直前に視覚していた。

 爆発前、白いフードとマスクで人相を隠した男が紙袋を片手に周囲の様子を伺っていた。道の真ん中に紙袋をそっと置いて、男がその場を5m程度離れた瞬間、紙袋が爆音を伴って弾けたのだ。

 そして、爆煙が薄くなってきた今このときには、男の姿が路上に目視できない。この間約10数秒。これだけの時間があれば常人でも逃げることは可能だが、()()()()、男は()()()()の存在だと言うべきだろう。

 何故ならーーー


『エル!エル!今の白フードの男、エルの()()だ!!』


(やっぱり)


 エルの真上、つまりは桜の木の上に、男は乗っているのだ。10数秒であの場所からこの高い木に木登りなど常人は出来ない。つまり、()()()()の存在である可能性が非常に高い。


「エルちゃん」


 小夜が真上の男に気付かれないように小声で呟く。


「ここは良くない」


 そう言うと、小夜はある方向を目線でエルに訴えた。そちらを見ると、騒然とする人々に紛れて、妙に冷静な面持ちの男がこちらに近付いてくる。ーーー片手をパーカーのポケットに入れて。


『…エル』


「そうだね。離れましょう」


 エルは小夜の腕を掴んで、爆発によってパニック状態になった人の波に乗じ、並木通りから少し離れた場所へ移動する。


 ある程度太い桜の木を見つけると、素早く裏に回って思い切り上に跳んだ。幸い混乱の最中、エルと小夜を凝視する者もいない為、1秒もかからないこの行動が目立つこともない。

 木の上で安定すると、先程までいたあの桜の方向に目を凝らす。


「玲吾…アレが()()?」


『ああ。あの木の下の男』


 木の上には相変わらず白フードの男がいたが、何か焦っているように見える。白フードの視線の先には、妙に冷静なあの男。

 男はニッコリと笑って、ポケットから手を出した。その手に握られていたのはーーー


()()()()だね、エルちゃん」


「…厄介ね」


 男は全く表情を崩すことなく、デリンジャー程度の小さな麻酔銃を片手で上に向けて、間髪入れずに一発発射。音はほとんど聞こえなかった。

 まもなく白フードが木から落ち、それを後から来た仲間が拘束する。


『あの麻酔持ちの男…アレが、警察特殊部隊S1班班長、高嶺枢(たかみねかなめ)ーーー今回のターゲットだ』


 エルたちは特殊部隊のことを「麻酔持ち」と総称することがある。麻酔弾で標的を無力化する戦闘スタイルだからだ。彼らのように特殊部隊で「S」から始まる班は、()()()()()()()()()()を専門に駆逐する。そういう場合は、通常の銃弾よりも麻酔弾のほうが有効だというのが警察での常識らしい。実際その通りなのが逃げる側としては辛いところだ。


 高嶺は仲間が白フードを拘束、連行するのを一瞥して、周囲を見渡した。

 何かを探しているように見える。


「…行こう。実際の人相も知れた。これ以上はリスクが高まる」


「そうですね。()()の事件現場に長居は禁物ですから」


『了解、エル。()()()に帰ります』


 エルは別の木に飛び移る直後、もう一度高嶺を見た。

 黒髪で、長身で、薄く笑っていて、侮れない瞳の男。


(久しぶりにいい仕事になるかもしれない)


 エルはクスリと笑って、小夜と共にその場を後にするのだった。





小夜は個人的に好きなキャラです。

これからの活躍が期待出来そうですね。

感想など頂けると嬉しいです。

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