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10年前の少女が泣いた  作者: 冷凍みかん
episode2: 遠くの貴女を空に想う
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 エルはドアを開けた瞬間に、全てを察した。


 見た顔が数人。人通りの無い細道のカフェ。


 こんな状況下に、セラフであるエルが突入していいはずがない。


 だからといって、1度入った店をすぐ出ていくのも不自然だ。


 入店し、暫く時間が経つのを待ってから頃合を見て逃走するのが良策と思われる。


 エルはそこまでの思考を一瞬でかけ巡らせ、全神経に集中して一欠片も動揺を見せないように努める。


 云わばここは完全なる敵陣。少しでもヘマをすれば()()()()しまうだろう。


 そんな殺伐としたことを考えているとは思えないような柔らかな表情を一切崩さず、エルは言葉を紡ぐ。



 「こんばんは……営業中ですか?」



 少し驚いたような顔をしていたブロンド髪の外国人美女がエルの言葉を聞いて慌ててカウンターに入り、僅かに焦りを残した硬い笑顔で、 客であるエルを迎える。



 「Hi. It's open as BAR at night.」



 彼女の口から聞こえてきた言葉はネイティヴの英語であった。


 それに合わせて、エルも「Thank you.」と英語で返す。


 エルは店に一歩踏み込み扉を静かに閉めると、店内をぱっと見渡し、カウンター席を選んで座った。ーーー杏子と席を1つ挟んで隣だ。



 「What would you like drink?」


 「I'd like to drink the wine.」


 「OK.」



 ワインを頼んだエルは隣に座る少女を視界の端に捉え、様子を観察する。


 髪色は金髪だが、染めたことが分かるようなアジア系の顔。恐らくは純日本人で、両親とは疎遠か、もしくは死別しているのだろう。でなければ()()()()()に幼い少女が属することに親が賛成するはずがない。


 櫻木杏子。12歳、女。学校には通っておらず、警察側から特別処遇として優秀な家庭教師を付けられている。その授業過程には戦闘についての学習も多く取り入れられており、対人戦闘の英才教育を受けている。

ーーー以上が、玲吾の集めたこの少女の情報だ。



(無邪気そうな顔…)



 オレンジジュースのグラスはテーブルに丸い水溜りを作っていた。



 「おねーサンさぁ」



 うずうずしていた杏子が好奇心に耐えかねて、明るく口火を切る。



 「美人さんだねぇ。黒髪きれー♡」



 愛嬌のある笑みをエルに向け、杏子は接近を図った。



 「…お名前聞いてもいーい?」



 杏子の探るような瞳にも動じず、エルは平然と笑みを返す。



 「勿論。零っていうの。榊原零(さかきばられい)。」


 「零ちゃんかあ〜かわいっ!」


 「貴女は?」


 「きゃはっ私はねぇ、杏子(きょうこ)佐野杏子(さのきょうこ)ね!」



 2人とも息をするように偽名を名乗る。


 エルは杏子(あんず)の偽りを把握した上で、小夜との約束通り「零」として接していく。



 「杏子(きょうこ)くん、榊原さんに迷惑をかけては駄目だよ」


 「はあい」


 「…杏子ちゃんのお兄さん?」


 「ううん、知り合い〜」



 杏子(あんず)はにっこりと枢に笑いかける。



 「常連なんですよ」



 枢は苦笑しつつ、他の構成員の様子を窺った。


 冬馬は零を視界の端に入れて黙っている。干渉しないつもりだろう。


 弥生は背中を向けてノートパソコンを弄っている。タイプが遅いので意識はしっかり零に向いているらしい。


 零をじっと見て酒を飲む弘人は何を考えているのか分からないが、冬馬と同じく不干渉でいるつもりのようだ。


 リズはカウンターでグラスに赤ワインを注いでいる。こう見るとちゃんとオーナーらしく見えるので、普段とは別人のようで面白い。


 とにかく枢に分かったのは、一般人に関わりたくない、そしてこの場では構成員同士出来るだけ他人だと認識されたい、と部下達が思っていることだけだった。



(杏子くん1人では重荷だろうなあ)



 特殊部隊S1班のこのコミュニティは、一般人に気安く知られて良いものではない。万が一現在置かれているような状況下になった場合は、ここにいる構成員がーーー杏子は年齢的に誰か大人と繋がりが無ければ面倒(というか問題)になるので、杏子と「杏子の保護者役」以外の構成員がーーー他人であるように振る舞わなければならないことになっている。


 今回、成り行きで杏子の「保護者役」になった枢は気を利かせて杏子のサポートに入ろうとしたが、杏子と零を再び見ると驚いて掛けようとした言葉を失った。



 「零ちゃんはさあっカレシいるの!?」


 「いないなぁ。いたらいいのに、とは思うんだけどね」


 「きゃはははっ零ちゃんみたいな美人さんなら何人いてもおかしくないのにねぇ!」



 枢の心配をよそに、杏子と零は女子トークに花を咲かせていた。


 杏子はその辺りにいる、昔で言う「ギャル」ーーー現在では死語ーーーさながらの様子(案外的を射ている)で、特殊部隊の要素など欠片も見せずに立ち回っている。


 枢がふと視線を感じて目をやると、冬馬がさりげなくこちらを見ていた。冬馬は素早く、口をぱくぱくと動かす。



『野暮はよせ』



(言われなくとも)



 枢が冬馬に向かって目配せをすると、冬馬は嫌そうな顔をしてワインのグラスを口もとへ傾けた。










エル「杏子ちゃんは好きな人とかいるの?」

杏子「うん!いるいる〜っ」

エル「どんな人?」

(耳を澄ませるS1班一同)

杏子「うーんとね、スラッとしてて、黒くって、強くてカッコイイのっ!」

エル「そうなんだ〜」

エル(多分ヒトではないな)

S1班一同(間違いなく愛銃のことだ)

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