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10年前の少女が泣いた  作者: 冷凍みかん
episode1: あと、365日が5回だけ
16/19

15

 







 弥生は、呆れて物も言えないとはまさにこのことだ、と心から感じた。


 いつどのような状況下に至ったかなど証拠が少なすぎて分かるわけもないが、とにかくその部屋には戦闘の痕跡がいくつか遺っていた。


 勿論それについては詳しく調べる必要がある。ーーーだがそんなことよりも。


 その荒れた部屋の、目の前のダブルベッドの上で、何故か自分の上司が寝ているのだ。少なくとも、先程までセラフを警戒していた人の行動ではない。というか本当に何があったのか分からない。


 とはいえ、このままにしておく訳にもいかず、弥生は嫌々枢を起こす。



 「高嶺班長…高嶺班長!」


 「…うーん……むにゃむにゃ」



 枢は弥生の呼び掛けに応じる代わりに寝返りをうって幸せそうな顔をこちらに向けた。



(ーーーイラッ)



 弥生は枢の隠す気もない寝た振りに大いに苛立ち、枢の頬をぎりぎりとつねって捻りあげた。手加減は無用だ。



 「痛いっ!痛いよゾノくん…!冗談だって…!」



 これには枢も堪らず起き上がって痛みを訴える。



 「高嶺班長、神崎さんがセラフを逃しました」


 「…!」


 「セラフはニコと名乗り、神崎さんの発砲を躱して逃走しています」



 枢は目を細めて声を低くした。



 「…死傷者は」


 「いません」



 弥生の即答に枢は小さく息を吐き出す。



 「結局何もせずに逃げていくなんて…本当に何が目的だったのか。ーーーこの部屋で何があったのかもとても気になりますが」


 「さあね」



 枢は弥生にニコニコと笑っただけで、先程のセラフのことを教えはしなかった。


 弥生のことだ、大方セラフとの交戦があったことくらいは予想がついているだろうが、枢の命が狙われていることを言ったところでどうにもならないと思ったのだ。


 高嶺枢はそういう男である。



 「ゾノくん」



 答えの代わりとでも言うように、枢は口を開く。



 「ここでは私が仮眠をとっていただけだ。いいね?」


 「……はい。そのように把握しておきます」



 弥生は露骨に溜息をついてから客室を去っていった。


 枢も弥生に続いて移動しようとベッドから立ち上がる。麻痺毒はぬけているようだ。


 荒れた部屋を見回していると、床に落ちている薬莢を見つけた。


 拾い上げて見ると、月明かりに照らされて美しく光り輝く。



(綺麗だ)









 ✧ ✧ ✧






 エルは驚いていた。


 何故か自分がソファの上で正座をさせられている状況に。


 何故か小夜が大いに怒っていることに。



「お分かりになりましたね?今後一切、高嶺枢とは関わらないで下さい!」


「え、でも仕事…」


「お仕事なら!」



 小夜はエルの言葉を遮り、自分の後ろで傍観している仁胡と慎司を半身振り返って示す。



「小夜や仁胡姉さん、慎司がやればいいだけのこと!それで不安ならお断りください!」


 小夜は決して、興奮から自分を見失っているのではない。彼女は至って冷静であり、その上で語気を強めて意図的にエルを威圧しているのだ。



「…それは駄目。高嶺枢は高いの」


「なら小夜たちに任せて、エルちゃんは他の仕事を受けてくださいね」


「けれど」


「それから、暫くの間、外出時は『(れい)』としてお過ごしください!」


「え、?」



 小夜の猛攻に半ば諦めを見せ始めていたエルも、これには違和感を示した。


「零」とは、エルが色素変化で黒髪のアジア系の人間に姿を偽ったときに使用する偽名である。


 つまり、小夜はエルに外出するときは必ず純人間に化けて行動するように言っているのだ。


 エルは通常、夜の外出では白銀髪のままで、軽くフードを被ったりしている。小夜はそのような不用心な行動をエルにとって欲しくなかった。



「いいですね」


「……、ええ」



 エルは珍しい小夜の静かな剣幕に押され、思わず承諾してしまった。


 この約束が後にエルの運命を大きく変えるとも知らずに。










あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします

ここで第1章が終了しました!読んでくださった方には感謝申し上げます

次話からは第2章が始まります

これからもあたたかい目で見守ってくださると幸いです

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